異世界の町
昼食を食べることを御者に伝えるために町中を通って広場へ向かうのだけれど、
母と私にとっては見るもの全てが珍しくきょろきょろと周りを見ては足を止めているのでなかなか広場につかない。
業を煮やしてタクトさんが先に御者は伝えに走ってくれた。
伯爵家の方を使いっ走りにするのはどうかと思ったけれどタクトさんとサントロさんは私達の護衛も兼ねているので『騎士団長のサントロさんが残るべき』とタクトさんが言い、
「団長の顔を見て何かするような奴はこの領内にはいないですから」
そう言って走って行ってしまった。
無言
「えぇ、では先に進みましょうか」
サントロさんが頬を掻きながら歩きだす。
母と顔を見合わせてクスクス笑いながら歩き始めた。
進んでいくと先程までいた職人街、商店街とは違う風景の通りに出る。通りの左右に所狭しと露店や屋台が並んでいる。日本のテレビ番組で線路の左右に店を開いていて、電車が通るとギリギリまで場所を開けていた人達を思い出した。
声掛けも多い。
「美味しいよ」
「見てって」
「お姉さん、これが似合うよ」
等々。私はこの世界でも商売人は母を『お姉さん』と呼ぶんだなぁ。なんて思ったら笑ってしまった。
「沙彩、何か面白いものがあったの」
笑っている私を見て母が聞く。
「お母さんをお姉さんって呼んだから」
「まぁ、私はまだまだお姉さんよ。おばさんて呼んだら買わないわ」
母は日本にいた時も同じ事を言っていた。母は変わらない。
「日本でもお姉さんって呼び込みがあったから、どこでも一緒なんだなぁって思ったの。
異世界に来たって言っても人の生活って変わらないんだなあとね」
「そうね。私も異世界って言う事で構えていたわ」
「そうそう」
「同じように生活していけば良いのよね」
「うん」
「沙彩、これからもよろしくね」
「なぁに、お母さん、照れる」
「何となくね。ここでも図々しく強く生きていこうって思ったのよ」
母が照れてるから私も照れる。
「あの…」
サントロさんが申し訳なさそうな顔をして
「本当に申し訳ありません。私達もお二人には出来るだけの事を致します」
頭を下げてしまった。
こんな通りで騎士団長が頭を下げていたら目立ってしまう。
「サントロさん、私達は大丈夫ですから。目立ちますので先に進みましょうか」
母がサントロさんは言うけれど、
「団長さん、喧嘩でもしたのか」
屋台のおじさんから声がかかった。
「団長さん、その人は新しい奥さんかい」
露店のおばさんからも。
どんどん屋台や露店から人がでてくる。
「ち、違います。伯爵家の親類の方々です」
サントロさんが周りの野次馬に声をあげているけど…。
聞いている人はいない。皆んな好き勝手に喋っている
A「団長さんの新しい奥さんらしい」
B「どっちだ」
A「二人、似てるから母親の方じゃないか」
B「やるなぁ」
C「違うわよ。さっき伯爵の親戚って言ってたわよ」
A「そんなの嘘に決まってるさ」
C「何で嘘つくのよ」
A「そりゃあ恥ずかしいんだよ。今まで団長さんは仕事ばかりだったからこういうのには慣れていないからな」
B「じゃあ、そっとしておいた方がいいんじゃないか」
C「彼女の方も見せ物にされて可哀想よ」
A B C 「皆んな戻れ」
「「「「えぇ」」」」
「奥さんの顔が見れたからいいか」
人が減った。なんだかとても疲れた。
「すみません」
サントロさんがまた謝るので
「早く広場へ行きましょう」
母が進む。
私も早くこの場から逃げ出したい。
三人で小走りで広場へ向かった。
広場にはタクトさんがいた。御者は昼食に行ってもらったそうだ。
「息が切れてますが大丈夫ですか」
ぜいぜい言っている母と私を気遣いタクトさんが心配そうに聞く。
「はぁ、はぁ、遅くなってしまったので少し走りました」母。
サントロさんは息も切れていない。流石騎士団長。
「果実水を買って来ます」
サントロさんが広場の入り口にある屋台へ向かう。
「何かありましたか」
タクトさんはまだ心配してくれている。
「町の人にサントロさんの奥さんに間違われて…その、囲まれて、質問されました」
「あぁ…」
タクトさんが『しまった』という顔をする。
「団長は顔を知られているので不埒な者には牽制出来るのですが町の人達には好かれていますから、女の人を連れた団長が珍しかったんだと思います。すみません」
「大丈夫ですよ。皆さんとても好意的で、サントロさんが好かれているのがわかりました」
母と二人、あの時の焦ったサントロさんを思い出してクスクス笑う。
その後、私の
「食堂よりも屋台の物が食べたい」
という我儘を聞いてもらい屋台を満喫して屋敷なら戻った。




