25.第四階層で死の軍勢との戦いになる
ボーナス階層で古代遺産のアイテムを手に入れたグライクたちは、続けて今度こそ第四階層へと向かった。
「マシンマル、警戒を頼むぞ」
「ゴ!」
久しぶりの出番とあってか、オリハルコン製のゴーレムが勢いよく返事する。
そうしてしばらく進んでいくが、朽ちた館のようなこの階層にはどうにも嫌な空気が漂っていた。それは、血の匂いというか腐臭というか、いわばホラーな雰囲気である。
「ううう、あたしの危険察知センサーがビンビン反応してるニャ」
「確かに髪の毛が逆立ってるね……」
「若様、どうか油断召されず……!」
ファムファの体がブルブルと震えており、ヤマトナも通路の奥の暗闇に目を凝らしている。
と、そのとき。地獄の底から響いてくるような低い呻き声が、聞こえてきた。
即座にそれぞれの武器を構え、ジリジリと進んでいく三人と一体。そうして目にしたのは--
「あれ、なんだ人かな? --あのー、どうしました?」
曲がり角の先で、なにやらうずくまっている人がいた。怪我をして呻いていたのかと、グライクは声をかけたのだが……
「!? 若様、お下がりください!!!」
「うわああああ???」
「ンニャアアアアアアアアア!!!」
振り返ったその人物の口からは血が垂れ、見ればその手元には何かの生き物の死骸がある。明らかに、生のままむしゃぶりついていたのだ。
「ゾンビです! 人ではありません!」
そう叫ぶや否や、ヤマトナの火筒が火を吹いた。両手持ち用の単発式第二種射出装置は、ポンプアクションによって装填された強力な散弾を銃口から吐き出し、ゾンビの頭を吹き飛ばす。
すると、その轟音に呼び起こされたのか、通路の先、また近くの小部屋の扉の向こうから、またあの呻き声が複数響いてくる。
「まずい、囲まれました! 脱出します!」
「ぞ、ゾンビって、動く死体だよね? 確か噛まれたらアウトなんじゃ?」
「そうニャ、噛まれたら呪いが伝染してゾンビになるニャ!」
「ゴ!」
続々と姿を現すゾンビたちに向けて、ヤマトナはひたすら銃弾をぶち込んでいく。広範囲に攻撃可能な散弾が高い効果を発揮するが、いかんせん単発式のため弾込めに時間をロスし、ジリジリと距離を詰められていく。かなりの窮地だが、ゾンビの足が遅いのが救いであった。
「マシンマル、あっちの道を切り拓いて!」
「ゴ・ゴ!」
「殿はお任せを!」
「フニャァァァァァ!」
グライクの指示に従い、ゾンビに食いつかれても呪いが効かないマシンマルが盾となり、一方の道に突進していく。
最背後ではヤマトナが後退りつつ撃ちまくり、追いすがるゾンビを撃退する。
またグライクが創造の壺で増やした火の玉をファムファに渡し、それで前方後方の討ち漏らしたゾンビに対処していく、という布陣だ。
創造の壺がある限り弾切れはないが、それでも充填させるのに必要な時間のロスが段々と重なり、一進一退の状況が続いた。
「みんな、あそこ!」
しかしやがて、通路の先に扉が見つかった。重そうな金属製の両開きの扉が、マシンマルの怪力で押し開けられる。
「早く入って! マシンマル、ヤマトナが入ったらすぐ閉めるんだ」
「若様、お待たせしました! マシンマルよ、お願いします!」
「ゴ・ゴ!」
部屋の中に転がり込んだヤマトナが、最後とばかりに炎の銃弾を撃ち込んだ直後、マシンマルによって扉が閉められる。
重い扉の向こうで爆発音が響いたのも束の間、今度はバンバンと扉をゾンビが叩く音がひっきりなしに続く。
「ここにいたらいつ破られるか分からない。もっと奥へ行こう」
「ンニャー! 早く行くニャ!!!」
恐怖のあまり落ち着きのないファムファを無視して、ヤマトナはまずグライクに駆け寄る。
「若様、お怪我はございませんか?」
「俺は大丈夫、ヤマトナは?」
「はい、問題ございません。ご心配痛み要りますわ」
にこりと笑うヤマトナだが、流石に慣れない武器を酷使し続けただけあって顔色が優れない。銃弾を発射する際の爆音を最も近くで聞き続けたことも大きなストレスだっただろう。
「……ありがとう、ヤマトナ」
「労いのお言葉、ありがとうございます。でも、忍者メイドには当然のことですわ」
扉の奥はまた通路となっており、壁には蝋燭の火が灯っている。ぼんやりと暗い中をゆっくりと進むうち、なにかカチャカチャという軽い音が響いてくる。
「なんだろう?」
「嫌な予感がするニャ……」
「っ! あれは!」
素早く火筒を構えたヤマトナが、再び引き金を引くと、その銃口の先にいた何かがサッと身をかわした。
「ちっ!」
ヤマトナは装填を諦め、腰から拳大の第一種射出装置を抜いて狙いを定める。そのわずかの間に仄暗い通路を駆け抜けてきたのは--
「ガウッ、ガウウッッ」
「犬のゾンビ! んニャァ!」
頭の高さがファムファの腰ほどもある巨大な犬の死体が、生前と変わらぬ速さで迫る。しかも、ジグザグという動きで狙いをズラしている様子すらある。
「喰らえ犬畜生っ!」
「ガウウウッッ」
ガンガンガンッと連射した最後の一発が、飛びかかってきた瞬間の胴体をやっと捉えた。
「ギャインッッ」
ミスリルの弾丸が食い込んだ部分から火が吹き出し、ゾンビ犬は青白く燃え上がる。
「--まだ来ますっ」
ヤマトナは再装填した火筒を構え、そう警告を口にした。




