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ダンジョンで接客業をしているが、職場がまさに戦場でしんどい。  作者: 森口デコ
上司がクソビッ◯でしんどい
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第11話 人生の先輩としてのアドバイス

 ニナは左手首の腕時計を確認した。

 時刻は午後12時42分--、

 やはり三十分以上経ってしまっている。

 ティアラの泣き顔が目に浮かぶ。


 ニナがVIPルームへと急いで戻り、扉をノックしようとした時……。

 熱烈に抱き合う男女を、視界の端に捉えた。

 キワーノ王子と全身ピンクのマリネだった。

 人通りのない奥まった場所とはいえ、何とも大胆な行為といえる。


(若いな……)


 ニナは苦笑して、靴音を鳴らし二人に近づいた。しかし、全くこちらに気づく気配がない。


「ン、ンン……オホンッ」

 

 ニナが、わざとらしく咳払いをすると、キワーノ王子は慌ててマリネを自分から引き剥がした。


「殿下、大変お待たせ致しました。シルバーダンジョンの用意ができましたので、ご案内致します」


「ああ……、わかった」


 バツが悪そうな顔で身なりを整えるキワーノ王子に、マリネが、


「ちょっと、殿下。あの話はどうなってるの?」


「わかっている。だが、エール店長がいないことには……」


「店長って、さっきの変てこな子ども店長でしょ? 本当に私たちの亡命の手助けなんてできるの?」


「シーッ!」

 

 キワーノ王子は咄嗟にマリネの口をふさぎ、ニナを見た。

 ニナは、にっこりと笑顔で返す。


「先に部屋へ戻っててくれ」


 キワーノ王子がマリネに言った。


「ええーっ? 私は別にダンジョンなんか興味ないんだからね」


「いいから、早く!」


「ちゃんと話をつけといてよね、もう……」

 

 しぶしぶとVIPルームへと帰るマリネを、キワーノ王子とニナは無言で見送った。


 キワーノ王子はニナに向き直り、


「聞こえたな?」


「何のことでございましょう?」


「わかっているとは思うが、他言は無用だ」


「私どもが、お客様のプライバシーに干渉することはございません」


「……」


 それでもキワーノ王子が、ニナを疑いの眼で見ていると……。


「もうっ! 何なの、この扉!? 重すぎて開かないじゃない!」

 

 マリネがVIPルームの扉を足で蹴る音が聞こえた。


「少々お待ちください!」

 

 ニナが慌てて駆け寄り、扉を開けてやる。


「今日は何の日だか知ってる?」

 

 マリネはニナを睨みつけながら尋ねた。


「今日ですか? えーと、今日は……ジェットコースターの日?」


「違う! ジェットコースターの日は、7月9日!」


「えっ、そうなんですか?」


「知らないくせに、適当に言ったの!?」


「申し訳ございません……」


「今日はマリネと殿下が出会ってから128日目の記念日! 付き合い出してから15日目のダブル記念日なのっ!」


 ニナは固有スキルの〝知るか、ボケ!(ビジネススマイル)〟を発動する!


「不勉強なもので、申し訳ございません」


「それなのに、この店ずっと最悪なんですけど!」


「申し訳ございません」


「本当にちゃんとしてよね、もう……!」

 

 マリネはブツブツと文句を言いながら、部屋へと入っていった。


 それを頭を下げて見送ったニナは、キワーノ王子の元へ戻るなり、


「あの、亡命もさることながら、あの子はちょっとやめといたほうが良いんじゃないかと……」


「干渉しないんじゃなかったのか!?」


キワーノが、ぎょっとして叫んだ。


「あ、いや……」


「それに他言無用だと先ほど言ったばかりだが?」


「も、申し訳ございません」


 ニナはしどろもどろになって頭を下げた。


「ニナは、口が軽いタイプであろう?」


「違います!」

 

 ニナは背筋を伸ばして、口を真一文字に結んだ。


「どうだか……」

 

 厳しい表情のキワーノ王子を、ニナは息をのんで見まもるしかなかったが、

 しばらくして……。


「……やっぱり彼女はダメなのだろうか?」

 

 キワーノ王子がポツリと呟いた。


「はい?」


「マリネのことだ」


「えーと、まあ、ダメと言いますか……」


「やめておいたほうが良いと言ったではないか」


「お二人で駆け落ち同然の亡命を考えているということですよね? そうなれば、お父上である国王陛下はとても悲しまれるでしょう」


「では、別れろと言うのか?」


「恐れながら、二人の仲が認められるように、まずはきちんと話をされるのが筋かと思います」


「それは無理だ。わかるだろう? 身分が違いすぎる」


「その身分を捨ててまで一緒になったとしても、後悔することになりますよ。どうせ、すぐに別れるんだから」


「え?」

 

 キワーノ王子が不審な顔になり、ニナはハッと口をつぐむ。

 調子に乗って喋りすぎたことに気づく。


「……申し訳ございません。余計なことを言いました」


「身分も違う。マリネ自身にも問題があるかもしれない。ただ、余とマリネは確かに愛し合っているのだ」


「それは幻想(ファンタジー)でございます」

 

 舌の根も乾かぬうちに、ニナははっきりと言った。


「……ニナよ、そなたは先ほどから少し悲観的過ぎやしないだろうか?」


 キワーノ王子は、うんざりとした様子だった。


「恐れながら、私も人生の先輩としてアドバイスを、と」


「人生の先輩としてか……ニナもいろいろとあったのだろうな」


 キワーノ王子は、腕を組んでしばらく思案した後、


「--うん。ニナには悪いが、やはり余は行くことに決めた。マリネと一緒に堂々と城の外に出られるなんて、こんなチャンスは他にないからな」


「シャトー☆シロにお越しになったのは、そういう理由からだったんですね。あとの二人、ロマネスコ様とリーフ様はこの事を知ってるんですか?」


「あの二人には言っていない。それと、ここに来た一番の理由はエール店長だ」


「そういえば、エール店長が亡命の手助けをしているというのは本当なんでしょうか?」


「ああ、その界隈では有名だ。金さえ払えば、誰でも、どこの国へでも引き受けてくれるそうだ。エール店長の顔の広さはワールドワイドらしい」


(あのバカ店長、そんな副業までやってたの……。シャトー☆シロは国王の後ろ盾でもってるようなものだというのに)


 もし、この闇のサイドビジネスが国王にバレたらと思うと、ニナは気が気でない。


「それ故に、エール店長と話がしたいんだが」


「店長は、その……持病が悪化しまして連絡がとれない状態なんです」


「さっき、いたではないか」


「それが……、発症すると寝食も忘れて男漁りを繰り返すという謎の奇病でございまして……」


「それはまことか? 病気というより、魔物にでも取り憑かれたのではあるまいか」


 うーん、ほぼ正解!

 このように賢明な皇太子殿下がいなくなってしまうのは、この国にとって多大な損失である。


「殿下、今はとにかくシルバーダンジョンに参りましょう。その間に、私が責任を持ってエール店長を捕まえておきますので」


「わかった……。頼んだぞ」


「ただ、亡命の件については、もう一度よく考えてみてください。そのような結論を出すには早すぎるかと存じます」


「……わかった」

 

 キワーノ王子は、ニナの諫言(かんげん)を真摯に受け止めたようだった。

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