町へ
町へ行く。こんなに早く外に出掛けられるとは思っていなかったからとても嬉しい。
母が大奥様への介護について提案したらしく、旦那様の『母上に早めに使えるようにして欲しい』との言葉を受けてすぐに町の大工の所へ行くことになった。
図書室にいた私は呼びに来たタクトさんと馬車に向かう。馬車の前にいた母が私に手を振って
「町にいけるわよ。沙彩」
と大きな声で話掛けてきたのでとても恥ずかしい。
母と一緒にいたサントロさんが苦笑している。
「お母さん、声が大きいよ。恥ずかしいじゃない。もう」
「ごめん、ごめん」
母に文句を言うけれど町へ行くのが嬉しいのか母のテンションが高い。私もなんだけれどね。
お忍び用の馬車にタクトさん、サントロさん、母、私の4人が乗り町へ進んで行く。
要塞の様な伯爵邸から門を出ると石畳の道があり、少し進んだ所にはもう平民の家があった。
家並みを過ぎると商店街なのか、道の左右に店が並んでいる。八百屋、雑貨屋、肉屋、粉屋、食堂など、映画で見た昭和の商店街のよう。
「顔を出さないでくださいね」
タクトさんに注意される。つい、窓から顔を出して見ていたみたい。
「はぁい」
返事はしたけれど興味がつきないから顔を出さないギリギリで外を見る。
くすくす笑われているけれどそんな事よりも町並みの方が重要よ。
馬車は一本奥の道へ入る。先程とは違った雰囲気になった。
鍛冶屋、武器屋などこちらは職人街。少し進むと馬車が止まった。
「あと少しですが道が狭くて馬車ははいれないのでここで降ります」
降りると馬車は何処かへ行ってしまった。
「あ、馬車が」
「広場に馬車の停留場があるのでそこに行ったんですよ」
サントロさんが歩きながら教えてくれる。
『木工』と金槌の絵が書いてある看板の店に着く。
「こちらです」
サントロさんが勝手に店に入ってどんどん奥へ行く。入り口は棚や机、奥には箪笥、店の一番奥の扉を開けると作業場になっていた。
「おぉい、ラスター」
サントロさんが馬車を直しているおじさんを呼ぶと
「おぉ」
手を挙げてこちらに歩いて来た。
「どうした、サントロ。久しぶりだなぁ」
「そうだな。2年ぐらいか」
「団長になって忙しいから仕方ないか」
「ハハハ、悪いな」
「それで今日はどうした」
ラスターと呼ばれた大工のおじさんがこちらを見る。
「タクト様ではないですか」
伯爵家次男のタクトさんを知っているなら驚くかな。言葉使いも丁寧になったからね。
「忙しいところをすまないな。作って欲しい物があるんだが大丈夫だろうか」
タクトさんが話しかける。
「今、急ぎの物も無いので大丈夫です。何を作りますか」
ラスターさんに聞かれたタクトさんは母とラスターさんを見る。
「こちらのヨーコさんから聞いて欲しい」
「黒目黒髪かあ。珍しいなぁ」
「伯爵家の親戚筋の方だ。失礼な事をするなよ」
母をじろじろ見ていたラスターさんをサントロさんが軽く諫める。
「仲がよろしいのですね」
そんな二人を見て母が呟くと
「幼馴染みなんですよ」
と、サントロさん。
「「えっ」」
驚いた。どう見たってラスターさんのが10歳くらい上に見える。
「嬢ちゃん、その驚きは何だ。サントロとは同じ年なのがおかしいか」
「えっと」
何て言おう。そういえばタクトさんも驚いていたよね。タクトさんを見ると苦笑している。
「ガハハ、まあ俺は老け顔だからな、ハハハ。嬢ちゃん気にするな。さあ、話を聞こうか」
ラスターさんは豪傑な人みたい。
母がラスターさんに説明していく。
母の話を聞きラスターさんが図面を書いていくのだけれど初めての物だからか職人気質なのか質問がとても多い。
「高さは」
「大奥様が肘を乗せる高さで」
「前に進むだけでは駄目なんだな」
「はい。回り込めるといいですね。それと動かないように止めるものも欲しいです」
「そうだな」
母とラスターさんの応酬が続く。
サントロさんもタクトさんも興味津々で疑問に思うと話に入っていく。
「肘を乗せるのはどうしてですか」
「手で押すものでは体重が上手く乗せられないのと握力が弱かなっているので危ないですから」
「なるほど」
「握力は思っているよりも弱くなっています」
サントロさんもタクトさんもうんうんと頷く。そういえばお婆ちゃんも服のボタンが溜めれないとか言ってたけれど、あれも握力が弱くなっていたためだったのかな。
図面が出来上がり、ラスターさんが試作品を作ったら連絡をしてもらう事にして店を出る。
「お昼になりますし、町で食事をしますか」サントロさん。
「そうだな」タクトさん。
「はい」母。
「やったぁ」私。
何故か笑いが起きる。可笑しいと思う。
誤字脱字の連絡ありがとうございます。
とても助かります。