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ファーストコンタクト

 眉月透和まゆづき とうわ中柳なかやなぎまゆの出会いは特別なものではなかった。


ただのクラスメイトなのだから。



 高校生になって1ヶ月が経った頃にはクラスでの呼び方が謙虚に変わる。眉月透和の場合は『眉月』、『眉月君』。親しくなった友人からは『マユ』と呼ばれるようになった。

 中学時代からそう呼ばれていたので違和感等は感じないが、ふざけて『マユちゃん』と呼ばれたら睨みつけて威嚇ぐらいはしていた。


 ある日、『マーユちゃん』と女子に呼ばれて思わず『はぁー!』と怒気を込めた返事をぶつけた。すると驚く2人の女子がこっちを見る。そして気づいてしまった。勘違いしたしまったことに。


 自分が呼ばれたのではなかったのだ。『マーユちゃん』と呼んだ女子は自分にではなく、『中柳まゆ』に向けて呼んでいたのだ。


 すぐに立ち上がり頭を下げて謝罪する。『マーユちゃん』と呼んだ女子、清水さんは笑いながら許してくれたが、もうひとりの『マユ』である中柳まゆは顔面蒼白になりながらガタガタと震えていた。そして踞って泣いてしまった。


 中柳まゆの周りに数人の女子が集まり慰めている。男子達は「泣ーかした泣ーかした♪」と眉月透和をからかい半分で責めていた。


 うるせーお前らは小学生か!と男子達に向かって怒鳴るが、流石に中柳まゆには悪いことをしたと思って平謝りを続けた。


 だが予想以上に深刻な事件になってしまった。このあと中柳まゆは女子に連れられ保健室に、そして早退したのだ。


 それから次の日も、その次の日も学校を休んでしまった。


 クラスでは誰も眉月透和の事を責める者はいない。いないのだが、それが余計に自分の非を、罪を植え付けられてしまう。


 中柳まゆが休んで4日目の、金曜日の放課後、眉月透和はついに覚悟を決めた。清水さんに頼んで一緒に中柳まゆの自宅へ御見舞いに向かったのだ。


 道中で清水さんから中柳まゆの現状と、昔話を聞いた。


 中柳まゆは極度の男性恐怖症なのだと。そしてその原因は彼女の中学時代にたくさんの男子から告白されたからなのだと。


「モテすぎて男が怖くなったのか?」


「まゆちゃんはね、スッゴクモテたのよ。上は先生から、下は後輩からね」


「先生って・・・マジか?それはいろいろマズイだろ。その、倫理的にも」


「まゆちゃんっておとなしくて可愛いから、こう守ってあげたいっていう庇護欲にかられるのよね。だから結構強引な男共が寄ってきてね、怖い思いもしたのよ」


「それは……災難だったな。でもだったら何で共学なんかに来たんだ?」


「いつまでも男が怖いままじゃいけないと思ったのよ。これからの自分の人生の為にもね。入学してからそれなりに頑張って上手くいってたんだけど眉月君に怒鳴られてからね……」


「トラウマがよみがえったか……(身構える暇もなく、心の準備もない状態でいきなり俺なんかに怒鳴られたら……)」


「でも正直全然怖くなかったからね眉月君の怒った顔。逆に私笑っちゃったからね。あの変顔に」


「え、変顔!?俺の怒った顔が!?」


「だけど、変顔あんなのでもまゆちゃんにとってはショッキングだったのよ。ここまで重症だったとはね、私も油断してたよ」


 自分の怒った顔が変顔だった事実も眉月透和にとってはショッキングなのだが。


「だから眉月君は変に責任感じなくてもいいよ。それに御見舞いもね。きっとまゆちゃん怖がると思うし」


 そうは言われてもやはり責任の一環は自分にある。それにこのまま学校を休まれるのも気分の良いものではない。


「なぁ清水さん、ちょっと提案があるのだけど、協力してくれるか?」


 眉月透和は覚悟を決めた。





 ノックをして中柳まゆの部屋のドアを開ける清水さん。中柳まゆはパジャマ姿でベッドに座っていた。ラインで清水さんが来ることは知っていたので驚きはない。


 だけどいつもと表情が違う。前回御見舞いに来てくれた時は心配そうな顔をしていたのだが今回は、困ったような、呆れたような表情を向けてくる。


 清水さんの後ろからもう1人部屋に入ってきた。


 女子……女子?女子なのか?確かに制服は清水さんと同じ女子の制服を着ているが、確かに髪はおさげだけど……よく見たらすぐにオモチャのようなカツラだとわかる。顔はもう化粧とはいえないぐらい白粉をふんだんに塗って口も赤く……塗りすぎでしょう、まるで水性ペンで書きなぐったような。


 まるで芸人のコントに出てくるかのような格好をした男が口を開いた。


「中柳さん、間違えて怒鳴ってしまってごめんなさい!」


 呆気にとられた中柳まゆはその怪しい人物が眉月透和とやっとわかった。わかったけどわからなかった、何故そんな格好をしているのか。


 尋ねようとした。尋ねようと口を開いた。だけど口から出たのは質問ではなく、


「ワハ、ハハハ……ハハハッ」


 笑い声だった。


 お腹を押さえながらおもいっきり笑っちゃった。笑ってはいけないと思い再び質問をしようとして眉月透和の顔を見て、また吹き出した。もうすぐには止まりそうもない勢いで笑った。


 普段から想像出来ないくらいの勢いで笑う中柳まゆを見た眉月透和は隣の清水さんと目が合い……「ブハッ!」と笑われた。


 笑っていないのは真面目な顔した眉月透和だけだった。






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