グレスク町
日が落ちる前に何とか辿り着いたのはクロナン辺境伯爵領第二の町グレスク町。
森に最も近いため木の実、果物、薬草採取、動物はては魔物を狩る事を仕事としている人が多く、それに合わせて宿屋、飲み屋、鍛冶屋、雑貨屋など様々な人々が集まっている。
馬車に乗って町長の屋敷に向かう。途中の町中はとても賑わっており、時間的にも今から騒がしくなっていくのだろう。
町長の屋敷に着いた。大きい。大きいだろうなぁとは思っていたけれど想像以上に大きい。
行政や治安など町を統べる全てがここで行われているからこの広さが必要なのかな。
門はタクトさん達を見た門番がすぐに開けてくれた。
玄関まで進み馬車を降りる。
連絡がしてあったようで執事と思われる人が待っていた。
「お帰りなさいませ。タクト様」
「ただいま。叔父上はいるかな」
「はい。執務室でお待ちです」
「ヨーコさん、サーヤさん、ここの執事のラインさんだよ」
やっぱり執事だった。細身だけれど鍛えられているのが見た目でわかる。
「ラインと申します。よろしくお願い致します。ヨーコ様、サーヤ様」
「よろしくお願い致します」
頭を下げられたので私も慌てて挨拶をする。
「ヨーコさんとサーヤさん、それと団長も一緒に来て」
「団長?」
タクトさんの言葉に被せてしまった。
「護衛に偽装してたから名前で呼んでたけれどサントロさんは辺境伯騎士団の騎士団長なんだよ」
『それで盗賊が顔を見て襲わないって言ったんだ』
キャトリさんがクロナン辺境伯爵には特別に自領の騎士団があり自治が認められてると教えてくれた。王都の騎士団は人間相手だけれど辺境伯騎士団は魔物や盗賊、凶暴な動物を相手にしているから辺境伯騎士団のが強いのではないかしら。と言っていた事を思い出す。
サントロさんは年長なだけあって他の護衛の人よりも気を使ってくれて話しやすかったから休憩の時によく話をした。
私は調子に乗って
『やーだー』
とか言ってサントロさんの背中をバンバン叩いたこともあった。確かに筋肉が凄かったけれどそんなに偉い人だとは思わなかったから。どうしよう。
申し訳ないと思ってサントロさんを見ると頬をかいて
「まぁ」
と言いながら照れている。
母も驚いたのかサントロさんを見て
「凄いのですね」
て言っているからまた照れた。
他の護衛の方も隊長やら副隊長やらで錚々たるメンバーで、キャトリさんは町長の屋敷の侍女長らしい。私達が町長と話をしている間に部屋や食事なら準備をしてくれる。
ラインさんの後をついて行く。
「先程、叔父上と仰られていましたが町長さんは辺境伯爵家の方なのですか」
「叔父は父クロナン伯爵の下の弟になります」
母の質問にタクトさんが答え、
「タクト様は次期町長です」
サントロさんの追加情報。
「凄い人だったんですね」
私は思わず呟いてしまった。
今度はタクトさんが照れていた。
執務室へ着く。ラインさんが確認して、扉を開けてくれた。
タクトさん、母、私、サントロさん、最後にラインさんが部屋の中に入る。
精悍な顔立ちの男性が立ち上がりこちらに向かって来て、母と私の前に来たと思ったら片膝をついて頭を下げた。
「聖女様、ご無事で何よりでした」
「「えっ」」
固まる母と私。
「我が家に聖女様をお迎え出来「あの」」
母が言葉を被せる。
「私達は聖女かどうかもわかっていません…それにそのような挨拶や態度は慣れていません。…どうしたら良いのかよくわかりませんのでやめて頂けませんでしょうか」
母がしどろもどろと話す。
『困るから普通に話して』
と言いたいけれど不敬にならないように言葉を探しながら話す。
「叔父上、お二人が困っていますよ」
「お二人は普通に接して欲しいそうです」
タクトさんとサントロさんが町長に話している。
町長は顔を上げ立ち上がり
「グレスク町町長シューイと申します。ようこそおいでくださいました」
頭を下げた。
母と顔を見合わせて苦笑。
「こちらがヨーコ様、こちらがサーヤ様です」
タクトさんが様付けで紹介した。
「ヨーコです。よろしくお願いします」
「娘のサーヤです。様付けはやめて欲しいです」
「すみません。つい」
タクトさんが苦笑する。
「沙彩ったら」
母に肘でつつかれてしまった。
「えっと、ごめんなさい」
(必殺、とりあえず謝る)をしたらタクトさんがまた「こちらが…」
と言い出したので謝り合いになってしまった。
おかげでピリピリした場の空気は緩和されたみたい。
ソファに座り今後の話をする。
クロナン辺境伯爵に会うために明後日領都に向かうらしい。