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第2の刺客

 

「おめでとう眉月君、今日もご指名が入ったよ」


「指名ってキャバクラみたいだな。それともホスト?」


「今日もまゆちゃんと一緒に帰って貰いたいの。反論は許しません。シュッシュッ!」


「なぜシャドウボクシングしてるんだ?断ったら殴られるのか俺?」


 シュッ!と清水さんの右拳が眉月透和の鼻先1cmで止まる。うん、いい右ストレートだ。世界を狙えるよ。


「……ねぇ、眉月君って何か格闘技でもやってたの?私のパンチに瞬きもしないで見切ったように動じなかったけど」


「なんだよその格闘家同士の会話みたいなの。習い事なんて何もやっていないよ。でも清水のアニキは空手の有段者だよね」


「うん一応黒帯……待って!……アニキってマジで呼ぶの!?」


「マジマジ」


「シュッ!シュッ!シュッ!」


 一呼吸で三連の正拳突きが眉月透和の顔面に飛んできたがそれを全て避ける。


「チッ、よく避けたね」


「せめて寸止めしてくれ」


「余裕で避けといてよく言うね」


「焦ったよ。必死で避けたよ。ギリギリだったよ。ナニしてんのさ朝の教室で。クラスのみんなが見てるよ」


「……で、私のお願いは聞いてくれるのかな?」


「反論は許さないって言っておいて……わかったよ、今日も中柳さんと一緒に帰るよ。清水のアニ……」


 スパーン!!!


 清水さんの右拳が眉月透和の頬をかすめた。焼け焦げた匂いと煙が立ち上った。


「……オーケー、清水さん」


「ありがとう眉月君」


 にこやかに笑う清水さんは拳を引いた。クラスのみんなも二人にひいていた。





 放課後


 今日も2人で一緒に下校する眉月透和と中柳まゆ。そんな2人を見送る清水さんの足下には田中達の屍が転がっていた。


 無言で歩く2人。並んで歩いているが2人の間隔は相変わらず人一人分空いている。


 中柳まゆと一緒に帰る理由を考える。そんなのわかりきっているが。男性恐怖症を克服するために付き合わされているのだ。自分はその当て馬なのだと。だからといってそれが嫌なのではない。眉月透和も本音をいえば協力することに、手伝うことに賛成なのだから。


 問題は別にある。


 それは、眉月透和が中柳まゆに本気で惚れてしまう危険があるから。


 いや、既に結構、心は傾いてはいるが。


 この依頼は惚れてしまったら、恋愛感情を持ってしまったら務まらない。中柳まゆに対して冷静に接する事が出来なくなるから。

 しかし眉月透和は普通の年頃の男子高校生。彼女が欲しい年頃。こんな可愛い女子に名前で呼ばれただけで頭の中がピンクになるチョロインなのだ。


 だから今の眉月透和は、隣を歩く中柳まゆを意識しないように一生懸命に素数を数えている。






 ……だが10分後には限界が来た。


 隣を歩く中柳まゆは顔を俯いているが耳まで真っ赤っか。気まずさを感じてしまった眉月透和も既に素数を数える余裕もない。


 必死に頭を働かせる。考えろ……考えろ。今この場で中柳まゆが安心出来る話題を……共通の話題を。知恵を振り絞って出した答えは、天気の話しかない。


「き、今日はいい天気ですね……」


 中柳まゆが眉月透和より先に話を振ってきた。あの中柳まゆが、男性恐怖症の中柳まゆが。

 きっと眉月透和と同じ事を考えていたのだろう。そして勇気を振り絞って声をかけたのだ。

 ふと目頭が熱くなる。明日は清水さんに報告しなければ。中柳まゆは頑張っていると。そしてその勇気に応えなければ。


「そうだね……」



 会話終了。



(そうだね、じゃねーだろ!中柳さんが頑張って話を振ってくれたのにアホか俺は!)


(うーーー、失敗したよ。そうだよね、天気の話なんかつまらないよね……)


 額に手を当て反省のポーズをとる二人の眉間にはシワが寄っている。


 今度は俺が勇気をだす番!と言わんばかりに覚悟を決めた顔で、


「中柳さんは普段友達とどんな話をしてるの?」

(よし!これはうまいぞ、中柳さんの興味のある話がわかるし!)


