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透和君

 洗面所を借りて化粧を落としカツラを持ってきてた紙袋に入れる。男子の学生服に着替えて再び中柳まゆの部屋にお邪魔する眉月透和。


「清水さん、制服は洗って返すよ」


「いやいいよ!自分ちで洗うから!持って帰らせないよ!」


 引ったくるように眉月透和から制服を奪い取る清水さん。たとえなんとも思っていない相手でも、親切心からでも、女装して一発ギャグに使う相手に自分の制服は託せない。


「信用ねぇな……」


 だいたいほとんど接点のないただのクラスメイトの女子から制服を借りて、あまつさえ着てしまう男に信用などあるわけがない。いや、貸してくれた清水さんが大物なのだ。


 チラッと中柳まゆを見る。顔を半分出した状態で布団をかぶりベッドの上に座っている。顔は赤いが眉月透和を怖がっているのではなく、馬鹿笑いしたのを見られて恥ずかしそうにしている。


「まあこんな感じで怖い男ばかりじゃないから。俺みたいに馬鹿なヤツもいるんだよ」


 これが短い時間で考えた眉月透和の作戦であった。恐怖に勝るもの、それは笑いだと。笑いで恐怖を塗り替えようとしたのだ。全ては中柳まゆを安心させるために。


「いやじゅうぶん怖いからね!部屋に女装した男がいる時点で!まゆちゃんに男性恐怖症から人間不信にまで堕ちるレベルだよ!」


 清水さんは怒っていた。それはもう腹の底から。だけど


「清水さんも笑ってたよな。俺の顔見て」


 すっと目を反らす清水さん。


「ありがとう眉月君。私のために女装までしてくれて」


 布団から顔半分だけのぞけてる中柳まゆは感謝を口にした。いまだに顔が赤いけどもうそれは布団のせいではないのか。かなり暑そうだ。


「でも女装は……趣味じゃないよね?」


 どうやら疑われているらしい。安心させようと女装したのだか変な趣味持ちと怪しまれているなと自覚した眉月透和。


「生まれて初めてスカートを履いたけど、女子って凄いな。なんかスースーして気持ち悪かったよ」


「うん、本当に目覚めないでよね。眉月君は美形じゃないんだから」


 美形なら女装はオッケーと言っている清水さん。この人は結構口が悪い。


 咳払いして再度中柳まゆに声をかける。


「中柳さん、体調とか問題ないなら学校に行こうよ。もし俺が嫌なら近くに寄らないし声も掛けないから。それでも駄目ならまた女装するから」


「本当に目覚めてないよね!?」


「また清水さんの制服を借りて……ね」


「オイ!」


「そうか、清水さんが男子の制服を着て……それでならしていくのはどうかな?男女逆転?」


「私を巻き込むな!なんだよ男女逆転って!」


「清水さんって男子の制服似合いそうだよね」


「褒め言葉じゃないよね?悪口だよね?ケンカ売ってるよね!」


「プッ、フフフフ、もうやめて。また笑いすぎてお腹が痛くなっちゃうから」


 布団に顔を埋めて笑い声を我慢している中柳まゆ。


「ごめんね、二人に心配かけて。私学校に行くよ。うん、もう大丈夫だから」


 明るい声なのが逆に心配になってしまう。まだ無理をしているのではないかと。そんな不安そうな二人の表情に気づいたのか、


「大丈夫だから。だってクラスには清水さんもいるし、それに……眉月君もいるから」


 微笑みが眉月透和の心にグサッと突き刺さった。この破壊力……なるほどモテる理由がわかったと得心する眉月透和。


 少し長居をしたかなと思った眉月透和は帰る旨を二人に告げる。あとは清水さんに任せてもいいだろう。自分の役目はここまで。とんだピエロだったが。


「待って眉月君」


 中柳まゆがドアに向かう眉月透和を呼び止めた。


「眉月君、眉月君の事、今度から透和君って呼んでもいいかな?」


「……なんだって?」


 いきなり名前呼び、しかもクラスの美少女で自分を怖がっていた相手から……軽い混乱をおぼえた。


「だって眉月君は男子から『マユ』って呼ばれているでしょう。私も友達からまゆって呼ばれているから。せめて私は『透和君』って呼んだらまぎらわしくないかなって」


(なるほど、ワケわからん。だって結局周りから俺達は『マユ』って呼ばれるのだから。だったら男子は俺の事『眉月』て呼ばせればいいのでは……)


「なるほどね、『眉月君』から『透和君』をみんな浸透させるか……そうすればみんなもいずれ『透和君』って呼ぶかも。眉月君もみんなから『マユ』って呼ばれるの嫌でしょ」


「それはそうだけど……うーん、どうかな?なんか『透和』ってみんな呼びづらそうだから簡単には」


「駄目かな、透和君……」


 背筋に電流が流れた。くすぐったい気持ちとドキドキな気持ちが妙に心を騒ぎ立ててくる。


「透和君……」


(あぁ、この子は・・・中柳まゆは天然だ。天然のタラシなんだ。そりゃおちるわ。男なんて簡単におちるわ、勘違いするわ!)


「……ん、別にいいよ。中柳さんがいいなら……」


 わりと自然にクールに答えたはずと思っていたが清水さんから冷たい視線を感じた。


「ありがとう透和君」と嬉しそうに言う中柳まゆ。


「じゃあ私は眉月君の事を『変態』って呼ぶね。それとも『女装』がいいかしら。もしくは『チョロイン』で」


「全部悪口じゃねぇか!清水さんは普通に呼べよ!」





 彼の名は眉月透和。


 伝説の殺し屋「ブラックライトニング」の記憶を持つ男である、






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