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第15話 ジェンナ、教育を受ける。

「領主様の護衛?」

「正しくは領主様のご子息一家じゃがの」

「そんな偉い人がどうしてこの街に来るのさ」


 アルフレッドはおかわりしたお茶を飲みながらこの街の新たな体制についてジェンナに語り始めた。


 今回やってくるのは、この街を含む一帯を治める大領主ニング伯爵の次男であるプライエ・ニングとその家族である。

 現在この街の長を勤めているのは寒村時代からの村長であるレルゲンだ。


 街が小さいうちはレルゲンもなんとかアルフレッド達のような経験のあるものが支えることによって運営も回っていた。

 だが、アンダーステイの街が急速に大きくなるにつれてどんどん問題が噴出。

 アルフレッドがジェンナの手を借り、さらに王都のギルドに手助けを求めるほど治安が不安定になった理由の一つもそこにある。


 元々統治者としての教育を受けてこなかった彼ではこれ以上の運営は無理。

 その上、レルゲンにはその後を継げる後継者も居ない。

 そういった理由もあってニング伯爵は、自らの息子をこの街の新たな長として派遣することを決定したという。


「大領主様の息子さんだったらもっと大きな土地の代官様とかになれるんじゃないの?」

「それほど国王とニング伯爵殿はこの街を重要だと思っておるということの証左じゃろ」

「ふーん。それで護衛っていつ?」


 ジェンナにとっては雲の上の人の話なので「そういうもんか」としか思えなかったようで、実に無関心である。

 彼女としては上がどう変わろうとも、ようやく手に入れた家のあるこの街で平和に暮らせれば良いわけで。


「明後日には隣町に到着するはずじゃから、ジェンナにはジェイドに変身してもらって明日隣町に向かってくれ。そこから護衛に合流してこの街まで案内してくれれば良い」

「そんな中途半端な所からの護衛でいいの?」

「急なことじゃったからの。ちょうどワシが王都に出向いて留守にしてたせいで報告が届くのが遅れたという理由もある」


 その後、アルフレッドは護衛任務についての諸注意をジェンナに告げると、ギルドでやり残した仕事があるらしく足早に帰って行った。


「そういえば私まだ領主様とか偉い人に会ったことないんだよなぁ。敬語とか必要なのかな?」


 もし知らずに失礼なことしてしまったら処刑とかされてしまうのじゃなかろうか。

 急にそんな不安に襲われたのと、先ほどまで寝ていたせいもあって、それからジェンナは朝まで眠れぬ夜を過ごしたのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「眠い」


 結局一睡も出来ずに朝を迎えたジェンナは、手早く身だしなみを整えると家を飛び出してギルドに向かった。

 せめて簡単な礼儀作法程度はアルフレッドに教わっておこうと思ったからである。


「爺ちゃん居る?」


 ジェンナがギルドの扉を開けて飛び込むと、何事かと目を丸くしているリーリアさんがギルド内を掃除しているのが目に入った。

 ほかの職員はまだ出てきていないようだ。


「ジェンナちゃん、そんなに慌ててどうしたのかしら?」


 ちりとりの中のゴミをゴミ箱に放り込みながら、リーリアは尋ねる。

 

「爺ちゃんに頼みたいことがあって」

「マスターならまだ寝ていらっしゃるわよ。昨日夜遅くまで仕事してたみたいだったから」


 そう言いながら箒とちりとりを片付けると、彼女は近くのテーブルセットの椅子に座るとジェンナを手招きする。


「とりあえず落ち着いて話してくれるかしら? もしかしたら力になれるかもしれないわよ」


 誘われるままにジェンナはリーリアの対面に座る。

 そして昨夜、アルフレッドが家にやってきて彼女に伝えたことを話した。


「それでそんな死にそうな顔してたんだ」


 くすくすと上品に笑うリーリアを見て、ジェンナは頬をぷっくりと膨らます。


「もうっ、笑い事じゃないですよ! もし私が死刑になっちゃったらどう責任とってくれるんですかっ」

「あら、ごめんなさいね。ジェンナちゃんがあまりにかわいらしいことを言うからついね」

「私にとっては生きるか死ぬかの問題なんですっ」


 ぷいっとそっぽを向くジェンナ。


「そうね、そうよね。普通の人は領主様とか貴族の人たちと関わることはほとんど無いものね」

「私の会った中で今まで一番偉い人は村長さんくらいですよ」

「あら? うちのギルドマスターの方が偉いわよ?」

「爺ちゃんは爺ちゃんだから」


 ジェンナの中ではどうやら『王都にも顔の利くギルドマスター』よりも『生まれた村の村長』の方が偉い人らしい。

 このあたりは単純に価値観の違いなのか、はたまたそれだけジェンナにとってアルフレッドが身近な人物ということなのか。


「でもジェンナちゃんが心配するようなことは何もないと思うわ」

「そうなの?」

「ええ、この街に赴任なされるナバイト様はとても気さくな方ですからね。よほど失礼なことでもしない限り大丈夫よ」

「その『よほど失礼なこと』ってのがどこまでなのかがわかんないから困ってるんだよぉ」


 机にぐったりと突っ伏したジェンナの頭を、リーリアはまるで子供をあやすかのように優しい手つきで撫でる。


「仕方ないわね。それじゃ私が出発するまでの間にできる限りの礼儀作法を教えてあげるわよ」


 その言葉に、突っ伏していた机からガバッと顔を上げるジェンナ。


「本当!? ありがとうリーリア。大好きっ!」


 そして、短いながらも濃密な地獄の特訓がギルドの別室で行われる事になった。

 結局その特訓は、アルフレッドがジェンナを探しにその部屋にやってくるまで続いたという。



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