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23.竜人の逸話を聞き、驚きを禁じ得なくなる


 ボスワームの討伐成功に街中が沸いた翌日。宿でゆっくりと体を休めた三人は、昼頃にジーの家へと向かった。もちろん今回もショーニンに声をかけている。


「竜の素材たぁ、またたまげるような戦利品だなぁ」

「ショーニンさんでもそうですか? かなり大量なんですけど」

「うぅ……こんなに価値の分からん奴の手に転がり込むってのは、一体どういうことだか」


 ショーニンに呆れられても、グライクとしてはその価値がいまいちピンとこないままである。彼の関心は、どうしたらこの素材が迷宮攻略に役に立つか、その一点のみだった。

 ジーの家は相変わらず静かであり、扉を叩いても反応はない。いつものように勝手に中に入ると、今回は起きてこそいるものの、何かに熱中していて来客に気づいていないようだった。


「おい、ジーよ! 客だぞ! わざわざ来てやったんだから茶でも出しやがれ」

「--ああ、ショーニンか……おお! それにグライク殿も! これはこれはよくいらした。さささ、さあどうぞこちらへ」


 ジーは熱中していた何かを放り投げ、お茶を入れるために部屋の奥のほうへ入っていった。

 机について待つこと数分、すぐに戻ってきたジーは、全員分のお茶を並べながらにこやかに言う。


「さあどうぞ。とっておきの、エルフの森の天然茶葉です。それでそれで、本日のご用は?」

「いただきます。今日はですね、ちょっとドラゴンの素材が手に入ったもので、どうしたらいいかなとご意見を聴きたくて」

「ドラゴン! ほほー! まさかドレイクやワイバーンなんかじゃないでしょうね。まぁ、まずは拝見しましょう」


 お茶を一息に飲んだグライクが、四次元袋から採れたての素材を取り出すと、ジーの表情が一気にひきしまる。ファムファは猫舌なのか、お茶をひと口飲んで顔をしかめた。ヤマトナもカップに息を吹きかけながら、ゆっくりと上品に口をつけている。


「なるほどなるほど、ワームですな! しかもかなり歳を経た大物のようです。どれ、詳しく拝見しましょう」

「ワシはな、これで鎧や盾、剣も作りたいんだがな。鞣してくれるか」

「任せておけ、ショーニン。そんなのは造作もない。これですか……なるほどなるほど。ふーむ……うんうん……むむ? まあまあまあ……うーん。そうですなぁ……まあ、ドラゴンの素材も貴重と言えば貴重ですが、この前のオリハルコンと比べるといささか……」


 ショーニンの頼みを鷹揚に受け入れ、しかし素材は思ったほどの品でもなかったのか、ため息をつかんばかりのジー。

 そこでグライクは、もう一つ話があったことを思い出した。


「あ、それとですね。その竜を倒すとき、俺が血を浴びちゃったんですよね。で、どうも竜人ていうのになっちゃったらしいんですが--」

「りゅ、りゅ、竜人!!!!!?????」


 身を乗り出して食い入るようにグライクの顔を見た後、その手を取ったジーは、続いて体のあちこちに触り、なにやら調べ始めた。

 竜人の特徴についてはファムファがいくらか話して聞かせていたが、やはり熟練の錬金術師として豊富な知識を誇るジーは、新たな知見をもたらした。


「こ、これが竜人の体ですか……脈拍や筋肉の質、それに纏う魔力の力強さ、全てが確かに並の人間とはまるで異なります。まさにオリハルコンにも等しい価値を持つ貴重な存在ですな」

「強くはなれたみたいなんですが、デメリットもあるみたいで。とにかくお腹が減るんですよね。これって仕方ないんですかね?」

「デメリットは、腹が減るどころではないでしょう……このままいくと、あなたはドラゴンになります」

「「「「ええええ!!!???」」」」


 衝撃的なジーの発言に、グライクたちは声を揃えて叫ぶ。

 ジーは静かにその先を続けた。


「数多の伝説に残る竜人の活躍は、人間たちの間でも広く知られています。しかしその一方で、そうした英雄勇者たちの結末はあまり伝わっていませんね。なぜか? それは、彼らは皆、最後にはドラゴンとなり、多くの場合、まだ生きているからです」

「竜人は……ドラゴンになる……?」

「はい。我の知る限り、いくつかの例外を除いて必ずです。その例外とは、死ぬか、または特殊な解呪の法を授かるか、です」

「ドラゴンか……それも悪くないな」

「若様、いけません! そんなことになったら、お家にはなんと申し開きをすれば良いか」


 本気とも冗談とも判断がつきかねるグライクの言葉に、ヤマトナはさめざめと泣いてすがる。


「ドラゴンになれば、人間出会った頃の記憶など消え去ります。それに気質もまるで変わりますから、ま、死んだも同然でしょうな。それでもよければ、特になにも申し上げませんがね」

「え! それは困るな。呪いを解く方法は、どうしたらいいんですか?」

「我の知る言い伝えでは、それは真実の愛を込めた乙女のキスであったと言います。それ以外は特にないですなぁ」

「お、乙女とキス……? うーん、えーと、それはちょっと」

「真実の愛の込められた、キスですからな」

「若様……僭越ながら、物は試し。このヤマトナが--」

「いやいや、大丈夫だから!」

「うーん、あたしは乙女って感じじゃないからニャー」

「あなたには関係ない話です。黙っていなさい」

「ニャにおー!」


 騒がしいヤマトナとファムファのことを一旦置いておいて、とりあえず竜の素材はジーに大部分を預けていくことにする。


「では、よろしくお願いします。竜人の解呪についても、調べていただけますか」

「引き受けました。ショーニン、ちょっと残ってくれ。相談しようではないか」

「おう! じゃあな、お前ら!」


 こうして三人はジーの家を発ち、その足で再びキミョウナ迷宮へと向かった。



***



「ふぅ……」


 グライクたちが去り、ショーニンと二人きりになると、ジーはいやに深く息をついた。


「おう、どうした?」

「ショーニンよ。お前には話しておかねばなるまい。先程の竜の素材だがな……」

「ああ?」

「そう大したものではない、と我は言ったな。あれは嘘だ」

「ああん?」

「あれは、決してそこそこ程度の竜ではない。これまでいくつか竜の素材を見てきたが、そのどれとも比較にならぬほどだ」

「そうなのかよ? じゃあさっきはなんであんな言い方したんだ?」

「この我に分からないことがあるなど、口が裂けても言えぬ故、あの場ではああして誤魔化すほかなかったがな……素材を渡さねばならんお前にはいずれバレるであろうから、今のうちに話しておいた。しばらくは、この竜が何者なのかを調べることにする」

「おう、そうかい。じゃあ分かったら教えろや」

「うむ。さぞ名のある竜であっただろうな。でなければ、血を浴びても竜人になどなろうはずがないからな」

 


***


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