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第11話 ジェンナ、指輪をプレゼントされる。

「チェンジリング?」

「そうじゃ、これじゃ」


 アルフレッドはそう答えると、自らの机の引き出しから取り出した箱の蓋を開ける。

 そこには宝石の代わりに魔石が取り付けられた銀色の指輪が収められていた。

 

「私、爺ちゃんには世話になったって思ってるし好きだけどさぁ、こういうのは受け取れないよ」

「違うわバカ娘」


 ジェンナの現在のレベルが判明してからしばしの時間が経っていた。

 その間、自分のレベルの異常な高さにおののくジェンナと、魔道具の故障を疑うアルフレッドは、様々な方法で測定結果が真実なのかどうかを試した。

 ギルド併設の訓練場で模擬戦闘をしてみたりもしたのだが、どうもジェンナ自身の力としてはとてもレベル99の実力は見いだせなかった。

 だが、アルフレッドはたしかに見たのだ。

 あのゴロツキ共をとんでもないスピードで地に沈める姿を。


 そこでたどり着いた結論は『スキップ』というジェンナ固有のスキルが発動している間だけ彼女はレベル99の力を発揮するのではないかということだった。

 だけれどアルフレッド相手には『スキップ』を発動しようとしても出来ない。

 どうやら敵対的な相手以外には発動しないのではないか。


 その後もアルフレッドはジェンナを引き連れて森へ向かったり、あらくれどもを利用したりして調べ回った結果――。


「完全にはわからんがとにかくその『スキップ』が発動してる時だけ、ジェンナはとんでもなく強いようじゃ」

「なによ、その大雑把なのは」

「とにかくじゃ、お主のそのとんでも無さそうな力はどちらにせよ人に知られ無いほうが良いじゃろうな」

「そうなの? 強いほうがモテモテになるんじゃないの?」

「お主はまだ若いからわからんのじゃろうが、強い力というものは良いもの以上に悪いものを惹きつけるものなんじゃ」

「へー」


 全くわかっていないような生返事をするジェンナに「やれやれ」と肩をすくめたアルフレッド。


「兎にも角にもその力を使う時に、それがジェンナだとばれない工夫が必要じゃな」


 そうぼやきながら彼が自らの机に戻って取り出したのが先ほどの指輪であった。


「そのリングは一種の魔道具でな。その魔石の中に複数の魔法がセットできるようになっておる」

「へー、なんか凄そう」

「実際凄いんじゃぞ。なんせ一度セットした魔法は、魔力を供給すればまた使える様になるという代物じゃ」

「魔法の巻物みたいな使い捨てじゃないんだ」


 ジェンナは箱の中の指輪を取り出して左手の中指にはめる。

 すると少し大きめだったリングが自動的にジェンナの指の太さに変化した。


「わぁっ、私の指にぴったりな大きさに変わったよ。だからチェンジリングって言う名前なのかな?」


 ジェンナは自分の手のひらをくるくる動かしながら指輪の装着具合をチェックする。


「それは違う」

「違うんだ。だったらなんでチェンジリングなんて名前なのさ」

「うむ、百聞は一見にしかずじゃ。その魔石に振れながら『変身!』と唱えてみろ」


 アルフレッドがジェンナの指に嵌まっているチェンジリングを指差して告げる。


「えー、なによそれ。恥ずかしいじゃん」

「いいから早くやれ」

「もぅ。わかったわよ! やればいいんでしょやれば」


 ふくれっ面になりながらもジェンナはチェンジリングに手を触れさせる。


『変身!』


 その瞬間だった。

 彼女の全身が突如白い光のベールに包まれる。


「わわっ、なにこれっ」

「慌てるでない、魔法の力にすべてを委ねるんじゃ!」


 慌てふためくジェンナだったが、アルフレッドのその言葉を受けておとなしく成すがままに暴れるのを止める。

 なぜだか体中がくすぐったい。


「ひゃっ」


 やがて光のベールが徐々に消えていくと、その中からジェンナの姿が現れた。


「成功じゃ。ジェンナよ、鏡を見てみい」

