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聖女?の娘  作者: いぶさんた
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歩行器①

###母 洋子



大奥様の朝食を見て驚いた。私の食べた朝食とほとんど変わらず、黒パンが白パンに変わったくらいの違いの無さ。貴族だからいつも豪華なものを食べるのかと思っていたけれどクロナン伯爵家は質素で質実剛健なんだろう。


大奥様はゆっくり休み休み食べている。

「歯が痛くて硬いものは食べられないのよ。スープも中に入っている肉は無理なのよね。私は肉が好きで野菜はあまり好きではないの。でも食べられないから仕方ないのよ」

大奥様は残念そうにスープの入っている器を見ている。

「料理長が美味しく作ってくれているのはわかっているのよ」

具沢山のスープは半分くらい残っている。

野菜が多いうえに肉は歯が痛くて食べれないから。


「こちらの食事に手を加えてもよろしいでしょうか」


私はハナノイさんに聞く。

「大奥様、ヨーコさんにお願いしてもよろしいですか」

大奥様が頷いたのでハナノイさんから大奥様の部屋にある簡易キッチンを教えて貰い作り始める。


肉を取り出し包丁で細かくミンチにして小さな肉団子を作る。これなら舌で押しつぶせて食べれるはず。本当は擦り潰せればもっと良かったけれど器具がなかったから仕方がない。もしかしたら調理場へ行けばあるかもしれない。


肉団子をいれたスープを温め直し大奥様にお出しする。

「小さな肉団子を口に入れたら舌で潰してください」


大奥様が肉団子を口にいれる。

「まぁ、舌でつぶれるわ。肉なのよね。味も肉だわ」


大奥様はお出ししたスープを食べきった。


「大奥様がこんなに食べられるなんて」

ハナノイさんも驚いている。


「先程は肉を細かくしていたようですが」

ハナノイさんは私が作っているところをみていたから。

「はい、噛み砕くのが難しい時には細かくすると食べやすくなり、大奥様のように肉が好きな人には細かいだけでは満足出来ないと思うのでそれをまた固めました」

「はぁ、そうすれば肉だけれど柔らかくて舌で潰せるほどになるのですね。それも介護なのですか」

「はい。そうです」

「素晴らしいですね」



「ハナノイ」

私とハナノイさんが話し込んでしまったので大奥様がハナノイさんに呼びかける。

「申し訳ありません。大奥様。驚いてしまったもので」

ハナノイさんが頭を下げている。

私も一緒に頭を下げる。


「良いのよ。私の事でしょう。これが異世界の知恵なのね。聖女様はこのようにこの国を良くしてくれるのかしら」


大奥様が突然、聖女の話を出すので慌ててしまう。

「えっ」

「聖女の力ではなく聖女の知識なのでしょうね」

大奥様は一人で納得してしまった。

そうなのか。そうなのかもしれない。夢の事はやはり偶然なのだろうか。



「大奥様、今から旦那様にヨーコさんの介護の話を伝えたいと思います。この介護の知識は素晴らしいです」

ハナノイさん、少し興奮しすぎではないですか。




ハナノイさんがどの様な報告をしたのか、私はすぐに旦那様に呼ばれて執務室に入った。

ハナノイさんは大奥様のお世話があるので退出し、執務室には旦那様、タクトさん、サントロさん、執事の

ローランさんがいて何かを話し込んでいた。

「ヨーコさん」

サントロさんに呼ばれ、近くへ行くと卓上には紙が沢山置いてある。

羊皮紙ではなく植物紙。


まじまじと紙を見ていると

「聖女キョーカ様のお知恵です」

「なるほど」

サントロが教えてくれる。和紙に近いけれど少し目が荒い紙。このように日本での私の知識を活用すれば良いのか。聖女の力は無くても知識でこの国の役に立てられれば嬉しい。



「ヨーコさんが大奥様に提案された物があるとお聞きしました。どのようなことが教えて頂けますか」

サントロさんに尋ねられ話を始めようとすると他の方々がこちらに向き直り真剣な顔をして話を聞く状態となった。



先程ハナノイさんに話した歩行器のこと、ベッド脇の手摺りのことを身振り手振りで使用方法などを伝える。理解できただろうか。



「一度作ってみますか」 


「旦那様、私に大工の心当たりがあります。ヨーコさんと行って作ってもらうのはどうでしょう」

タクトさん、サントロさんが旦那様へ問いかける。


「そうだな。サントロ、今からすぐでも行っても大丈夫か。早い方が母上も喜ぶと思うからな」

旦那様の言葉にローランさんが頷く。


「大奥様は朝食も全て食べられたそうです。いつものように侍女に怒ることもなくとても穏やかに食事をされたと聞きました」

「本当か、ローラン。ここのところ食事が進まず機嫌も良くないと聞いていたが」

「はい。旦那様。ハナノイも驚いていました。なんでもヨーコさんが大奥様が食べられる工夫をしたとか」


「聖女様、あっ、すまない。…ヨーコ、どんな工夫をしたのかね」

旦那様に食べやすくする事を説明すると

「味を良くすれば良いとばかり思っていた。料理長の食事は美味しくのに我儘を言って食べてないとばかり…。母上には申し訳ない事をしたな」


「気がつかないのは仕方がないと思います。少しの工夫で食べやすくなります」

「それも料理長と相談してみよう。良いだろうか…ヨーコ」

旦那様はヨーコと呼ぶのはまだ戸惑いがあるみたいだけれど私は使用人なのだからこのまま呼び捨てでお願いしたい。



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