「世間話……かな」



 会話終了。

 


(世間話って……これはあれか、話しかけないでっていうサインなのか?それとも本当は友達に興味がないとか?)


(何で私は世間話って言ってるの!ち、違うの!学校の話とか授業のわからないところの話とか友達の事とかをひとくくりにしたら世間話って簡略しちゃっただけなのー!)


 側頭部を両手で押さえながら悶え苦しみ二人。しかし、再び無言の時間が二人を支配するのは断固避けたい!だって気まずいから!すごく気まずいから!!


 再び眉月透和が勝負をかけた!


「こ、今年はどこが優勝するかなぁ?」


「え、何が?」


「猫って可愛いよね!」


「私、猫アレルギー」


「俺、a◯なんだー」


「私ソフト◯ンク」


「俺、生命線長いんだー!」


「そうなんだ」


「俺、寅年でさー」


「私も」


「だよねーって、なんだよこの会話!中柳さん会話する気無いだろ!いや、俺の内容もどうかと思うけどさ!」


「ご、ごめんなさい!だって今の会話の中で特に興味深いものが全く無くて……」


「うん、ごめんね!俺こそごめんなさい!俺のチョイス本当酷いな!」


「ち、違うの!私、男の子とお話しした事が殆んどないから上手く喋れなくて!だから透和君は悪くないの!」


「いや、どう考えても俺が悪いだろ!なんだよ寅年って!同い年なんだからそりゃ大半は同じだろ!馬鹿か!馬鹿か俺は!」


「透和君は悪くないよ!私がもっと上手く受け答え出来ていれば……『へぇー偶然だね、私も寅年なの』ってちゃんと言えてれば話が弾んで上手くいったのに!」


「絶対上手くいかないから!その気遣いが余計に傷付くからね!」


「き、傷付けるつもりはないの!私はただ、透和君と話がしたくて……」


「……話してるよね、俺達」


「……あっ!」


「……」


「……」


「結構、簡単に話が出来るな」


「そう……だね」


「俺達多分考えすぎたんだよ。相手に気を遣いすぎちゃってさ」


「……うん」


「だからもう少しだけ肩の力抜こうぜ」


「うん、ありがとう透和君」


「え、何が?」


「だって透和君が誘導してくれたんだよね。こんな風に話をしやすいように」


「それは違うって。中柳さんが頑張ったからさ。努力の成果があらわれたのさ。頑張って俺に話しかけてきたから」


「……うん。でもね、やっぱり透和君のおかげだよ。だからありがとう」


「……頑張ったな、中柳さん」




 それから中柳邸までまた無言で歩く二人。だが二人の表情に気まずさは無く、頬を上気しどこかやり遂げた満足感が溢れていた。





 中柳邸にて、中柳まゆを見送りその場を離れようとする眉月透和は、ポケットからスマホを取り出し時間を確認、ついでにミラーモードに切り替える。先程からただならぬ気配がする方に鏡越しに視線を移す。前日と同じ自分の背後の電柱の陰に。


(おいおい、今日もかよ。どれだけ狙われてんのさ中柳さん……)


 眉月透和は振り向かずにその場を去る。


 しかし標的は意外にも中柳さんではなく、眉月透和の後を追ってきた。






 緑地公園にて、眉月透和を見失った男は辺りを警戒した。男は身長180cm前後の筋骨逞しい体格の中年の男……体を鍛えているのだろうがそれは筋トレで鍛え上げた体つき。


 眉月透和が男の背後に忍び寄った。


 周りに人が丁度いない間をついて、相手に気付かれないように、そして男の太い首に、延髄に手刀を打ち込んだ。そのまま意識を失い倒れ込む男。


 眉月透和は素早く男のポケットからスマホに財布と身分がわかるものを手に取る。財布の中には免許証が入っていた。名前は……『中柳雅隆なかやなぎまさたか


(中柳!?まさか……)


 財布には写真も入っていた。写っていたのは中柳雅隆本人と、中柳まゆが……










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