第16話 ジェンナ、ニーノの町に着く。
「久々に来たけど、この町はあんまりかわってないね」
ジェンナは町の入り口でギルドカードを提示して町の中に入ると、昔来たときより少し活気があるかなといった程度の町並みを見渡す。
この町の名前はニーノ。
ジェンナが買い取った家の元家主である老婆が向かった港町と王都等をつなぐ位置にあるため、昔から旅人や商人、冒険者たちが旅の途中で必ず立ち寄る町として栄えていた。
ダンジョン町として栄えているアンダーステイと違い、武器防具や冒険者向けのお店より、一般向けの商店が多く、様々なものが売られている。
ずっと家を買うお金を貯めるために頑張ってきたジェンナにとっては、ながらく立ち寄ると無駄に欲しい物が目に入って散財してしまう悪魔の町でもあった。
「せっかく来たんだし、本当は色々買い物でもして回りたいんだけど今日はお仕事だしなぁ」
ちなみに今の彼女はまだチェンジリングを使っていない普通の女の子冒険者の格好である。
アルフレッドは街を出るときからジェイドの格好のままで行く事に何故かこだわったが、ジェンナはそれを断固拒否。
乙女なジェンナにとって、男の子の格好で一日程度とはいえ旅をするなんて耐えられなかったからだ。
ちなみにギルドカードはジェンナが変身すると、不思議なことに自動的にジェイドのカードに切り替わる事がわかっている。
古の天才魔道具師が作ったブラックボックスがどういった仕組みなのかわからないが、ジェンナの活動にとってかなりありがたい仕組みであることには違いない。
ジェンナは晴天の空を見上げる。
時刻としては朝と昼の間くらいだろうか。
「昼までには新町長様の所に行かないといけないし、あまりのんびりはしていられないのよね」
アルフレッドから受け取った指示書を、彼から与えられたギルドの備品の一つであるマジックポーチから取り出す。
そこには今回の任務の内容が、つらつらと書き連ねられている。
「とりあえずギルドに寄って爺ちゃんからの手紙を渡してっと……あー、その前に変身しとかなきゃいけないのか」
ジェンナは心底嫌そうな表情をしながらもあたりを見回してチェンジリングを使っても人に見られない場所を探す。
町に入る前にどこかの木陰で済ませておけばよかったと後悔しつつ、人気のない路地裏に入り込むとチェンジリングを使用して姿を変えた。
「よしっと。それじゃギルドにいきますか」
気合いを一つ入れてジェンナは路地裏から出ると、癖になっているスキップしながらニーノの町のギルドへ向かった。
その日、ニーノの町に『スキップしながら高速で走り抜ける仮面の少年』という七不思議が一つ加わった事をジェンナは知らない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「こんにちわ」
ジェンナ改めジェイドがギルドの扉を開けて中に入ると、一斉にその場の注目が彼に集まった。
ギルドの中には冒険者らしき筋骨隆々とした男たちと、依頼を市に来た町民でごった返していた。
時間的にギルドが一番込み合う時にやってきてしまった変な仮面をつけた男の子に訝しげな視線が突き刺さるのは仕方のないことであろう。
「あ、あの」
ジェイドが戸惑っているとカウンターの奥から一人の初老の男が出てきた。
彼は職員たちに「私の客だ」と継げるとジェイドを奥の応接室に案内する。
ジェイドを先にソファーに座らせた後、その対面に座った彼はジェイドの顔をまじまじと見つめる。
「な、なんでしょうか」
思わずジェイドは少し引き気味にそう尋ねる。
「ああ、すまない。挨拶がまだだったね。私はこのニーノギルドのギルドマスターをしているアズレンというものだ」
「ギルドマスターでしたか。わた……僕はジェイド。今日は新町長の護衛任務を受けてやってきました」
「ふむ、話は聞いているよ。君がアルフレッド殿の秘蔵っ子というわけだ」
「えっ」
「しかし、彼に君のような弟子がいたなんていう話は今まで聞いたことがなかったのでね。少し興味があったんだよ」
「ごく普通の冒険者ですよ僕は」
「そうかい?」
「ええ、まごうことなき普通の冒険者です」
ジェイドがそう力説すると、アズレンはふっと笑顔を浮かべて。
「わかった。あまり詮索はしないようにするよ。彼からもそう言われてるからね」
と両手を上げて降参のポーズを取る。
「いったい爺ちゃんは僕のことを何だと思ってるんだろうか」
ぶつぶつと不満そうに呟くジェイドを横目に、彼はポケットから一通の封蝋で封をされた書簡を取り出すとジェイドに差し出した。
「これが護衛の任命状だよ。これを持って迎賓館に向かうと良い」
「迎賓館ってあの町の真ん中くらいにあるところですよね」
「そう、この街で一番立派な建物だから間違わないとおもうけど」
交通の要所であるこの町は大領主や王族も中継点として使うため、立派な迎賓館が建てられている。
「それじゃ護衛任務頼んだよ。まぁ、あのアルフレッド殿が信頼して送り出したほどの冒険者だし、心配謎してないがね」
「そんなプレッシャー掛けないでくださいよ。というか爺ちゃ……うちのギルドマスターってそんなに信頼されてるんですか?」
「そうだね、君は彼のことをどこまで知ってるのかな?」
「王都のギルドを引退してアンダーステイで老後をのんびり過ごそうと赴任してきた人としか」
ジェイドの言葉に一瞬驚いたような表情を見せたアズレン。
「そうか。うん、まぁそんな所かな」
「??」
「私は昔彼にお世話になったことがあってね。それ以来彼の事を尊敬してるんだ。だから彼のやることには常に信頼している。それだけのことさ」
「そうなんですか」
微妙に腑に落ちない表情を浮かべたジェイドだったが、アズレンに「早く行かないと約束の時間に間に合わなくなるよ」と急かされて、渋々ギルドを出て迎賓館に向かって歩き出す。
そしてその背中を見送りながらアズレンは、誰にも聞こえないような声でつぶやいた。
「あの子が貴方が認めた後継者なのですね」
と。
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