プロローグ
時刻は午前十時過ぎ。
会員制トライアルダンジョン〝シャトー☆シロ〟の看板人形〝勇者ポールくん〟が、澄み渡る空の下、今日も勇ましい立ち姿で客を出迎えていた。
訪れた新米冒険者が、大理石で作られたアーチの脇に立つそれを見て、
「何ですか、あれ?」
と聞く。
「さあ。なんか腹立つよな、あれ」
隣にいた先輩冒険者が答えた。
等身大のくるみ割り人形のような〝勇者ポールくん〟は、目つきが悪く、ふてぶてしい面構えのため客からの評判はすこぶる悪かった。
先輩冒険者は肩をぐるぐると回す。
「んじゃ、行くか」
「そうですね……」
新米冒険者は少し緊張しているようだった。
「どうした? 俺は何回もここに来てるんだから、任せとけって」
「いや、僕はダンジョン自体が初挑戦ですし」
「だから、そのためのトライアルダンジョンだろ? 安心安全。何も心配いらないよ」
「そうですね」
「俺だって、もし天然のダンジョンだったらこんなに平然とはしてないさ。ていうか、俺も天然のダンジョンには、まだ行ったことないし」
「でも、シャトー☆シロって本当に評判良いですよね。リアリティのあるダンジョンであることはもちろん、天然のそれとはまた違った魅力もあるとか」
「それに、シャトー☆シロのウリは他にもあるからな」
「『もう天然ダンジョンへは行かせないっ!』の広告でおなじみの名物ロリ店長ですね。先輩も一推しの」
先輩冒険者は大きくうなずく。
「そうそう」
「あれ、本物の店長なんですか? ちょっと信じられませんが……」
「スーパー童顔なだけで、もう良い大人なんだよ。自称五百十四歳」
「五百十四歳? どういうことです?」
「とにかく完全な合法ロリだっていうことだよ」
「へえ……いや、わかりません」
「いいから、早く行くぞ」
アーチをくぐると、緩やかな歩道がシャトー☆シロの正面玄関へとつづく。
「だから、早く店長を呼べって言ってるの!」
正面玄関を入ってすぐに聞こえてきた大声。二人が声のする方を見ると、ミニスカメイドが十数人の男達に囲まれていた。
黒色のミニのワンピースにエプロンドレスという服装に、新米冒険者は少しドギマギして、
「シャトー☆シロの店員さんですよね? みんな、あんな格好をしてるんですか?」
「最高だろ?」
「最高って何がですか? ……あれは、何をやってるんでしょう?」
「あー、客でもない、店長の雑魚ファンが押しかけて来てるんだろ。珍しくない光景だよ」
「ええっ?」
「きっと、お前にも推しの店員さんが見つかるさ」
先輩冒険者は、まるで自分の手柄かのようにドヤ顔を決めた。
「もしかして、シャトー☆シロに誘った目的はトライアルダンジョンじゃなくて、そっちなんですか……?」
だが確かに、そこに見える店員さんは、とても美人だった。金髪ショートの髪型は、明るく活発な印象を与える。スレンダーな体型に、きびきびとした振る舞い。新米冒険者にとっては名物ロリ店長なんかより、よほど好みだった--。