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第2話 ジェンナ、町へ帰る。

「まさか戦闘に使える能力(スキル)だなんて思わなかったしね」


 村を出て町へ向かう道すがら、ジェンナは初めて魔物と遭遇した。

 相手が最弱の魔物であるローゴブで無ければ、もしかしたら彼女はそこで命を落としていたかもしれない。


 それまでジェンナは村からほとんど外に出る事は無く。

 たとえ出ても父や兄弟、村の男衆が魔物を蹴散らす担当だったため、自身は戦う事は無かったのだ。


「初めて発動した時は何がなんだか解らなかったけど」


 ひょいっ。

 ジェンナは昔を思い出しながら魔石を拾い上げ袋に入れつつ次の獲物を探す。


「あの頃からローゴブだけは楽勝だったのよねぇ」


 ジェンナのスキルである『スキップ』は、簡単に言えば『戦闘をスキップして一瞬で終わらせられる』という物だ。

 先ほどローゴブに使った様に、発動と同時にローゴブは倒され、その成果だけが残される。


 と、ジェンナは思っていた。


 なぜなら『スキップ』を一度発動すると、次の瞬間戦闘が終わっていて、彼女自身にはまったく戦っている実感が無いのだ。

 つまり彼女の主観からすれば戦闘行為自体が『スキップ』されて結果だけ残っている様にしか思えない。


 そんな『スキップ』だったが、決して万能では無い。

 ジェンナがその事を身を持って体感したのは、町にやってきてしばらくした頃だったか。

 スキップでローゴブを毎日何体も倒せる様になり調子に乗っていた彼女は、準備万端とばかりにこの町の近くに出来たダンジョンへ向かう事にした。


 そのダンジョンは浅い階層であればソロの初心者冒険者でも危険が少ない上に得られる『資源』も多く、今や初心者冒険者がまず目指すダンジョンとまで言われていた。

 冒険者として独り立ちするために村を出たジェンナにとっては避けて通れない道でもある。


 この頃のジェンナは『スキップ』は全ての魔物に等しく効くと思っていた。

 しかし結果は違った。


 なんと、ローゴブより強いお化けコウモリ相手に使った時は発動すらしなかったのだ。

 もしかしてローゴブ専用のスキルなのかとも考えた。

 だがダンジョンでは同じくらいの強さのハンターラビットやミニスライム相手には同じ様に使えたはずである。


 その結果からジェンナが導き出した答えはこうだ。


『スキップは自分より弱い敵にしか効果が発揮されない』


 つまり当時のジェンナはお化けコウモリと戦うにはまだまだ力が足りなかったという事である。

 あれから一年、今のジェンナならお化けコウモリ程度になら勝てるかもしれない。

 だけれど命からがら傷だらけで逃げ出したあの時から、ダンジョンは彼女にとってはトラウマな場所なのである。


 そこには『スキップ』が効かない敵がうようよいるに違いないからだ。

 ずっと戦闘を『スキップ』に頼ってきたジェンナは戦闘技術等はまったく育っていない。


 あの日、お化けコウモリから逃げる事が出来たのは本当にただの幸運でしか無かった。


「またまたローゴブ発見! 本当にこの森はローゴブ天国だなぁ。というかローゴブ以外の魔物を見かけたこと無いけどさ」


 見つかった瞬間に倒されてしまうローゴブ自身にとっては地獄かもしれないけれど、ジェンナにとっては天国だ。

 なんせほぼノーリスクで獲物を狩り続けられるのだから。


「おかげでダンジョンなんかに入らなくても十分稼げちゃうからね。楽して儲けるのが私のポリシーっと」


 ジェンナは足元に転がる魔石を袋に入れて、その重さを確かめた。

 ずっしりとした重みにジェンナの顔が思わずニヤける。


「今日の狩りはここまでにしよっと。お仕事はお昼までってね」


 朝もそんなに早く無い時間に森に来て、お天道様がてっぺんを過ぎたら帰るのがジェンナの日課だ。


 この森に通う様になった最初の頃、調子に乗って暗くなるまでローゴブ狩りをしていた時の事。

 暗闇から突然襲いかかられたジェンナは、慌ててスキルを発動する前に手傷を負わされた。


 いくらローゴブ相手には無敵のスキルだと言っても、発動前に攻撃されればどうしようも無い。

 その事があってからジェンナは周囲が見えにくくなる時間帯は避ける様になったのだ。


「いっそ町への帰り道も『スキップ』出来たらいいのにな」


 などと怠惰な事を口にしながらジェンナは、のどかな風景の中を街道へ向かってスキップで森の中を進んでいくのだった。


次話も本日中投稿予定です。

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