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第9話 ジェンナ、爺ちゃんに見られる。

「なんちゅう足の速さじゃ」


 ギルドからジェンナの後を追いかけてきたアルフレッド。

 すぐに追いつくと高をくくっていた彼だが、一向に彼女に追いつけずにいた。


 そんな彼がジェンナの後ろ姿を目にした時にはもう、彼女はゴロツキに絡まれていた。


「初めて見る輩じゃな」


 アルフレッドはこの町のギルドマスターであると同時に、荒くれ者の多い冒険者が問題を起こさぬように何時も目を光らせていた。

 なので、大抵のこの町に住む荒くれ者は見知っている。

 そんな彼も見た記憶がないという事は、どうやらジェンナに難癖をつけている男は最近この町に来たばかりなのだろう。


「ん? どうしてアヤツはジェンナが現金を持ち歩いてる事を知っておるのじゃ?」


 通常冒険者は現金は持ち歩かない。

 ギルドカードという便利な魔道具があるからだ。


 よほどの変わり者でもなければ、ほとんどの冒険者はすべてのお金をギルドカードにチャージして使う。

 稀に現金以外は使えない店や土地が存在するが、大抵の場所ではギルドカードもしくはバンクカードさえあれば支払いが可能だ。

 そしてカードからは、よほどの事がなければ本人以外現金を引き出す事はできない。


「ふむ、二人で挟み込んで逃さないようにする気か」


 アルフレッドの視線の先で、あっさりとジェンナが一千万テールの大金が入った袋を後ろから近づいていった男に奪われた。

 かなり手慣れている。


「余罪がたんまりありそうじゃのう」


 ジェンナが男たちに食って掛かるがあっさり跳ね飛ばされ路地裏に転がる。

 あまりにも体格差がありすぎる。


「十分薬になったじゃろ。そろそろ助けてやるかの」


 アルフレッドが覗いていた物陰から一歩足を踏み出したその時だった。


「許さない……」


 日頃の明るく能天気なジェンナからは想像もできないような怒りに満ちた声が路地裏に静かに広がる。

 しかし男たちはヘラヘラとバカにしたような笑い顔を崩さない。


 それはそうだろう。

 屈強な二人の男たちにしてみれば、目の前の埃にまみれた小娘が今更何をしようとも自分たちをどうこうできるわけがない。

 そう思っても仕方がない。


 だが――。


「許さないっ!! 私の一年の努力を奪う事は許さないっ!!」


 ジェンナが叫んだ。


 次の瞬間、彼女の体から何やらとてつもない気配が放たれ、薄く赤い光に包まれる。


「ぬわっ、なんじゃこの魔力はっ」


 アルフレッドですら踏み出した足を進める事をためらわせるほどの魔力。

 それを目の前で自分たちに向けて放たれた男たちはにやけた笑い顔を引きつらせ、一歩下がる。 


「な、なんだこいつ」

「わかんねぇがヤベェ感じだ。金は手に入れたんだ、さっさと最初の予定通りづらかろうぜ」


 男たちはジェンナから目を離せないまま後退る。


「逃さないよ」

「ヒィッ」


 彼女の真正面にいた男が、真っ赤な彼女の目に睨みつけられ足をもつれさせる。

 刹那、ジェンナはその男の懐に一瞬で潜り込む。


 男は慌ててその屈強な足で彼女を蹴ろうとする。


 バキッ。


「ぎゃああああああああああっ」


 伸ばした脚の脛にジェンナの肘が当たったかと思うと、脚が本来曲がってはいけない方向に曲がり、男が絶叫する。


「うるさい」


 ドスッ。


 路地裏にとんでもなく重い音が響く。


 男の絶叫に顔をしかめたジェンナが、鳩尾に思い一撃を食らわせ、男を一瞬で気絶させたのだ。


「うわぁぁぁぁぁっ」


 目の前で相棒の巨躯が一発で地面に沈んでいくのを目にして、もうひとりの男が叫びジェンナに背を向け走り出そうとする。

 が、逃げようと振り向いた先に、既にジェンナが不気味に立ちふさがっていた。


 まるで瞬間移動したかのような速度で回り込んだ彼女は、驚愕に目を見開く男が次の言葉を発する前に動く。

 事ここに至っても離す事がなかった硬貨袋を持ったその腕が明後日の方向に弾き飛ばされる。


「ッ!!」


 そして男の脳がその折れた腕の痛みを感じる前に、彼女の膝蹴りが男の顎を砕いた。


 じゃららっ。


 弾き上げられた硬貨袋がジェンナの手に落ちてくる。


「これは誰にも渡さないんだから」


 彼女がそう呟くと同時、彼女の体を包んでいた薄い光はサッと霧散し、後には無残に倒れ伏した二人の男と、何が起こったのか理解していない様子のジェンナだけが残されていた。


「こりゃまた、凄いものを見てしまったのう」


 ジェンナを助けようと、一歩踏み出した姿勢のママ固まっていたアルフレッドは、目の前で起こった出来事に困惑していた。

 村から出てきた彼女の後見人となって、いろいろ面倒を見てきた彼だったが、そんな彼でもジェンナの『スキップ』を目にしたのは初めてだった。

 ジェンナも自分のその力を彼に教えていない。

 それはジェンナがこの町にやってきたばかりの時に当のアルフレッドから受けた教育のせいでもある。


『冒険者は自らの持つ(スキル)を他人にあまり教えてはいけない。それは弱点ともなるからだ』


 アルフレッド自身は冒険者の心得の一つとして教えたわけだが、その言葉のせいで彼がジェンナの本当の力を知るのが遅れてしまった。

 彼女が一度ダンジョンに挑んで這々の体で逃げ出してきて以来、毎日のように雑魚狩りしかしていないという報告を受けてはいた。

 だから知らなかったのだ。

 彼女のその本当の実力を。


「こりゃきちんと一度調べてやらにゃあかんな」


 アルフレッドはそう独りごちると、彼女を助けるために踏み出していた足を進める。

 彼女の目指す老婆の家はもうすぐそこだ。


 そして今のを見て彼女に更に襲いかかろうなどというもの好きはもういないだろう。

 だとしたらアルフレッドがこれからする事は決まっている。


 この町の治安を乱した者たちとその仲間を一網打尽にする。

 それがこの町のギルドマスターたる彼の仕事だ。


 アルフレッドは表情を何時もの好々爺然としたものに戻し歩みを進める。

 その先では、未だに何が起こったのかよく理解できず首をひねっているジェンナの幼さを残した姿があった。


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