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第二十五話 死峰アンドロマリウス(Ⅵ)~引き裂かれし同門

 フレアとラウニィー。いずれもナユタと許伝(アインフル)主席の座を争ってきた、トップクラスの実力を誇る者同士。敵意をむき出しにし相対した今、体内の魔力を惜しむことなく膨大に放出する臨戦態勢に入った。そう――始めて本気で互いを「殺そう」と仕掛ける態勢にだ。


「私ね――ヘドが出るほど貴方が大嫌いだったわ、ラウニィー。私が入ったばかりのとき、ナユタと二人で訪ねてきたときからずっとね。

幸せな家庭に育ち苦労も知らない、常に卒なく正しい優等生。男になんて興味のないって素振りの清楚な美人。只でさえ私の嫌いなタイプなのに加え、ナユタにまとわりついて無駄に鋭い眼で私の邪魔ばかりする虫みたいな女。今私はね、本当に嬉しいのよ。貴方を心おきなく全力で殺せることが。心の底からね。

いつから、本当の私に気がついたの? やはりラージェに向かうあの馬車の中で目が合った時かしら?」


「ご明察よ。さすがに――爪に針を刺す激痛で自分を抑えてる姿は異常すぎて、気づかざるを得なかった。失態だったわね。私の方はその時点からにはなるけど、あなたへの敵意の強さは同じ」


「それを誰にも云わず黙ってたのは、事を荒立てたくなかったから?」


「そういう、ことになるわね。師兄達に話せば最終的にあなたを排除することはできたかもしれないけど――。なぜか直感したの。それをしてあなたを追い詰めれば、むしろ確実にナユタに危害が及んでしまうって」


 フレアは貌を下げ、恐ろしく不気味な含みのなる笑みを浮かべた。それはラウニィーの直感が正しいことを示すものだった。道連れにしてでも殺したいという、ナユタへの強い殺意に対する直感が。サタナエルとつながる彼女には、それが可能だということも当たっていたのだ。


「あなたの本性に気づけたのがこの私だったのは、運命なんだわ。なぜならこうして、ナユタを守ることができたから!」


 ラウニィーは両手拳を前に突き出し、構えをとった。

 ここは、洞穴を抜けた先にある巨大地下空間。100m超の縦奥行きを誇るが、もろくなった洞穴を崩してしまうため、暴風突風を飛散させる技は使うことができない。なれば――直接空気を打ち出さない、この技しかない。



「“灼熱圧縮煉獄殺フェウラーコムプレシオネ”!!!」


 

 空気急圧縮による高温を発生させる、死の風魔導。これに対しフレアが放ったのは、重力魔導でも最強の殺傷能力をもつ己の奥義であった。



「“瞬動斥力波(フォルスレプシブ)”!!!」



 歪む大気の熱と、人体を瞬時に粉々にする重力波という2つの災厄は、衝突し地下空間内に轟音を響かせていった。





 

 

 一方、強敵ラウニィーに対峙するため一対一の態勢となったフレアに取り残されてしまったジュリアスは、親友ダンと相対していた。


「ジュリアス……まだ、引き返せるよ。おれと、戻ろう。まっとうな表の世界にさ。

ニナの件が許されることはないだろうし、さらに人を殺してしまったのも確かかもしれない。けどまだ、君にとっては不可抗力の範囲だろう? おれが必ずお師匠に口添えするから……頼む、来てくれ」


 悲しみをたたえた表情でジュリアスに近づき、手を差し伸べるダン。ちょうど今しがた、彼に対してフレアがしたように。


 ジュリアスは、貌を歪めていた。その色はきわめて悪く、小刻みに震えている。本来はこのような大胆な計画に賛同できる度胸などない彼。フレアに溺れ忠誠を誓い、自らを悪に堕とすことで呪縛を解き放ったかに見えたが、拮抗した現在の状況に臆病の虫がうずき始めているようだ。

 だが彼は――いちどギリッと歯を噛み鳴らし、ダンの手を振り払った。


「ジュリアス……!」


「不可抗力だと――? 俺を嘗めるなよ、ダン。たしかに俺は、フ――フレアの軍門に下ったが、この計画に加わったのは、あくまで自分の意志だ。人殺しもな。俺は臆病者かもしれないが、今やもう吹っ切れたんだよ。悪の道へな。

それに……何を、誰に向かって偉そうに口をきいてるんだ? 『ウスノロのダン』。餓鬼の頃から何をやってもダメで、俺にくっついて太鼓もちをしてやがった奴が、一丁前に人を見下してるんじゃない……!!」


「そうだな……。おれは、昔からてんでダメなやつで、君がいなきゃ何もできなかった。君はおれにとって何でもできる英雄(ヒーロー)で、本当に尊敬してきた。そりゃあ、内心そうやって見下されてたのは良く知ってたさ。本当の情けない君の姿に失望もしたけど……。それでも恩義は山ほどあるし、親友だと今でも思ってるんだ。

おれは強くなったかもしれないけど、それは手段にすぎない。おれはナユタが好きで、おれのものにすることに全てをかけてる、ただそれだけ。君も魔導ができなくなってもきっと見つかる。全てをかけられる目標が――」


「うるせえええええええ!!!!」


 ついに負の感情を爆発させたジュリアスが、身体中から魔導の光を発した。


 本来漆黒の闇である地下空間が一瞬、まるで昼空のように照らされた。


「何を云われようと俺はお前を殺し、“サタナエル”の一員となる!!!

