料理長
屋敷に戻りタクトさんとサントロさんは伯爵様へ報告へ、母と私は大奥様の所へ行く。
私は自由にしていて良いと言われたけれど大奥様に興味…は失礼、様子を見てみたいので母に付いていく。
ハナノイさんに町での事を聞かれたので楽しかった事とサントロさんが大変だった事などを話すと大笑いした。
大奥様は昼寝中だ。ハナノイさんに聞くと毎日この時間は昼寝の時間らしい。
テーブルの上におやつなのか、紅茶とリンゴのような果物があった。
「果物が残っていますね」
「大奥様には硬いようで食べられませんでした」
「摺り下ろしたりはしないのですか」
「摺り下ろすとは何ですか」
ハナノイさんと母が話しているけれどここは寝室の隣の部屋なので声で大奥様が起きてしまう。
部屋を出て話すように促すと二人は『あっ』という顔をして部屋を出る。
「ヨーコさん、一緒に調理場へ行ってもらえませんか」
「あの」
「先程の摺り下ろす事を料理長へ話してもらいたいのです。昼食後の休憩の時に旦那…料理長にヨーコさんが朝食に手を加えたら大奥様が全て食べた、という話をしました。そうしたら是非話をしたいと言いまして」
「私の異世界の事を話して大丈夫なのですか」
「はい、ローランさんに確認してもらったら旦那様からも了承していただけたので料理長に聖女様の話をしました。とても驚いていましたけれど異世界の知識かと納得もしてましたね」
「わかりました」
「ありがとうございます。では、早速行きましょう。今なら夕食に間に合います」
「私も良いですか」
調理場が見てみたいので頼んだ。
「もちろんです」
三人で調理場へ向かう。
調理場では夕食用の仕込みをしていた。
恰幅の良い男性がこちらに来た。
「ヨーコさんとサーヤさんよ」
ハナノイさんが紹介してくれたので挨拶する。
「料理長のマナシンです」
頭を下げる。
「異世界の介護でしたか、その調理法があるそうで。教えてもらえませんか」
期待の籠もった目をしている。
「そんなに大した事ではありませんが、年配の方の食事はよく作っていましたのでその調理法になります」
「はい。お願いします」
調理場を見せてもらう。
竃がある。火は魔石と薪の両方使っている。水は…水道のような所に魔石があるけれど桶にもあるから使用方法によりけりかな。
魔石を使う冷蔵庫もどきの保冷箱があるけれど冷凍庫はない。
寸胴鍋、中華鍋が大きい。学校の給食室みたい。
母が肉団子の説明をしている。ミンチは馴染みが無いようで母が実演しているのだけれど料理長だけでなく他の料理人も仕事の手を休めて母の周りを囲み食い入るように見ている。
「緊張したわ」
実演が終わった母がこちらに来て言う。
「料理教室みたいだったね」
「本職の人に教えるんだから大変よ。でも楽しかったわ」
料理が好きなんだと思う。お婆ちゃんの事もあるせいだと思うけれど、母は惣菜を買う事が少なく手作りの料理やおやつを作っていた。味はまあまあだったけどね。
今までミンチを作っていた料理長がこちらに来る。
「皆んながミンチを作りたがるから今日の夕食はヨーコさんに教えて頂いた葉で巻いた物にします」
料理長が嬉しそうに話す。
ロールキャベツかな。
「朝とは味が変わって大奥様も喜ばれますね」
母も頷いた。
「ヨーコさん、摺り下ろし、を教えてもらえますか」
ハナノイさんが母に聞く。
「摺り下ろしって」
料理長もわからないらしい。
「おろし器というものを使うと包丁で細かく切るよりももっと細かくなります。主に野菜に使います」
「ちょっと想像がつかないな」
説明が難しい。
母と二人で説明するけれど上手く伝わらない。語彙力の無さが情けない。
「そうだわ」
「なに?」
母が急に大きな声を出すから驚いた。
「ラスターさんに作ってもらえばいいのよ」
「ラスターさんって今日の大工さんの事?」
「そうよ」
「でも、おろし器っておろし金って言うから木製では無いじゃないの?」
「鬼おろしって言って木製の物もあるのよ。訪問介護先で見たことがあるわ」
「はぁ」
「作ってもらうので少し待っていてくださいね」
母が料理長に言うと
「よくわからないが、よろしく頼む」
と苦笑された。




