31.新人冒険者は真実の向こうに答えを見つける
「ズーニー、これが俺の最後の願いだ。よく聞いてくれ」
「はい、しかと聞き届けましょう。何でも仰ってください」
現れたズーニーの姿は、最初のときとも、二回目のときとも違う。
今は、まさしく花の盛りというべき妙齢の女性であり、その態度もまたこれまでとは大きく違う、淑やかなものだ。
時間の停滞した世界で、グライクとズーニー、そして白い男だけが、その光景を目にする。
「ズーニー……君に、俺の仲間になってほしいんだ。そのために君の封印が邪魔になるなら、封印を消し去ってほしい」
グライクの願いへの反応は、ある意味で両極端であった。
「……それは」
「ダメだ!」
戸惑うズーニーと、激昂する白い男。
考え込むように目を閉じたズーニーに対し、白い 男は見開いた目でグライクを睨みつけながら、激しい口調でののしり始める。
「なんと愚かな! 私の話をちゃんと聞いてきたのか? 三つ目の願い事を叶えたら、ズーニーは消え去るのだ。それは決定事項! この私の、決定事項だ!!!」
しかし、そんな白い男を無視して、ズーニーはグライクに向けて静かに語る。
「それには、暫し時間がかかります。しかし、時間さえあれば……可能です」
「どれくらい?」
「複雑な呪文が必要です。それを唱え終えるのに、五分ほど……」
「分かった。頼む」
グライクとズーニーのやり取りを、白い男の怒声が遮った。
「許すものか!」
いつの間にか彼の手には長剣が握られており、その切っ先がズーニーへと向けられる。
白い刀身には、神々しい輝きを放つ光が宿っており、それは熱とも冷気とも違う恐るべきエネルギーを感じさせる。
「そっちこそ、俺の願いを邪魔するのは許さない」
グライクもまた竜剣ヤオヨロズを右手で抜き放ち、さらに左手には七死刀を構える。今のグライクに可能な最大限の戦闘態勢である。
「まさかこの私に七死刀を向ける愚か者が現れるとはな。その剣をお前に与えたのは私だぞ?」
「そうかい、じゃあ返そうか?」
「ふっ、一度与えたものを返されるなど、この私の誇りが許さん。だから、お前を殺して奪い返そう」
二人の剣が打ち合わされるのと同時に、時間の停滞が解けた。ファムファとヤマトナは、目前の光景に絶句したのち、声を張り上げた。
「わ、若様!? 一体何を?」
「なんでそいつと戦ってるニャ!?」
状況を呑み込めない二人に返事をする余裕はなかった。グライクは無造作に振り抜かれた白剣の衝撃に、全力で立ち向かっていた。
代わりに答えたのは、凛と響くようなズーニーの声であった。
「ご主人様は天使王との戦いを望まれました。この私の解放のために」
「あんた誰ニャ!」
「若様の味方、と思ってよいのですね?」
すかさず尋ねてくるファムファとヤマトナに、ズーニーはやはり静かな声で答える。
「はい。私はご主人様に身も心もお仕えすることを誓います。そのためにも、一刻も早くこの呪文を完成させる必要があります」
「なんだか分からないけど、分かったニャ!」
「あの天使王とかいう男を討てばよいのですね?」
ヤマトナの質問に、しかしズーニーは首を横に振る。
「いいえ」
「じゃ、どうするニャ!?」
「天使王を討つことは、おそらく不可能でしょう。彼我の戦力差は絶望的と言えますから。しかし、私は奴の現し身です。もし、私の呪文が完成したならば、奴の力のほとんどを奪い去り、逆に私はこの世に顕現できるようになります」
首をひねるようや答えにしばし混乱したのち、ヤマトナはこう聞いた。
「つまり、時間を稼げばよいと?」
「はい」
「最初っからそう言うニャ!」
途端にヤマトナとファムファはそれぞれの武器を構え、天使王に狙いを定めた。
「ふ、無駄だ!」
しかし、グライクに絶え間なく剣を叩き込んでいた天使王は、見向きもせずにそれらの攻撃を打ち落とした。
「んな! 必中を使ってるのに、なんでニャン!」
「音速を超える鞭を見もせずにっ!?」
そんな二人の行動も、全くの無駄ではなかった。ほんの一瞬ながら、グライクの攻撃の機会を与えたのだから。
「こっちはどうだ!」
「くっ!」
さすがの天使王も、七死刀には警戒の必要があるようだった。大きく飛びすさり、怒りもあらわにグライクを睨み付ける。
「そんなに頑張ってどうする? 言っておくが、ズーニーが封印を解かれても、今までのように願いを叶える力は失われるのだぞ?」
「生憎、別に願い事なんてないからね。やりたいことがあれば、自分の力でやり遂げる。それが、俺の願うことだよ」
「猪口才な!」
天使王の右手に、膨大な魔力が集まり始める。
「『天雷』」
詠唱すら必要としない不可思議な術式により放たれた多数の白い雷撃が、グライクに向かって迸る。
全属性に耐性があるオリハルコンの盾を持つグライクだったが、天眼が告げた警告に従い、荒鬼霊主の靴を生かして即座にそれを回避する。
「っ!」
白雷が駆け巡った跡には、伝導性に優れるはずの石の壁や床が大きく削られていた。莫大なエネルギーが属性云々を超え、致命的な大破壊をもたらすのだ。
「まだまだいくぞ! 『神風』! 『白焔』!」
続け様に襲いくる大魔術に、グライクは天眼を全開にして立ち向かうのだった。




