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2.悪魔の商人に天罰が下る


「おっと! お客さん、勝手に店から商品を持ち出したね……泥棒は……許さん!!!!」


 にわかに悪魔の商人の声色が変わり、聞くも恐ろしい雷鳴のような叫びが部屋にこだまする。


「えええ! いや、俺はそんなつもりは……」


 が、グライクは確かに品物を店から無断で持ち出していた。

 というのも、床の模様は魔法陣であり、その中のみが悪魔の商人の店なのだから。

 代価を支払わずにそこから品物を持ち出したなら、すなわちそれは泥棒である、というのが、迷宮における暗黙のルールであった。

 そして、悪魔の商人は泥棒行為に対して命をもって対価とさせる。悪魔の商人は魔物の中でも無類の力を誇り、抗うのはよほどの豪傑でなければ不可能だ。

 しかし、冒険者としてぺーぺーのグライクがそんなことを知るよしもない。

 実際、ある程度の数の初心者は、こうして命を落とすのだ。


「ひひひ、泥棒死すべし! あんたの魂はいただくよ!」


 通常に倍する速度で悪魔の商人が迫る。とっさに、グライクは先程から持ったままの商品である指環を握りしめ、助けを求めて叫んだ。


「だ、誰か! 助けて!」


 常ならば無駄なあがきであるそれは、ことこの時に限っては違った。


「呼ばれて飛び出てじゃじゃーん!」


 どこからともなくそんな気の抜けるような声が上がったかと思うと、手の中の指環から閃光が迸り、グライクは思わず目を閉じた。そしてしばらくして、いつまでも訪れない死に疑問を持ち、恐る恐る目を開けてみる。


「はあーい、ご主人様! 呼び出してくれてありがとう! 願いをなんでも叶えましょう! お金も名声も美女もお望みのままに! ただし三つまで! はじめに言っておくけど、叶える数を増やして、って願いは無効だよ!」


 そう元気に言ったのは、やたらと豪奢に飾り立てた幼女である。しかしその足元は熾火の煙のようにたなびいており、明らかに只者ではない。

 そして悪魔の商人はというと、その幼女の後ろで飛びかかった姿勢のまま凍りついたように固まっている。ふと見れば、弾き飛ばされた石も空中に浮いていて、どうやらグライクと幼女以外の周囲の時間が止まっているようだ。


「え、あの、これ、君が?」

「はあい、この指環の魔精ジンズーニーが、ご主人様の願いをゆっくり聞くために、しばらく時間を停滞させています。あんまり長くは持たないので、お願いのご指定はお早めにどうぞ」


 時間停滞という奇跡のような現象を、自分の仕業だと無邪気に宣うズーニーに驚きつつ、グライクはふと気づいた。悪魔の商人すら停滞に巻き込んでいるということは、彼女の力はより高みに達しているのかもしれない、と。


「そ、そしたら、俺をこの悪魔から助けてほしいんだ。できるかな?」

「んー、具体的にはどうしたら?」


 そう言われて、グライクは考える。自分としては言いがかりをつけられて襲われた気になっているが、もしかしたら悪魔なりのルールを破っていたのかもしれない。ならば相手の言い分を聞かずに反撃するのは、間違っている。


「ええと、その前に聞きたいんだけど、なんで俺は襲われたのかな?」

「えっと、ホントはそれに答えるのも願いの一つなんだけど……ま、いいや、今回はサービスサービス! かくかくしかじか」


 悪魔の商人の店のルールを聞いたグライクは、やはり自分に落ち度があったことを知り、どうすべきか頭を悩ませることとなった。と、そこへ……


「あ、ちなみにそうなったのはこの悪魔のせいだよ! 店のルールを説明してないし、わざと魔法陣から出るように仕向けていたんだから」


 それを聞いて、グライクの決心は固まった。相手は自分を嵌めようとしていた。ならば、その仕返しには正当性がある。


「分かった、この悪魔に天罰を与えてほしい!」

「あいよ! 天に代わってこのズーニー様がお仕置きだい!」


 天罰といえば雷が相場であるが、あいにくここは閉ざされた迷宮の中。突如地揺れが起こり始めたかと思うと、悪魔の商人の立つ地面がガバリと大きく裂けた。


「っ!? ズーニー! 貴様裏切るか! ぬわああああぁぁぁぁ……――」


 それから再び時が動き始め、何が起きたのかを瞬時に理解したらしい悪魔の商人はそんな叫び声を響かせながら、地割れの中に消えていった。

 直後、地割れはゴゴゴと音を立てて元に戻っていく。


「はあい、一つ目のお願いはこれで完了! 残りは二つ、よく考えてね~」


 グライクの願いを叶えたズーニーは、そう言い残してドロンと煙のように消え去った。

 後に残ったのは、伝説級の品物が九つと、グライクのみ。つまり……


「あれ、もしかして……これって全部……俺のもの?」


 ある意味悪魔を討伐したのだから、残されたアイテムはその悪魔のドロップ品と言える。そしてドロップ品の所有権は、その場に生きて居合わせた者にあるというのが、迷宮のルールである。

 かくして幸運な新人冒険者ロー・グライクは、この世に並ぶもののない九つの魔具パワー・ナインの所有者となったのだった。果たして彼を待ち受ける運命や、いかに――


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