27.魔精の力で死地を切り抜けるべく、重大な選択を迫られる
「出てきてくれ、ズーニー!」
「呼ばれて飛び出てじゃじゃーん! はーい、あなたの僕、ズーニーでーす! ご主人様、願い事は決まりましたか?」
グライクの呼び声に応じて現れた魔精の姿は、なぜか以前とは異なっていた。
かつての少女のような幼さは消え、今はグライクと同じかそれ以上の妙齢のように見える。
しかし、今はそんなことに拘泥している場合ではない。ズーニーが現れてから周囲の時間が停滞しているとはいえ、それも限りがある。
グライクは仲間の窮地を救うべく、願いを口にする。
「ズーニー! この場にいる敵を全滅させてくれ!」
「お安い御用! ……なんだけど、そんなことでいいの? そりゃ今のピンチは抜け出せるけど、結局はこの場限りの話。また大変なことがあったときに困っちゃうんじゃない?」
「えっと、そしたらどんな願い事にしたらいいかな?」
「たとえば……スキル! 何か一つ、好きなスキルを使えるようにするとか!」
「スキル、か。俺に、鑑定以外の使えるスキルが……」
グライクにとって、スキルは最大のコンプレックスだった。唯一使える鑑定のスキルは戦闘にはまるで役に立たず、彼の夢にはあまり役立つとはいえない。
そこへきて、なんでも新たなスキルを貰えるという話は、これまでのアイデンティティを揺るがしかねないほど衝撃的だった。
「どんなスキルでもいいの?」
「はーい。でも、願い事一つにつき一つだけです。それに、スキルっていうのは強い効果のものほど使える回数や時間が限られます。よく注意して考えてくださいね」
「今、俺に必要なスキル……どんな敵でも倒せるパワー? いや、すぐに逃げ出せるスピード……?」
そのどちらでもない、とグライクの本能が訴えていた。本質的に、それらは本当に必要なものではない。なぜなら、結局のところ他のもので代替できるからだ。
スキルでしか得られない力、何物にも替えられないオリジナリティこそが、スキルの本質であることに、グライクは気がついていた。
つまり、グライクに足りなかったのはオリジナリティなのだ。彼のコンプレックスは、自分が何者にもなれないという苦悩が根源だったわけだ。
だから、いくら財宝を手に入れても、彼の心は満たされなかった。竜人になったことは、ある意味そのコンプレックスを覆すものになり得たが、結局は呪いに過ぎない。ヒトでいたいならば、いつかは捨て去らねばならない。
「……俺は、俺でありたい。でも今はそれ以上に、みんなを守りたい。そしてこれからも、みんなを守る力が欲しい。こんなの、ただの我儘で、おかしなことを言っているとは思うんだけど--」
「--いいえ、ご主人様。おかしくなんかないですよ……それ、両方叶えちゃいましょうか?」
「え?」
図らずもこんなタイミングで、長きにわたる悩みの答えにたどり着いたグライクに、ズーニーはニコリと笑いかけた。
どういうことかと首を傾げるグライクをウンウンと頷いて見た後、ズーニーが提案したのは--
「ヒトができることには限りがあります。ま、だからこそ、ヒトであるとも言えるのですが……それに抗うのもまたヒトの証です。とにかく何が言いたいかというと、ご主人様の言っていることは当然の真理で、全然おかしくないってことです」
「そ、そうなのかな……」
「ヒトがよく言う、『両方やらなくっちゃあいけないのが辛いところ』ってやつですよね」
グライクに語りかける今のズーニーの表情は、これまでの軽い調子とは打って変わって至極真面目であった。そこから、本気で言っていることがひしひしと伝わってくる。
魔精を名乗る彼女が本当は何者なのか、グライクは知らない。悪魔の商人よりも高位の存在であるらしいが、そんな彼女がなぜこんな指環の中に閉じ込められているのか。なぜ、、願いを叶えてくれるのか。
今は考えても詮なきことであるのが、グライクにはふと悔しくなった。
「出会ってからこれまで、ご主人様のことを指環の中からずっと見てきました。こんなご主人様でよかったです。いつかご主人様には、私の正体を知ってほしいですね」
まるでグライクの考えていることを見透かしたかのように、ズーニーはそう言う。
「それでは、そんな、敬愛すべきご主人様様には、このスキルを差し上げましょう……!」
ズーニーの体が輝き出す。その光には強い魔力が伴っている。それは、漆黒の睡蓮を遥かに凌駕する魔力。この世で最も強いのではないかと思わせるほどの魔力の輝きであった。
「はい! どうぞ!!!」
そして一際強く発した輝きにグライクが思わず目を閉じて、そしてまた再び目を開いたとき、そこにズーニーの姿はなくなっていた。
時間の停滞も終わり、必死で死の軍勢と戦っている姿と声が目と耳に飛び込んでくる。
「若様、これ以上は……!」
「んニャー! 黙ってないでせめてなんとか言うニャ!」
「ゴ・ゴ・ゴ・ゴ!!!」
一瞬焦りを覚えたグライクだったが、自分に宿ったスキルの存在を感じ、ニヤリと不敵に微笑んだ。その目がギラリと光っている。
「みんな、待たせてごめん。もう大丈夫だよ……!」
そして、そのスキルを解き放つ。
「鑑定のスキルを磨いたのも、無駄じゃなかったってことかな--さあ、刮目しろ……天眼!!!」




