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第10話 ジェンナ、調べられる。

「爺ちゃん明日じゃだめ?」

「だめじゃ」


 ジェンナが渋々とアルフレッドに背中を押されながらギルドマスター室へ入る。

 彼女がこの部屋に呼ばれる時は、だいたいにおいてお説教を食らう時だ。

 なのでなるべくこの部屋には近寄りたくない。

 そんな心情がその顔にはありありと浮かんでいる。


「とりあえずそこに座れ」

「はーい」


 アルフレッドに言われるまま、ギルドマスター室の応接椅子に彼女は座る。


 ずぶずぶずぶ。


「あふぅ、相変わらずこのソファーは柔らかすぎると思うの」


 小柄な彼女のお尻は、柔らかすぎるソファーにすっかり沈み込んでしまっている。


「しょうがないじゃろ、王都のギルドがくれた応接セットを使わないわけにはいかんからのう」

「爺ちゃんがこのギルドに来る時に一緒に運んできたんだったっけ?」

「ワシは邪魔だから要らんと言ったんじゃがの。どうしても持っていけと言われて断りきれんかったんじゃ」


 アルフレッドはジェンナの言葉に応えながら自らの仕事机から四角い箱の上に丸い玉が乗ったようなシンプルなデザインの魔道具を取り出す。

 軽く息を吹きかけると、魔道具に積もった埃が部屋に広がる。


「げほっげほっ、爺ちゃん何すんのよ」

「すまんすまん、もうずいぶんと使ってなかったから思った以上に埃が積もっておったようじゃ」


 アルフレッドはその謎の魔道具をジェンナの前に置く。

 ソファーに沈み込んだ体を持ち上げる様にしてその魔道具を覗き込んだジェンナは、その視線を対面に腰掛けたアルフレッドに移動させる。


「これが何か教えてほしいか?」

「うん」

「これはな、総合能力測定装置・改じゃ」

「総合能力測定装置って、あのギルドのカウンターに置いてあるやつ? でもあれは箱だけよね。こんな丸い玉なんてついてなかったはずだし」


 ジェンナはこの街に来て初めてギルドカードを作るために彼女の能力を測定した魔道具を頭に思い浮かべる。

 あの時のジェンナは『レベル4』で、ほぼ最低難易度の依頼しか受けられないEクラスと判定された。


 クラスとはギルドが冒険者に依頼を出す時の目安である。

 その目安はその冒険者の総合能力から導き出される『レベル』によって分けられる。

 レベル1~5の間はEランク。

 その次5~10の間はDランク。


 5レベルごとにランクが上がっていく様になっている。

 なお、この『レベル』や『ランク』という概念は、魔道具を作った古の大賢者が作ったものだと言われている。

 

