0.理不尽な扱いを受け続けた末、追放される……前に自ら出奔する
プロローグです。
この話だけ一人称視点、以降は三人称視点となります。
「待たんか、この馬鹿者!」
今日もまた、俺は怒鳴られる。
分かってるさ、俺の特技がこの家には相応しくないってことくらい。
他のみんなは、あらゆる魔術への適性だったり、神業的な剣技だったり、様々な魔獣神獣を召喚術だったり、はたまたあらゆるものを自在に作り出す錬金術だったり、見るからに使えるスキルを持って生まれた。
でも俺にあるのは、物の使い方や性能が分かるだけの、なんてことないスキルだ。
ああ、なんで俺だけ、よりによってこんなスキルを与えられたんだろう。
「待てと言うとるだろうが! お前は、お前のスキルはな、どう考えても、栄光ある我が一族の後継者としてふさわし--」
だから、その先は聞かなくたって分かってるさ。俺はこの家にふさわしくない、って言うんだろ?
もういい、今日、俺はこの家を出ていく。あんなシゴキはもうたくさんだ。何が『後継者としての修行』だよ。単なるイジメじゃないか!
毎日毎日、朝から晩まで訳の分からない魔具を鑑定させられて、その使い方を考えさせられて、なんの意味があるっていうんだ。
……そりゃ、父様も母様も爺様も婆様も名のある冒険者だけあって、渡されるのは確かにすごい迫力のあるアイテムばっかりだったし、嘘みたいな内容ばかりの鑑定自体はちょっとは面白かったけど。
「若様、どこです!? どうか、お館様の話をお聞きくださいませ!」
こんな俺に唯一優しくしてくれたメイドがそう叫びながら俺を捜しているけど、俺はもう決めたんだ。この家でこんな理不尽な扱いを受けていたら、いつ追い出されるか分からない。そうなる前に、自分から広い世界に出て、自分の力で生きていくんだ!
そうして俺は、俺だけが知る塀の抜け道を通り、家の裏にある森の中へと足を踏み出した。
その先に待っている、冒険者としての人生に向かって。