16.怪しい錬金術術師とゴーレム作りの契約を交わす
「でへへへへ! このジー・ニアス・マッドサイ・エンティストにお声がけいただけるとは誠に光栄! いやお目が高い! 決してご失望はさせませんぜ」
最初のクールな雰囲気はどこへやら、外見に似合わぬへりくだり方で、ジーはひたすらおべんちゃらを続けていた。
「ささ、お茶をもう一杯いかがです?」
「いやあのもうお腹ガボガボです。そろそろ本題に――」
「そう、まさに今私もお話ししようと思っていたところでした。気が合いますね! 今後ぜひ仲良くしてまいりたい! そうすべきです!」
グライクはすっかりうんざりしていたが、頼みごとがある側として期限を損ねるわけにもいかない。
とりあえず話が進みそうなのでよしとして、オリハルコンを取り出して机に置く。
「おおおお! まさにまさに、まごうことなきオリハルコン……! ん? ちょっと待ってください? その袋、もしや古代エルフの……?」
ジーは目敏くグライクの持ち物をチェックしつつ、オリハルコンをしっかりと両手で掴んで品定めする。
「いやしかし、やはりまずはオリハルコンについて話しましょう。その袋については後ほど」
「はあ……とにかく、それが本物だというのは分かってくれたと思います。俺たちは、それを使ったゴーレムを作りたいんです。ジーさんはゴーレム作りの秘術をご存知なんですよね?」
「然り然り! 何を隠そう、我ほどゴーレムに通じた者はこの世に二人とおらぬでしょう。そうですか、このオリハルコンで……いや、足りないでしょうこれっぽちじゃ」
急にスッと冷めた態度になり、ジーは呆れを通り越して侮蔑すら顔に浮かべながら腐し始める。
「はあ……やれやれ、素人が。ゴーレムにどれほどの材料が必要かまったく分かっておらんな。確かにこれはまごうことなきオリハルコン。とはいえこれだけの分量で作れるのは、せいぜいが指人形サイズであろうよ。そんなものを作って何になる。さ、帰れ。疾く」
「まだあるんですよ、オリハルコン」
「ですよねぇ! いやまったくそうだと思いました」
グライクとしても、ズーの態度がコロコロ変わるのになんとなく慣れてきた。そうして相手の転がし方を心得ると、自分の目的を叶えるために主導権を握って話を進めていく。
「他に必要なものはありますか?」
「そうですな、動力源が必要です。通常は精霊石なんかの魔力を使いますが……オリハルコンのゴーレムとなると、かなりのエネルギーが必要です。そうすると動力関係に結構なサイズを使うことになり、うーん、もったいない」
「魔力ですか。じゃあこれは?」
グライクが取り出したのは、魔力の塊である漆黒の水蓮。オリハルコン以上に貴重なアイテムである。
「!!!!???? そ、それは、まさか!?」
「出所は聞かないでくださいね」
恐る恐る手にとって調べ、本物だと理解したジーはコクコクと肯いている。
「素材と動力源。この二つさえあれば、ゴーレムは作れます。あとは、オプションをどうするか次第ですな」
「うーん、そんな特別な能力は要らないんです。とにかく頑丈で、俺たちパーティの先頭に立ってどんな敵でも受け止めてくれれば」
「なるほどなるほど。ならば余計な機構はなしにして、その分頑強に仕上げられるでしょう!」
錬金術師の血が騒ぐのか、ジーはさも嬉しそうに揉み手する。テンションが上がっているらしく、それからも興奮したような語り続ける。
「ぐふふ、いいことを閃きました。シンプルにして強力、しかし我なくして実現はできない。そんな素晴らしいアイディアがあります。きっとお気に召しますよ……!」
「あ、ありがとうございます。それで、お代なんですけど……」
「お代?」
急にキョトンとして目を丸くするジーに、グライクは何か変なことを言ったか?と思いながら、再度確認する。
「ゴーレム作りの対価です。何をご用意すればいいでしょう。お金は今ちょっと手持ちが少ないんですけど、時間をもらえればいくらでも用意します」
「お金? 人間じゃあるまいし、コインなんて要りませんよ。むしろこちらこそお礼をせねば! これほど貴重なものを弄らせていただけるのですから!」
どうも話が噛み合わずにグライクが困っていると、ショーニンが助け舟を出してくれる。
「そうか、エルフに会うのは初めてだったか。グライクよ、エルフにとってお金なんてなんの意味もない。今聞いたように、単なるコイン扱いよ。ワシらドワーフも似たようなもんだが、単純に金や宝石が好きでな。そこはエルフとは違う」
「いやいや、我々も美しいものは好きだぞ? ただ好みがあってな……なんでもいいというわけではないのだ。その点、オリハルコンと漆黒の水蓮は素晴らしい。これを存分に扱えるなど、夢のようだ。グライク殿、金も宝石も確かその辺にあったはずだ。持っていかれますか?」
そう言ってがさごそやり始めたジーは、棚の奥から宝箱にざくざく詰まった見事な宝石を持ってきて、無造作にグライクへと渡す。
「エ、エルフの宝飾品……! とんでもないお宝ニャ!」
目の中にコインのマークが浮かんだファムファの頭を押さえつけながら、グライクは静かに告げる。
「いえいえ、貰えませんよ。お納めください。そしたら、お礼にはオリハルコンをお渡ししましょうか」
「よろしいのですか? それはありがたき幸せ」
お互いに満足のいく契約を取り決められたグライクとジーは、ガッチリと握手を交わすのだった。