プロローグ
雑居ビルが建ち並ぶオフィス街のとあるビルの屋上に1人の男がいた。
闇夜に溶け込むような黒い格好は、中学時代に購入した黒いコートに黒いブーツ。高校入学を期に封印した痛々しい想い出の品を纏う姿は昔の自分が見れば心が疼くだろう。
手にしている物はスナイパーライフル。残念ながら本物。銃刀法違反で捕まるレベルだが今の彼は気にしない。何故なら彼は今は狩人だから。
ライフルを構えスコープを覗く。狙う獲物は500メートル先のマンション六階左端の部屋。ベランダの柵にもたれながらスマホで電話をしている男子高校生。
深呼吸をする。呼吸を、心臓の鼓動を集中しリズムを合わせる。
たかが500メートルの目標。『彼』なら狙いを外すことは決してない距離。だが『自分』はどうだろうか。初めての、しかも真夜中の狙撃。記憶にある体感との誤差をどれくらい調整出来るか。
無音の世界に入った。それは集中力の研ぎ積まされた世界。聴こえるのは自分の心音と呼吸が重なった音だけ。トリガーにかけた指がリズムをとる。
ワンツー、ワンツー。
トリガーを弾いた。
銃声は静かに。発射の反動で右肩に重い衝撃がかかるが想定内。
弾丸が闇夜を駆けぬけ男子高校生の手元に、スマホに擦った。ハズレてはいない。狙い通り。男子高校生の手からスマホがこぼれ落ちる。ベランダの柵を越え、闇夜の奈落に真っ逆さまに落下。
急ぎ次弾を装填、2射目をを発射。落下中のスマホに命中。木っ端微塵に砕ける。
焦った様子でベランダの下を覗き込んだ男子高校生は急いで室内に戻る。落ちたスマホの安否を確認するために。
銃をばらし鞄の底に詰め急いで屋上をあとにする。階段を降り近くに停めてあったマウンテンバイクを漕ぐ。
ターゲットのマンション駐車場にて修復不可能な程に粉砕されたスマホを確認。
マンション出入口から走ってくる男子高校生を視認してすぐにこの場から走り去る。
夜風を駆け抜ける彼の心にミッションクリアの文字が浮かんだ。今回も無事終了。
今回も『彼女』を守れた。
愛しの『彼女』を守れた。
そしてこれからも『彼女』、恋人の中柳まゆ を守っていくのだと。
『彼』の名は眉月透和。
伝説の殺し屋『ブラックライトニング』の記憶を持つ高校生。
今日も彼女の平穏を守るため、クラスメイトのスマホに隠し撮りされた彼女の写真を抹消するために闇夜を駆ける。
「くそ田中のスマホ粉砕完了。残りは矢口と佐々木の盗撮ヤロー達。ウオーーーーー!」
最愛の彼女を守るため、今夜も彼はマウンテンバイクに乗り走り出す。