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中柳まゆと清水さん

 

「『絶対幸せになってくれよな』って言われたの」


「ブハァッ!?」


 現在の時間は午後9時を回った頃。どしゃ降りだった雨は今は少し落ち着いていた。

 有志を集めての、中柳まゆのサプライズバースディ会議を終えた清水さんは、眉月透和と一緒に帰った中柳まゆが心配で電話をした。

 無事に帰れたのか、変なことされなかったか……眉月透和のことは一応信用している。信用しているが彼は一度やらかした事があるから。女装でお見舞いなんて危険度の高い案件だ。


 そして清水さんの想像通り、眉月透和はやらかした。

(なんだよ幸せになってくれよなって!プロポーズか!付き合うを通り越してプロポーズか!)


「私、男の人にそんな事言われたの初めてでビックリしちゃった」


「落ち着いてねまゆちゃん!駄目よ!結婚なんてまだ早いから!私達はまだ高校生なんだから……」


「結婚?何で?私は透和君に『幸せになってくれ』って言われただけだよ」


「……あ、そうか。『幸せにする』って言われた訳じゃないんだよね。あはっ、ビックリしちゃった。ゴメンね早とちりだったよ」


 そっかそっかと冷静になりかけて……やっぱり違う!と思う清水さんだった。高校生同士の会話でそんなワードでねぇよと。


「中学生の時に告白された内容で『幸せにするから』とか『幸せになろう』って言われたことあるんだけど……」


「あるんだ、まゆちゃん……」

(もう少し告白のセンスどうにかならなかったのか!当時の男子中学生達は……)


「でもね、決まって『一緒に』とか『二人で』って言われたんだよね。何で人数に限定されるのかな?」


「……なんでだろうね」


「うん、まるでみんなが不幸になっても私達だけは幸せにって言われてるようでいつも違和感を感じたんだよ」


「そういう意味じゃないと思うよ、まゆちゃん」


「私ってみんなから不幸って思われてるのかな?」


「違うから!違うよまゆちゃん!!よし、明日眉月君を殴るから!だから気にしないでいいんだよ!」


 ギリギリと拳を握りしめシュッシュッとシャドウボクシングをする清水さん。


「いい人って言われたの」


「えっ、なんて」


「いい人だから幸せになってって言われたの。透和君に」


「うん……」


「私がいい人かどうかわからないけど、でもね、なんか負けるなって言われてる気がしたの。男性恐怖症に負けるなって。励まされたような……」


「うん……」


「だから私、頑張るね」


「うん!頑張ろうね!私も協力するから!」

(ちくしょー!可愛いなぁまゆちゃんは!天使か!天使なのか!)


 清水さんは別に百合ではない。だけど中柳まゆに対しては特別な感情を抱いている。かなり重めの愛情ではあるが別に恋愛感情ではないのでセーフ。だって二人は親友だから。だから今も興奮のあまり鼻血を出していてもセーフなのだ。


 そう、二人は中学時代からの大親友。


 いつも中柳まゆに近づく害虫を追い払うのは清水さんの役目であった。時には壁になり、時には腕力で殴り飛ばしたり。


 中学一年生は同じクラスだったのでそれで通じた。しかし、別のクラスになった中学二年生からは中柳まゆに対するアタックが熾烈化した。まるで群がるゾンビ達の如く。だかそれは教師陣の活躍で防衛網を築けた。

 ひと安心も束の間、今度は教師が中柳まゆにストーカー行為を働きやがった。しかも清水さんはその事実にすぐには気付かなかった。相手が教師なだけに中柳まゆは誰にも相談出来なかったのだ。間一髪でストーカー教師は社会的死の制裁を喰らったが。


 それから中柳まゆの男性恐怖症はいっそう酷いものになった。


 中学3年生は同じクラス(教師陣を脅して)になったのでいつも側にいた。それでも隙をみて告白する男子達はあとをたたなかったが。


 中柳まゆが男性恐怖症なら、清水さんは男性不信である。


 何度も何度も中柳まゆに告白しようとする男子たちに頭を下げてお願いをした。告白はやめてと。男性恐怖症が治るまで待ってくれと。

 しかし男子達は、自分の気持ちに嘘はつけない!とか、俺の愛で男性恐怖症を治してみせる!とか何の根拠もない自信をぶつけては、中柳まゆの心の傷を悪化させた。もちろん先走った男達は鉄拳制裁の刑にしたが……


 清水さんは男性不信から男嫌いに進化した。


 高校受験の志望校では当初名門私立の女子校を希望していた中柳まゆは、急にワンランク下の共学の高校に変えた。一緒に女子校に行くために猛勉強していた清水さんは驚いたが、「男性恐怖症を治したい」と言った中柳まゆを見て気付いてしまった。

(私の成績ではまゆちゃんと同じ女子校には行けないかもしれない。それに私立の高校はあまり裕福ではない私の家ではキツイかも……)

 そんな清水さんの事情に気づいた中柳まゆが、清水さんのために志望校を変えたのだ。清水さんと一緒の高校に通いたいために。


 清水さんは思うのだ。中柳まゆは大親友で、いい人なのだと。





 高校生になって中柳まゆは頑張っていた。


 クラスの男子に声をかけようと。せめて挨拶ぐらいは出来るようになろうと。まあ成功しなかったけど。

 清水さんも協力した。そして見所のある実験体を見つけた。


 それが眉月透和である。


 最初は中柳まゆには興味を持っていなかった彼も徐々に中柳まゆの虜になりかけてた。だが、下心を表に出すことはなく、それどころか紳士な態度で接してくれた。今までの自分勝手な男子共とは違う。それにどこか自分に似ている気がしていた。


(いい人だから幸せになってくれか……うん、わかるわ)


 中柳まゆから聞いた眉月透和のセリフには共感できた。


「……ねぇ清水さん、聞いてる?」


 少しトリップしていた清水さんは気を取り直して中柳まゆの電話に応じる。


「ごめんね、何の話だっけ?」


「だから、今日は透和君と少し話せたからね、だから……」


「だから?」


「……明日も透和君と帰りたい……かな」



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