貫通光斬撃殺(ドルチリングゲンテ)”!!!!」


 掛け値なしの最強の技――死の光線を、かつての親友にぶつけるジュリアス。


 ダンは悲しみの表情で、両手を突き出す魔導の構えをとった。ここにおいて親友との殺し合いを避けられないものと悟った彼もまた――。全力の魔導発動に移行したのだ。


「……“火竜滅死焼波(サルマンデルギュオー)”!!!!」


 ダンの前面に収束された炎が、一頭の竜を形作った。それはまさに咆哮を上げるがごとく、ジュリアスの放つ光線に真っ向迫る。

 入門時には許伝(アインフル)となれずジュリアスに差を付けられ、やがて昇格を達成しても劣等生のままだった彼は今や、同門でも強豪の一角となるまでに成長した。

 その強烈な炎は――光線とぶつかり合っても完全に拮抗していた。


「ぐうおおおお!!!」


「……ぬうう!!!」


 衝突し、轟音を上げる光と炎。その拮抗状態は少しの間続いたが――。


 勝利したのは、「光」の方だった。


 押し負けた「炎」は地面に弾き飛ばされ、そのまま消滅していった。


 そして光線はまっすぐにダンに到達し、その右半身を腿から肩口まで、ざっくりと切り裂いた。


「ぐっ……!!!」


 鮮血をあげ、傷口を押さえながら崩れ落ちるダン。


 それを見て、明らかな安堵の表情で震え、貌を引きつらせながら彼に近づいていくジュリアス。


「はっ――ははははははっ!!!! どうだ、ダン!!! これが現実だ! 俺が優れ、お前が劣るっていうなあ!! 多少差が詰まろうと、それが変わることはないんだよ!! 俺はサタナエルにふさわしい一流だ!! “副将”、“将鬼”とかいう地位にだって、すぐに登りつめてやる! はははっ!!!!」


 しかし――。それを見上げるダンの目は、悲しみをたたえながらも全く、死んではいなかった。彼の身体から、魔力が発され続けていることをようやく認識したジュリアスの表情が凍った。


「魔導の、優劣はね。だけど『戦い』はそれで全てが決まらない。放棄して逃げた君と、命がけで立ち向かい戦果を上げたおれの間には、『戦い』という要素で完全に優劣がついているんだよ……ジュリアス」


 その言葉にジュリアスが目を見開くのと――。


 彼の足元から、消滅したはずの炎竜が突如現れ、身体を炎で覆い尽くすのとは、ほぼ同時だった!


「ううううああああ!!!! ぎゃああああ!!!! あ、ああ(あち)い!! (あち)いいいいい!!!!!」


 絶叫を上げるジュリアスの身体は――毛皮の上着が焼け、その下のローブが焼け、さらに白い肌もブロンドの髪も、全てが瞬く間に焼き尽くされていった。そして全くとどまらない炎の勢いは筋肉を、骨をも焼き――。


 ついには、灰と骨片だけの姿になって、地面に惨めに落ちていったのだった。


 ダンは息を荒く継ぎ、己の重傷に応急処置を施しながら、親友だった亡骸に向けてつぶやいた。


「真正面から勝てるなんて思わないさ。わざと弾かせ、死角から不意打ちするのを最初から狙ってた。君はほんの初歩ですら、『戦い』というものに対応できなかった。

残念だよ……本当に。おれはこういう戦いを、君と競いながら一緒にくぐりぬけていきたい、ラージェで心からそう思ったのに……。どこまでも、親友でいたかったのに」


 そう云ってダンは苦しげにうずくまりながらも――。己と同じ空間で継続する、一段次元の異なる高レベルの戦いに目を向けるのだった。


 



 

