間話.街の噂
「おい、聞いたか?」
「ああ、新人が第一階層を突破したらしいな」
「しかも二回目の挑戦で、だそうじゃねえか。そんな奴が今までいたか?」
「ちょっと見かけたが、まるで女みてえなヒョロヒョロした奴だったぜ。やっぱり冒険者ってのは、見た目によらねえってか」
「いやいや、あいつの力とは限らねえ。仲間を見てねえのか?」
「仲間がいるのか? 誰なんだ?」
「それがな、聞いて驚くな。一人はあの『泥棒猫』ファムファ・タールだよ」
「なに? あのC級冒険者の? 戦技はそこそこだが、盗賊としての腕前は半端ねえっていう猫獣人だよな。確か、ゾングオ帝国のギルドからはA級契約を持ちかけられたんだろ? それがなんでこんな辺境に?」
「さあな。でも、あいつの財宝狂いは有名だろ。目をつけたものはかならず手に入れる。そして、やりたいことしかやらないってな」
「そうだな。この辺に何か値打ち物があるって噂でも聞きつけたかな? --で、他にも仲間がいるのか?」
「ああ、そっちはもっと珍しいぜ。なんと、忍者メイドだ。初めて見たが、一発で分かる。ありゃあヤバイぜ」
「なに! あの忍者メイドがここに……血の雨が降るんじゃあるめえな。暗くなったらおちおち出歩けねえぜ」
「大丈夫だよ。忍者メイドの通った後には草の一本も生えねえ、ってのはただの迷信さ。噂に尾鰭がついてるんだ。あいつらの腕前についてはそりゃ凄え逸話が山ほどあるが、絶対に主人の命令を守るってのも有名だろ。勝手に暴れたりはしないさ」
「じゃあ主人から、暴れろ、って命令されたら? 自分がどうなろうが、なりふり構わずやり遂げるだろうぜ」
「……違えねえ。ま、そん時ゃそん時だ。夜だろうが昼間だろうが、出くわしたら助からねえんだから、気を付けたって何も変わんねえよ」
「ははは、確かにな。しかし、そんな凄腕が二人もその新人についてるのか。一体何者なんだ?」
「噂じゃどっかの御曹司らしいが、ハッキリしねえ。ま、冒険者になったなら、どこの生まれだろうが、そんなのは関係ない。周りが評価するのは、本人の実力と、成し遂げたことだけさ」
「おう、その通りよ。真に自由たる冒険者に、乾杯!」
「おうよ、乾杯!」
※次回、明日8時更新です。