32.天使王との決戦が意外な決着を迎える
破滅的な大風が吹き荒れて雨を弾丸のように飛ばし、超高温の炎熱が超高速で着弾する。
およそ人間には不可能な天変地異は、ファムファとヤマトナの心を大いに畏れされた。それに耐えられる者などいるはずがない、グライクの命は尽きてしまった、と。
「ふふふ、ヒトの身には過ぎた魔術だったかな? 私に逆らおうなどと考えるからだよ。こんな恐ろしい思いをしなくても済んだだろうに」
己の技に絶対の自信を見せる天使王は、立ち上る水煙と爆煙を眺めて、そう呟く。
しかし--
「ふぅ、終わりかな? もういいよ、マシンマル」
「「「「「ゴ!」」」」」
そこから現れたのは、至極元気なままのグライクと、多数に分裂したマシンマルの姿だった。
盾だけでは不足だと考えたグライクは、マシンマルを分裂させて盾とし、さらに手持ちのアイテムによる強化を重ね掛けして、大破壊をやり過ごしたのだ。
とはいえ、マシンマルの損害は無視できるものでないが、グライクは最後の聖杯で生み出したエリクサーを振りかけてそれらを修復していく。
「確かに大したものだったけど、この通りさ。その手はもう無駄だって分かったかな。さ、次はこっちの番だ」
「小癪な!」
グライクが四次元袋から取り出したのは、リッチを倒して手に入れた不死王の冠。それを見て、天使王は再び嘲りの色を深めた。
「何をするかと思えば、そんなものか。ふん、不死身になって対抗しようなどと考えるとは、悲しきはヒトの愚かさよ。使うがいい。言っておくが、不死になればむしろ私の魔術はより大きなダメージを与えられるようになるぞ?」
死の色、すなわち黒に対して、天使王はその反対色の白。相反する属性は互いに互いを認めず、より効果となるのは、確かに魔法の真実である。
「ははん、分かってないね。これは、俺が使うんじゃないんだな」
「なに?」
疑問を表情に浮かべる天使王を笑うと、グライクはそれをファムファに投げ渡した。
「ふ、何を思わせぶりなことを言うかと思えば、仲間の守護に使う気か? 不死の呪いを預けようが、苦しむ時間が長くなるだけだぞ」
「残念。それも、違ーう」
ニヤリと笑ったグライクは、こう指示を出した。
「ファムファ、それを、あいつの頭めがけて投げて。タイミングは俺が作る。ヤマトナはそっちの二人を守っててね」
「!!!」
ようやくグライクの狙いに気付いた天使王の衝撃たるや、恐るべきものだった。
「き、貴様! この私を、亡者に堕とそうというのか! なんて、なんて不敬な……!」
「ああ、なんだか偉そうだから、こういうのは嫌がるだろうなと思って。その反応からして、やっぱりいいアイディアだったみたいだ」
グライクは、相手が一筋縄ではいかないことを十分に感じていた。出来る限りのことをするつもりで、実際はこれもそのための一手として考えたことに過ぎない。
しかし--
「やってみるがいい! 愚かさをその身に叩き込んでくれる!」
「さあ、こっちもここから本気だ。いくぞ、ヤオヨロズ!」
「委細承知!」
ヤオヨロズの刀身が輝き、それがグライクの目に宿る。万物の理を看破する天眼と、ヤオヨロズの持つ剣鬼の力が合わさり、かつてない力の奔流が場を支配した。
全身から立ち昇るオーラはグライクの姿をすら変えていき、より戦闘に適した体を生み出す。
爪の牙、角に翼。果ては尾までが形作られ、もはやヒトというより魔物の類に近い。いや、さらにいえば--
「っ! 見下げたものだ。ヒトを捨て、悪魔となったか!」
「別にそんなつもりはないけど、そう見える? ま、なんでもいいさ。それに、天使に対するのが悪魔ってのも、なかなか乙じゃないか」
悪魔の商人を弑して得た力で、グライクは迷宮を踏破した。そして今、自らが悪魔と成りて、天使をも弑さんと挑みかかる。
グライクは自ら気づいてはいないが、それこそが、彼の望みのものだった。すなわち、天命を与えんと強制する権威に対して、己の意志を以て立ち向かうこと。いわば運命への反逆のために、彼は家を捨てて出てきたのだから。
天使の剣と悪魔の剣が打ち合わされ、発生した衝撃波が玉座の間を破裂させた。壁と床、天井にまで亀裂が入り、揺れている。
「んニャー!!! し、死ぬニャ!」
「落ち着け、獣娘! なんだか分からんが、結界が我らを守っている。自分の身より、若様の命じられたことをしっかり守れ!」
「二人とも、私といれば大丈夫。そこな、ダークエルフの言う通り、集中していてください」
「んニャニ? あんた、ダークエルフだったの?」
「それがどうした! 見れば分かろうが!」
場にそぐわない会話が交わされる中、天使と悪魔の死闘はいよいよ終幕へと向かっていく。
「はああああ!!!」
「ふううう!?」
ついり剣が胴へと突き刺さり、壁に縫い付けた。
それを為したのは--
「まったく、てこずらせてくれたね。まあ、結局はこうなるのさ」
「若様ぁぁぁぁ!!!」
天使王は嘲りの笑みを浮かべて、磔にされたグライクを見下ろす。
しかし--グライクの顔は、奇妙なことに、不敵に微笑んでいた。