 その戦い、フレア対ラウニィー。


 本気を出した彼女らの魔導は、ダンやジュリアスに比べても数倍する威力を秘める兵器であった。


 初手の奥義対決は、互いの威力を打ち消し合って互角に終わった。


 その後は、空間を縦横無尽に移動し技の応酬を繰り広げていたのだった。


 重力魔導を使うフレア、風魔導を使うラウニィーともに、己の身体を跳躍させる術をもっている。

 超常的な跳躍による空中戦を交え、戦いは熾烈の一途をたどっていたのだった。



「“重力圧殺(ゲオトウェルラフト)”」



「“真空圧力殺(スバクウムトゥテン)”!!!」



 それぞれ原理は異なるが、死の圧力で対象を殺害する技。それもぶつかり合った結果、互角の魔力で相殺されていった。



「――実力を見せきっていなかったのは、お互い様だったみたいね!」



「当然よ――! あんなお遊技場で一番になるのが私の目的じゃないのだから。こういう時のために力はとっておくものよ、ラウニィー!!」



 天井近くまで跳躍していた位置から着地したとき、側方から炎熱の轟音と男の断末魔の声が響いた。



 それにより、二人は男同士の戦いの決着と、ジュリアスの死を理解した。



 フレアは――仲間の死に対しても横目で一瞬の一瞥をくれただけで、ほんの微かな感情ですらも示すことはなかった。



「やれやれ――魔導はそれなりに強いし少し期待してあげたんだけど。所詮はやっぱり役たたずのクズだったわね。いえ、ここはダンの凄さの方を褒めてあげるべきかしらね」



「私は――今まで生きてきてここまで、人を嫌悪したことはない。あなた本当に人間じゃないわ、フレア。本当の悪魔よ」



「あら? ジュリアスは貴方にとって仇同然でしょ、死んで嬉しくないの?」



「あなたなんかと一緒にしないで。彼が憎いのは確かだけど、本当に死んでほしかったわけじゃない」



「本当に、ヘドが出そうだわ。いい子ぶって……! 

私が貴方みたいな女を嫌いなのは、私自身が感情と欲望に忠実な女だからよ。それを糧に強くなり続けてきたからよ。

だからダンを好きになった。私と、同じだから。きっと本当の私を理解してくれると思ったから。

そう、そうよ……だから、ナユタだって……心の奥底ではきっと……」



 最後の方は独り言のようなつぶやきになったフレアの言葉。しかしラウニィーはそれを聞き逃さなかった。そして、目に宿した怒りの炎をさらに燃え盛らせて、云った。



「なるほど。あなたがナユタに執着していた本当の理由が、分かったわ。それは、馴れ馴れしくされた怒りでも、天賦の才能や性格やカリスマ性に対する嫉妬でもない。

貴方は、本当はナユタが好きで好きで、仕方ないのよ。

自分が無二の親友の座に――いいえ、正確には、自分一人だけの手に入れたかったんだわ」



「――!!!! な、何を、バカな――!」



「ナユタは純粋であけすけで、笑いも悲しみも、喜びも怒りも全力でする。欲望だって、変に隠したりしないし忠実。それは彼女の魅力だけど、貴方はダンに対して以上に、彼女の自分と共通する部分にシンパシーを感じたんだわ。そして魅入られてしまった。

あまりにそれが強かったから素直に認めることができず、『殺意』という歪んだ方向に捻じ曲げて納得していた。

けど今、私が助けなかったらここにいたのは私じゃなくナユタ。あなたは殺す体を装いながら、彼女を説得して手に入れることを望んでいたのよ。無意識にそう計画してしまうほどにね。

――もちろんナユタはきっぱり拒否し、殺さざるを得ない結果になったでしょうけど」



「違う!!! ちがう!!!! ふざけるな、誰が、あんな女ごときを――」



「あなたがナユタをどう思っていようが、変わりはしない! 誰が、あなたみたいな悪魔にナユタを自由にさせるものか!!! 私は絶対に、それを阻止してみせる!! 今永久に黙らせてあげるわ!!!」



 激怒の様相でラウニィーは、周囲に風を発生させ始めた。



「何を――? そんなことして、貴方自分も崩落に巻き込まれて死ぬわよ――」



 冷笑を浮かべながら云いかけて、フレアは瞬時に表情を固くした。



 そのまとい始めた「真空波」は、恐ろしく収束。周囲に一切の風圧を発生させることのない、刃の内側に威力を閉じ込めた高密度の帯状のカミソリと化し――それが幾条にも複製されていくのだ。


 その常人には思いつかない卓越したアイデアと実現力。絶大な魔力をも伴った技の危険度は――魔導士として一流たるフレアには即座に感じられた。

内心ではその実力を認めていたラウニィーの恐るベき才に、始めて恐怖に似た感情が噴出した。その貌は青ざめ、頬には冷や汗が伝っていた。



「ぐっ……! 上等よ……!! 来るなら、来なさい! 

私の重力魔導は、貴方の風魔導の上位の相性!! 必ず弾いてあげるから!!」



 フレアの叫びと時を同じくして、ラウニィーの手から、最強の魔導は放たれた。



「――“真空破壊旋嵐(カタストリファル)収束コンベルグ”!!!」



「“斥力磁場(アブストヴェンデス)”!!!」




 最強の魔導の力と、それに抵抗しようとする必死の反撃は、勝負を決める確かな予兆をまとって激突していったのだった――。

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