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第4話 ジェンナ、夢への切符を手に入れる。

「明日にはわたしの夢、叶うかもしれないんだよね」


 食堂ガレートの女将ファルにそう告げた翌日の朝。

 ジェンナはギルドの営業開始時間に間に合うように宿屋に併設されているガレートで朝食を慌ててかっこむと、ミルクを一気飲みし席を立つ。

 いつもは他の冒険者が出払った頃にゆっくり一人で朝食を食べるはずの彼女が朝早くにやって来た事に驚きつつも、昨夜の事を思い出したファルは優しく彼女を送り出してくれた。


「あらいらっしゃいジェンナちゃん。今日は早いのね」


 ギルドの扉が開け放たれたと同時にジェンナが転がり込むようにして入っていくと、カウンターから受付嬢のリーリアが驚いた顔をして声をかける。

 年の頃は二十代前半でスラッとした体型の彼女は、ギルドにやってくるむさ苦しい冒険者たちのアイドル的存在でも在る。

 一四歳で初めてこのギルドを訪れて以来、ジェンナにとっては頼れるお姉さん的存在だ。

 リーリアもジェンナの事を妹のように思っているようで、相思相愛と言えるかもしれない。


 ギルドロビーの広さはガレートと同じくらいだろうか。

 その中に依頼が貼られたボードが二つと受付カウンター。

 それと買い取り用のカウンターが並んでいる。


 依頼ボードの片方は国中から集められた広域依頼、もしくは高難易度な依頼が貼られ、もう片方はこの地域で届け出を受けた依頼が貼られている。

 受付カウンターにはリーリアさんがほほ笑みを浮かべて座っているが、今日ジェンナが用があるのは買い取りカウンターの方である。


「リーリアさん、おはようございます。早速だけど買い取り査定お願いできますか?」


 ジェンナは腰に下げていた魔石入りの袋と、昨日ガレートのガイゼルから受け取ったウサギの皮を買い取りカウンターの上に置く。

 ウサギの皮は昨日お腹いっぱいになって部屋に戻ってからきちんと処理をして買い取り価格をアップしてもらえる工夫をした物だ。


 もともと村でも父たちが狩ってきた動物たちの処理をしていたのでジェンナにとっては朝飯前であったが、冒険者稼業を始めてからはその仕上がりによって買い取り値段がかなり変わる事を知り、更に磨いた技術の一つである。


「またローゴブ狩り?」


 朝早くのギルドにはまだジェンナ以外に客は訪れていないようだ。

 本来なら買い取り査定はギルドマスターの仕事なのだが。


「爺ちゃんは居ないの?」

「マスターならまだ来てないわよ」

「職務怠慢すぎじゃない?」


 ちなみに爺ちゃんとはこのギルドのマスターの事である。

 王都のギルドでかなりの要職に付いていたらしいのだが、数年前にそちらを引退して田舎のこの街で余生を過ごす事にしたという人物だ。


 リーリアさんは苦笑いを浮かべながらジェンナの言葉には返答せず、差し出された革袋から魔石を一つずつ取り出しては魔力鑑定眼鏡でチェックしていく。

 モノクルタイプのその眼鏡は、魔石が持つ魔力の量が眼鏡を掛けて見るだけでわかるというすぐれものだ。


 小型の魔石の魔力含有量は大体10~15MPマジックパワー程度なのだが、時折その中に30MPを超える『レア魔石』が見つかる事がある。

 その場合は買い取り値段が倍以上に上がるのだが、逆に『クズ魔石』といって5MP以下という、家庭の火種にしか仕えない物もあって、その場合は買い取り値段が最悪付かない場合も出てくる。


「リーリアさんもあんな怠け者の上司の下で働くのも大変だよね」

「そうでもないわよ。マスターはああ見えて優秀なのは知ってるでしょ?」


 リーリアが馴れた手付きで魔石を仕分けるのを見ながらとりとめのない話を続ける。


「それはそうだけどさぁ」


 ジェンナはカウンターに両肘を突けながらリーリアの手元を見つつ答える。


「それにジェンナちゃんがこの街で一人暮らしを出来てるのもマスターのおかげなんだから」

「むぅっ、それを言われると何も言い返せないっ」


 十四歳……どころかもっと幼く見えた、この街に来たばかりのジェンナ。

 その彼女の素性を聞き、街での後見人となってくれたのは初めて訪れたこのギルドのマスターである爺ちゃんことアルフレッドであった。

 彼は陰に日向に彼女を助けてくれている。


 幼い女の子がパーティにも入らず、一人でこの町で暮らして行けているのは常に彼が目を光らせ、荒くれ者の冒険者たちをまとめ上げて、街の治安を守っているからでもあるのだ。

 正直他の街ではこうは行かなかったろう。


 当時の自分を思い出し、もし自分が初めて訪れたのがこの街でなかったらと考えてゾっと背筋を凍らせるジェンナ。

 村という閉鎖社会しか知らなかった彼女がいかに無防備だったのか。

 冒険者としてこの街で一年暮らし、いろいろな情報に触れるようになってそう改めて思うジェンナだった。


「えっと、魔石が53個で、そのうちレア魔石が18個、クズ魔石が一個。あとウサギの皮はかなり上質だから色をつけてっと」


 リーリアは簡易卓上計算機をパチパチ音を立てて、手慣れた手付きで操作しながら。


「しめて65535テールね。いつも通り端数以外はギルド預かりにしておく?」

「うん、お願い」


 この国の通貨単位は『テール』といい、略称で『T』と書かれる事も多い。


 通常、ローゴブ程度の魔物から出る魔石一つは500テール以下であるのだが。

 今回はかなり多くのレア魔石とウサギの皮があったおかげで予想以上の収穫になったようだ。


「入金完了っと。ジェンナちゃん、確認してみて」

「うん」


 ジェンナは待っていましたとばかりに懐から一枚のカードを取り出すと、その表面に手をかざす。

 それはこの国で一般的に使われているギルドカードという物である。


 冒険者登録をギルドで行った人に発行される物で、身分証の代わりにもなる。

 かつて存在した伝説の魔道具師が作り上げたというこのシステムは、数百年たった今もその原理がわからぬまま使われている。


 やがてジェンナが見つめるギルドカードの表面に『11,801,256T』という文字が浮かび上がった。

 これは現在ジェンナがギルドに預けているお金の総額である。

 ちなみにギルドカードによるお金の取り引きは、ギルドの下部組織である銀行組合が責任を持って行う事になっている。


「やった! これで目標額を達成したよリーリアさん」

「ジェンナちゃん、一年間よく頑張ったわね。でも本当に目標額を稼ぐなんて思わなかったわ」

「へへーん。やる時はやるのがわたしなのだ」


 無い胸を張って自慢げにする彼女の姿は、とても一五歳とは思えないほど幼く見えたのだった。



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