「そういやギルドカード作った時から一回も私測ってないや」

「うむ。普通の冒険者であれば自らのランクを上げるために定期的にチェックするんじゃがな」


 冒険者たちにとってランクとレベルは自分を依頼主に売り込み、高額報酬を得るために重要なものである。

 なので彼らは定期的にギルドの魔道具を使い自らの能力値を調べるのだ。

 そしてレベルが上がり、ランクが変わればそれはギルドカードに表記される。


 だがジェンナは違っていた。

 村を出て、危険マージンを一切取らずにこの街でのんびりと暮らしていくという事だけを目的にしていた彼女。

 そんな彼女にとってランクが上がる事は必ずしも良い事ではない。


 冒険者はランクが上がると、得られる報酬が上がると同時に、様々な責務を追う事にもなるのだ。

 例えば新人冒険者の教育係を一定期間行わねばならなかったり、ランクが高くなれば街や国から、断れない勅命依頼を押し付けられたりもする。

 もちろんその手の依頼はかなりの高額報酬である上に、名誉もついてくるため、冒険者が高ランクを目指す理由の一つになっている。


 だがジェンナはそんな事は求めていない。

 彼女は危険のない範囲でひっそりと好き放題生きていきたいだけなのだ。


 だから彼女は最低ランクを死守するためにギルドカードの更新を一度も申請しなかった。

 なぜならDランクのレベル5までは、普通に冒険者をしていれば簡単にたどり着いてしまう。

 初心者扱いで、ほとんど義務も責任もなく、それどころか初心者優遇措置までもらえるEランクを彼女が捨てるわけがない。


「これやっちゃったらギルドカード更新されちゃうんでしょ?」


 ジェンナはアルフレッドに苦虫を噛み潰したような顔でそう尋ねる。

 その顔は絶対やりたくないと物語っていた。


 だが、アルフレッドはそんなジェンナに好々爺然とした笑みを向けてこう答えた。


「ジェンナがランクを上げたくないと思っているのは知っておる。だから今日はこのとっておきの『総合能力測定装置・改』を用意したのじゃよ」

「それってカウンターのとこのやつと何が違うのさ」

「これはな、通常の能力測定魔道具と違ってまずはレベル99まで測る事が出来る」

「レベル99? カウンターのやつだと40位までだよね。そんなに必要なの?」


 ジェンナは疑惑に満ちた顔で、目の前に置かれている魔道具をまじまじと見つめる。

 彼女が不思議に思うのも無理はない。

 なんせ現在存命の最高クラスの冒険者ですらレベル40を超えた程度なのだ。


 過去に遡っても、伝説に謳われる建国王でもレベル64。

 彼はこの大陸に存在した凶悪な魔物の王たちを尽く打倒し、現在の王国を作り上げた人物である。


「まぁそこまでは必要ないとは思うんじゃが、大事なのはもう一つの機能じゃ」

「それってまさか」

「うむ、この『総合能力測定装置・改』はギルドカードの更新をしないという事が可能なのじゃ」

「それって本当!?」

「本当じゃとも。少なくともジェンナのカード表記は今のままで調べる事が出来る」


 実はアルフレッドのその言葉は半分本当で半分嘘であった。

『総合能力測定装置・改』の持つ本当の力はギルドカードの改変というものである。

 そもギルドカードの改変や改ざんは通常はどうやっても不可能であるというのが建前だ。


 ギルドカードというのは身分証明書なのだ。

 そして身分証明書たる理由の一つがギルドカードの偽造・改変は不可能であるという部分にある。


 もし偽のギルドカードで身分を偽るなどした場合は厳罰に処される事になっている。

 ギルドカードの真偽は簡単な魔道具でチェック出来るため、商人などは常に真偽チェックの魔道具を持ち歩いているほどだ。


 なのにその根底が覆されてしまうこの魔道具の存在はギルドでも一部の者しか知り得るものではない。


「だからジェンナの今の本当の力を測定させてくれんか?」

「ギルドカードが更新されないならいいよ。私も自分の今の力を知りたいと思ったし」


 彼女は今までローゴブを倒すくらいの力しか自分にはないと思っていた。

 だが今日、どう見ても自分より強く見えたあのゴロツキを、しかも二人も同時に『スキップ』で倒す事が出来てしまった。


『スキップ』は自分より弱い相手にしか発動しないはずだ。

 という事は今の自分はいつの間にかあの屈強そうなゴロツキより強くなっているという事になる。


「ローゴブばかり倒してたから、自分があんなゴロツキより強くなってるなんて思わなかったんだよね」


 彼女はそう口にしながら目の前の測定魔道具に手を伸ばす。

 ジェンナの手のひらが上部の球体に触れると、ぼわっと淡く光を発する。

 そして徐々にその光が強くなっていく。


「眩しいっ」

「なんじゃこの反応はっ!」


 球体の光がひときわ輝き、ジェンナとアルフレッドは思わず目を閉じる。

 その光はギルドマスター室の窓から外の路地を照らすほどだったと後にアルフレッドは知り、適当な言い訳を考えるのに難儀したという。


「ふぅ、おさまったようじゃの」

「目がチカチカするよぅ」


 ジェンナとアルフレッドは突然放たれた光に奪われた視力が戻るのをしばしソファーに沈み込みながら待った。

 やがて視界を取り戻したところでアルフレッドが測定魔道具に手を伸ばす。


「ずいぶん使っておらんかったから壊れたんじゃなかろうな」


 アルフレッドがこの魔道具を王都のギルドで使ったのは、この街に赴任してくる前の話だ。

 その時も光を放ったが、今回の様に目がくらむほどではない。


「ふむ、とりあえず結果を見て見るか」

「よろしくおねがいしまぁす」


 未だソファーから起き上がってこないまま、片手を上げて言うジェンナをアルフレッドは「やれやれ」と一瞥すると測定魔道具の背後に表示された数字に目を向けた。


「なん……じゃと」


 目の前に提示されたその『結果』に一瞬言葉を失ったアルフレッドが目をこすりもう一度表示を見返す。

 しかし提示されたその『数値』は当たり前だが変化する事はなかった。


「んぅ? どうしたの爺ちゃん」


 アルフレッドの今まで見た事がないような顔と声にジェンナも起き上がり訝しげな顔をする。


「よっと!」


 彼女は固まったまま動かないアルフレッドを不審に思いつつソファーから飛び起きて彼の横までとことこ歩いていく。


「何かおかしかったかな?」


 そしてアルフレッドの目線を追う様に測定魔道具が表示するその数字に目を向けた。


「えっ、私のレベル高すぎ……って! 本当に高すぎっ!!!」


 両手で口元を抑えながらジェンナが見た彼女の測定された現在の能力総合評価レベル。

 そこには大きな文字で『LV99』とだけ表示されていたのだった。


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