「何がどうなったの……」


 ジェンナはふらつきながら、応接室に備え付けられた鏡の前に移動する。


「えっ、なに? これが私……なの?」


 鏡の中に映っていたのはジェンナが何時も見慣れた女の子の姿ではなく――。


「どうして私が男の子の格好になってるのよーーーーーーーーーーーっ」


 髪も短く切りそろえられ、男装した自分の姿が映っていたのだった。

 元々幼く、中性的な顔立ちだったせいか、ジェンナを知らない人から見ると普通に男の子にしか思えないだろう。


「というか私の髪はどうなっちゃったの!」


 ジェンナは叫びながら鏡にかぶり付く。


「それになんなの。この変なマスクは!」


 鏡に映ったジェンナの顔には、仮面舞踏会でよく貴族が付けていると云われているメガネのようなマスクが張り付いている。

 不思議なことに鏡には映っているものの、ジェンナの目にはまったく映っておらず、その視界は何も付けていない時のままだ。

 だから鏡を見るまで自分がマスクを付けていることすら気が付かなかった。


「それがそのチェンジリングの本来の力じゃ」


 アルフレッドは男装したジェンナの姿を満足そうに見ながら続ける。


「見た目が変わると同時に、周りに認識阻害の魔法をも掛ける。それによって、チェンジリングを使った者の正体を隠す事ができるのじゃ」

「それって見た目変える必要なくない?」


 そもそも認識阻害がかかるのならそれだけで十分なはずだ。

 どうせ格好が変わったとしても相手にはわからないのだから。


「そういうわけにもいかんのじゃ。世の中には認識阻害魔法が聞きにくい者もけっこうおる。特に貴族の屋敷を守る守衛とかは、そういう力を持った者、もしくは認識阻害魔法を阻害する魔道具を装備した者が雇われているのが当たり前なんじゃ」

「たしかにそんな人達がそんな魔法にかかるようじゃ門番なんてできないもんね」

「それにのう」


 アルフレッドは腕を組んで自らの席に座りながら答える。


「そのチェンジリングの認識阻害能力は専門の魔道具に比べそれほど強くないのじゃ」

「どれくらい?」

「薄っすらと顔とか覚えられるくらいかのう」

「意味ないじゃん!」


 どうやらこのチェンジリング。

 いろいろな機能を拡張できるように改良かいあくされたために、最初からついている力が弱くなってしまったらしい。

 本来なら男装どころか完全な他人や、人以外のものに化けたりも出来たらしいのだが。


「だから使いみちがなくてワシが秘蔵しておったのじゃよ」

「そんな失敗作を貰ってどうしろっていうのさ」


 ジェンナはそう叫ぶと、指にハマったチェンジリングを取り外そうと反対側の手で引っ張った。

 だが、彼女の指の太さに合うように変形した指輪は全く外れない。


「ぐぬぬぬぬ」


 スキルを使っていないときのジェンナは普通の冒険者程度の力しか出せない。

 そしてその程度の力ではなぜかそのリングは外すことが出来なかった。

 まるで呪いの装備である。


「いっそぶち壊しちゃえば外れるんじゃないかな?」

「十億」

「へ?」


 指輪を今まさに引きちぎろうとしたジェンナの耳にアルフレッドの声が届く。


「そのチェンジリングの値段は十億テールじゃぞ」

「じゅ……十億っ!?」

「それを壊すというのか?」


 ジェンナはその言葉を聞いて指輪から手を離すと、その場にへたり込んでしまう。


「じゃあどうすればいいのよー」


 半泣きになりながら嘆くジェンナにアルフレッドは答える。


「ワシがその指輪をジェンナに渡したのは別に意地悪するためでも、男装女子を愛でたいというわけでもない」

「本当?」

「オヌシはワシを何だと思っとるんだ。ワシにはそんな趣味はないわい」

 

 ジェンナの疑いの眼差しを否定した彼は、この高価なチェンジリングを彼女に渡した訳を話し始めた。

 それは彼女のこれからの人生を劇的に変えてしまう内容であった。



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