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22.無敵の体の弱点を知り、竜を解体する


 いいこと尽くしに思われた説明にもかかわらず、暗い口調のファムファを不思議に思い、グライクは尋ねる。


「え、それって……かなり強力な祝福じゃない? 冒険者にしてみたら、いや、誰にしてもすごくありがたいことなんじゃ--」

「甘い! 甘すぎる! スライムの砂糖漬けより甘いニャ!」

「それ食べたことないからピンとこないけど……じゃあ、一体何が問題なのさ?」

「それは……すぐに分かるニャ。可哀想ニャン……」

「えええ?」


 その時。とてつもない異音が広い部屋の中に響き渡った。

 心臓を貫かれて死したはずのボスワームが息を吹き返したのかと、ヤマトナは急ぎ振り返る。しかし死体は倒れ伏したまま身動ぎもせず、じっと沈黙を守っている。


「あ……ごめん、今のは俺だ。なるほど、こういうことか」

「そう、もう君は人間じゃないニャン。竜の血を浴びた者は『竜人ドラクル』になるニャ。竜人は人間には及びもつかない力を持つ代わりに--」


 ファムファの説明の最中、またも轟音が響く。その発生源は……グライクの腹である。


「お腹が減りやすい、ということね……」

「難義だニャ。竜人は頑強だから、腹が減ったってそんなすぐに死にはしないニャ。ただ、それだけに空腹の苦しみからはずっと逃れられないニャン。そんなの祝福なんかじゃなく、呪いだニャ」


 少し恥ずかしげにお腹に手を当てるグライクに、ファムファはやれやれと頭を振った。


 竜人! これまで伝説となって名を残した多くの英雄勇者の中にも、こうした身の上の者は多かった。

 しかし、迷宮攻略において空腹は大問題である。

 多くの場合、迷宮の攻略は一日を限界とする。なぜなら、魔物が蔓延る環境の中で眠るなど自殺行為であるし、幾日分ものもの食料や生活用品を持ち運ぶのは大きな負担となるからだ。

 それに、単純に閉所暗所で過ごし続けるのは大きなストレスとなり、パフォーマンスに直結する。

 魔の山や闇深い森といった、超広範囲かつ現地での自活が可能な魔境タイプは別として、それが冒険者の常識であった。


「どうしよう、ずっとこのままなのかな?」

「いや、聞いた話だけど、竜人化の呪いを解くことはできるらしいニャン。でもそれには特殊なアイテムなり儀式なりが必要で、そう簡単にはいかないと思うニャ」

「うーん……でも、強さは捨てがたいよね。とりあえず、この迷宮を攻略するまではこのままでいようかな」

「それもまあアリだニャ。そうすると、問題は食料をどうするかかだニャ?」

「若様、それについてはこのヤマトナに少し考えが。あれをご覧ください」

「え?」


 ヤマトナの言葉に従って指差すほうに首を向けると、そこには巨大なボスワームの死体が転がっている。


「あれ? 変だね。死体が消えないんだ」

「はい。もしかすると、あれ自体がドロップ品なのかもしれません」

「そっか。確かに、他の魔物でも肉やら骨やらがドロップすることもあるもんね。牙とか皮とかもありがたくいただいていこう」


 これだけの量の肉があれば、そしてグライクの四次元袋があれば、しばらく食料には困らない。幸運である。

 そこで三人は手分けしてボスワームの死体を解体し、その肉で燻製やローストを存分に作り上げていく。

 幸いここは森に似た環境の部屋の中。燃やすものは周りにいくらでもあった。しかも、ハーブやキノコといった、味を整えるのに役立つものまで見つかった。

 そして、竜の肉は、至高にして究極のグルメ食材としても知られる。単に焼くだけでも素晴らしい味となり、三人はつまみ食いに舌鼓を打ちながら、楽しく作業を進めていったのだった。




 全ての素材の処理を終えるにはしばらくかかったものの、つまみ食いのおかげで体力も回復して、無事に完了する。

 かつてない苦戦の果てに得られたものは、その労力に比してもはるかに貴重であった。



【地竜の肉】

 等級:稀代アンコモン

 解説:ワーム種の上質な肉。この世のものとは思えない美味。食べると全ての能力が上昇する。



【地竜の皮】

 等級:稀代アンコモン

 解説:ワーム種の上質な皮。防具や魔具の素材として一級品。



【地竜の牙】

 等級:稀代アンコモン

 解説:ワーム種の牙。武器や魔具の素材として一級品。また、地に撒くと竜牙兵を呼び出して使役できる。



【地竜の骨】

 等級:稀代アンコモン

 解説:ワーム種の骨。武器や魔具の素材として一級品。食材としてもいい出汁になる。



【地竜の毒】

 等級:稀代アンコモン

 解説:ワーム種の致死毒。すぐ揮発するので、そのまま毒霧として使える。魔具の素材としても一級品。



 血は流れ出てすぐに蒸発するため確保できなかったが、目や心臓なども魔術的価値は計り知れない。

 が、かといってこの三人では扱いきれないのが痛いところだった。


「これもまたジーのところに持って行こうか。何か役立ててくれるかも」

「若様はお優しいですね。あの者も咽び泣いて心からの感謝を示すことでしょう」

「多分、その前に目を回して気絶するだろうけどニャー」


 こうして、第三階層の攻略が完了。部屋の奥にあった記録石に触れて名を刻んだ三人は、消耗具合を鑑みて、さすがに一度街へと帰ることにするのだった。


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