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14.罠を利用して第三階層への道を見つける


 この階層の魔物はもはや敵にならず、サクサクと進んでいくうち、三人はある疑問にぶち当たった。


「全然階段が見つからない。まさかとは思うけど……第三階層に繋がってない、ってことはないよね?」

「そんなはずないのニャ。迷宮の構造は毎回変化するけど、次の階層へ続いているのだけは間違いないニャン。だから、今は単純に見逃してるだけ……のはず」


 グライクの不安を否定したファムファも、声が尻すぼみになっている。迷宮の常識についてはグライクより詳しいとはいえ、迷宮に常識が通じないのもまた常識なのだから。


「それにしてはおかしいです。私のマッピングでは、全ての通路と全ての部屋を確認しました。このヤマトナ、憚りながら見落としているとは思えません。つまり-ー」

「つまり?」

「おそらく、何か仕掛けがあるのです。単純に階段があるのではなく、手動で道を作らなければいけないのかもしれません」


 グライクはヤマトナを信じている。彼女がそう言うのなら、その方向で動こうと決めた。


「ここまでで何か手がかりがないかな」

「そういえば、なんだけど。さっきの洪水の罠、水はどこに行ったのかニャ?」


 ファムファの野生の勘が冴えた。いくら魔法の迷宮とはいえ、水はどこかに去ったに違いなかった。そして、水は低きに流れる。すなわち、下の階層に。

 しかし、例の通路に戻っていくら確かめても排水路のようなものはなく、むしろ水の跡すらない。


「一体どういうことニャンだ!」

「あ、閃いた」

「若様、如何なさいました?」

「あの時の罠をまた発動させたらいいんじゃないかな」


 早速この考えを試すこととなった。ファムファとヤマトナは前回の回避地点で待機し、グライクが罠のスイッチを押す役だ。

 ヤマトナは自分がその役をやると最後まで主張したが、荒鬼霊主人の靴を履いたグライクと駆け比べをした結果、負けを認めて渋々譲った。


「じゃ、行くよ~!」

「若様、どうか、どうかお気を付けて……!」

「心配いらないニャ。さっきの速さを見たでしょ?」


 むしろスイッチを探すのに手間取ったものの、グライクは見事に発動させた洪水から逃げ切り、二人のところに追いついた。


「お見事です、若様! ここから見ていて、水の行方も分かりました」

「そっか、で、どうだった?」

「聞いて驚くニャ? 水はあそこで突然消えたのニャ」


 ファムファが指差した先には、特に排水路も脇道も何もない。ただ壁があるだけだ。


「どういうこと???」

「確かめに行ってみるニャ」


 その辺りの壁を調べてみると、驚くべきことがわかった。と、同時に納得もできた。

 そこは、壁があるように見せかけた幻術がかけられており、実はそこにこそ第三階層へ続く階段があったのである。


「あの罠を発動させないと分からなかったかもね。災い転じて福となす、ってこういうことかな」

「あんまりに直接的すぎるけど、そういうことニャン」

「若様の持つ幸運のおかげですね!」


 階段を降りる直前の壁に記録石があったので、三人は順に手を触れて自分の名を刻み、次からまたここから再挑戦できるようになった。

 今回は第一階層と違って中ボス戦がなく、幾らか余裕があるので、少し第三階層の様子を見てみることにする。


「ここが、第三階層……」


 階段を降りきって辿り着いたそこは、これまでよりもはるかに回廊が高く太く、迷宮の中でありながら長い年月をかけて育った大きな木や多様な草が生い茂っている。

 所々見える壁や床は石造りであるのに、どうやって生えてきたのかと不思議であった。


「っ! 魔物が来ます!」


 ヤマトナの警告から間を置かず、ドドドドと重く大きな足音が響いてくる。


「こ、これは――デカすぎるっ!」


 大きく見上げたグライクの目に、自分の三倍にも達する熊が今にものしかからんと立ち上がる光景が写る。

 巨大な構造を持つ第三階層にふさわしい、巨体の魔物であった。


「若様に近づくな!」

「グライク、下がるにゃ!」


 ヤマトナの鞭が威嚇するように音速を超えて鳴り、ファムファの投げナイフが目を狙って飛ぶ。


「グオオオオオ!」


 しかしそのいずれをも物ともせず、大熊は右の前脚を一振りした。


「がっ!」


 なんとか左手の小盾でそれを受けたグライクだったが、衝撃に負けてヤマトナたちの後ろまで大きく吹き飛ばされる。

 もしこれが真銀と真金を合成させた盾でなければ、今頃体が真っ二つとなっていたところだった。

 いくら攻撃力を高めても、体力の不足は如何ともし難い現実が明らかとなった。


「若様っ! おのれ、この熊畜生め! 許すまじ!」

「や、やめるニャ! いったん逃げるニャン!」

「ヤマトナ、だ、大丈夫っ! 行こう!」


 猛るヤマトナをファムファが必死に止め、なんとか立ち上がったグライクがヤマトナに逃げるよう指示を出す。


「……っ! 承知しました!」


 そう言うとファムファは懐から焙烙玉を取り出し、チュドムッ、と煙幕を張って逃げの態勢を作った。

 こうして辛くも逃げ延びた三人は、この日は迷宮探索を終え、宿に帰るのだった。


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