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7.黒髪の忍者メイドが実力を見せ、忠告する


 翌日。適当に装備品を見繕って探索の準備を整えた三人は、迷宮に足を踏み入れた。

 いかにも冒険者然とした身なりのグライクとファムファとは異なり、ヤマトナは白と黒を基調とした怪しげな意匠の服を着ていた。俗に言う忍者メイドの格好である。

 かといって特にツッコミが入ることはなく、他の二人としては「色々な趣味の人がいるよね」という程度の認識で済ませている。

 ともかく、早速魔物と遭遇する。


「お、フライングナイフだ。ヤマトナ、倒せる?」

「お任せください!」


 フライングナイフは以前グライクが倒したフライングソードの近似種で、攻撃力こそ及ばないものの代わりに素早さが高く、この階層に現れる中ではかなり強い部類に入る。

 そんな難敵を、ヤマトナは腰から抜き取った鞭で絡めとって地面に転がし、動きを封じたところで踏みつけ、刀身の真ん中で叩きおった。

 あっという間の早業に、グライクとファムファは称賛を送る。


「すごい! ヤマトナってこんな特技スキルがあったんだ!」

「むむむ、なかなかやるニャア」


 フライングソードのドロップ品を鞭を器用に操って拾い上げたヤマトナは、笑顔でグライクに向き直る。


「私のスキルは『武芸百般セブンネイションアーミー』。大抵の武術は修めておりますが、中でも鞭が最も得意でございます」

「へー、その鞭、ちょっと見せてくれる?」

「どうぞっ!」


 グライクは受け取った鞭を鑑定してみる。



【女郎鬼蜘蛛の糸鞭】

 攻撃力:+15

 等級:稀代アンコモン

 解説:鉄よりも強靭な魔物の糸を撚って作られた鞭。



 なかなかの逸品のようで、グライクはこの鞭の価値が相対的にどの程度なのかを知りたくなった。


「素晴らしいものだね。どこで手に入れたの? 僕も手に入れられるかな」

「ありがとうございます。これは私が冒険者を仕事としていた頃に倒した魔物のドロップアイテムから作られたものです。お金で買おうとするならば……100000キンほど必要でしょうか」


 100000キンとは平民の四人家族が三年は暮らせるほどの額である。


「へぇ……その倒した魔物が女郎鬼蜘蛛って言うの?」

「じょ、女郎鬼蜘蛛!? B級冒険者でも苦戦する怪物ニャ!」

「お恥ずかしながら、かつての私は確かにB級にて契約を結んでおりました」


 ヤマトナが自分より格上だったと知ったファムファの驚きたるや、表情に隠せていない。


「そっか。ありがと。ま、でも俺は剣を使おうかな」

「ええ、若様にお似合いです! ……ところで、そのお腰のものはかなりの業物ですね。さすが若様、ご立派です!」


 褒められて気をよくしたグライクは、無明を手に入れた経緯を話し、今手に入れたフライングナイフのドロップアイテムを使って混沌の壺を実演してみせた。


「はい、このナイフはファムファにあげるよ」


 目を丸くしている二人に気づかず、グライクは満面の笑みでそう言う。


「……若様、これは……」

「……とんでもないモノを見たニャ」



【呪いのナイフ】

 攻撃力:+3

 等級:稀代アンコモン

 解説:複数のナイフが合成されて出来たアイテム。混乱毒・自動追尾の力を併せ持つ。



 寄せ集めのドロップアイテムで作ったので、このナイフ自体は大したものではない。しかしこれが出来るまでの工程は、常識を超えた出来事である。


「若様、差し出がましいことを申し上げますが、決して、決して今の壺とそのアイテムバッグをを私たち以外に見せてはいけません」

「なんならあたしが預かっておく――」

「――決して他人の手に預けてもいけません。若様ご自身でお持ちになってください」


 どさくさに紛れたファムファの戯言を遮りつつ、ヤマトナは強く言った。


「わ、分かったよ」


 その勢いに押されて、グライクは忠告を素直に受け止める。

 こんなやり取りをしたのち、三人はダンジョンの奥へと歩を進めていくのだった。



***



(それにしても、なんと恐ろしいアイテムであることか)


 ヤマトナは、これまでの苛烈な忍生の中でも見たことがないほど超常の神器の効果に、内心で恐れおののいていた。


(若様のご説明通りであるならば、アレは無尽蔵に稀代アンコモン以上の魔具を作り出せる代物。稀代アンコモン一つ手に入れるだけでも命をかけた困難を乗り越える必要があることを、若様はご存知なのだろうか……)


 もちろん知らないだろう、と彼女は頭を振る。

 今の当主に拾われて以降、自分の命を投げ出して仕えてきた。そんな自分であるから、今のような奇跡を目の当たりにしても魔が差すことなく、彼を守ろうと思えている。

 しかし、ファムファという獣人女はどうにも気を許せそうにない。彼女からはひと時も目を離せないだろう。

 本音を言えばすぐにでもグライクを連れて帰りたいのだが、一度約束した以上は言を違えることなど許されない。

 斯くなる上は、一日でも早くグライクが満足のいく結果へと導こう。なに、さすがにB級とは言わないまでも、C級に昇格なされば満足なさることだろう。そのためには、さしあたりこの迷宮を攻略する必要がある。

 ヤマトナはゲイム家に仕える忍者メイドとして、忠誠の覚悟を改めるのだった。



***




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