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自由の迷宮  作者: あんのうん
旅立ち編
8/22

新たな街

此処は、エルが目指す街、『ベラーティア』にある大きな屋敷の一室だ。


その一室に置かれている豪華な椅子にはブクブクと太り脂汗を流している、お世辞にも清潔とはいい難い男が座っている。その近くには、小さな眼鏡をかけ白髪に染まった髪をオールバックで綺麗に纏め上げた初老の男がいた。


「おい、『セネム』。例のクエストは出したんだろうな。」


「はい。勿論でございます。時期に到着するかと。」


「それならいい。税を納められぬ不届き者どもを早く一掃せねばならないからな。奴らは税を納めん癖に、いつまでも人の領地にいやがる。無能な奴はいつまで経っても無能のままであるな。はぁ、領主というのも面倒くさいとそうは思わんか?」


「申し訳ありませんが、私の立場では何も申し上げることはできません。」


「ふん。困った時はいつもそれだな。まぁいい。クエストは出したんだ。どうせ直ぐにやって来るだろう。それまでは無能な馬鹿どもに少しでも納めさせるとしようじゃないか。」


そう言った後、部屋に響くのは太った男の汚い笑い声。そして表情を崩すことなくただ立ち続ける初老の男。そんな2人の相反する光景を尻目に物語は進んでいくーー。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



エルは緊急クエスト後、本来のクエストをこなす為に新たな街へとやって来ていた。



この街での目標は、一先ずクエスト用紙に記載されている『フォレス』という名前の人物に会うことだ。クエストを行うなら、予めその当事者に会うことは前提である。しかし今回はクエスト用紙に『手伝ってほしい』のただ一言のみ。


クエスト用紙には、基本的に「助けてほしい」とその理由が大まかに書かれている事が常だ。だが今回のクエスト内容は不思議な点があった。1つは先ほども述べた一言のみの記載とその言葉。そしてもう1つはフォレスの所が1本線で『消されていた』という事だ。とは言うものの、普通と違うからこそ好奇心が掻き立てられ、更に書いた人物にも興味がわいている。





今、エルが歩いているのは木造建築の家が目立つ街の一部だ。家は所々壊れており治安もそれほど良さそうではなかった。それを象徴するかの様に、家々の間から柄の悪そうな男たちが姿を現した。彼らは、エルを中心に円を描くようにして囲った。


「おい、兄ちゃん。命が欲しけりゃ食いもんか金を出しな。」


「なんだよ、お前ら。邪魔だからそこを退けよ。」


「おいおい、兄ちゃんよ。まだ状況が飲めてねェみたいだな。周りを見てみな。もう逃げ場はねぇぞ。」


明らかに優位な状況である事が、彼らに心の余裕さを生んでいた。周りの仲間と共に含み笑いをする。1人1人が喉から出した小さな音だとしても、複数の男によって生み出した音が合わさる事で不気味さを醸し出していた。そして辺りには、低い音で構成された含み笑いが反響する。


「え、やだ。何で俺がお前らなんかに物をあげなきゃいけねぇんだ。自分たちで働いて買えよ。」


「おいおい。くれるのは、説教か? 俺は食いもんか金を寄越せって言ったんだぜ?」


「やだよーだ。」


「アニキ、もうやっちゃいましょう。どうせ相手は1人なんです。俺らでやっちゃいましょう。」


部下1人からの助言を受け入れるべきかどうか悩んだ。というのも強い奴には決まってある特徴がある。それは独特の雰囲気を放っているという事だ。そしてまさに目の前にいる男がそうだ。戦ってはいないが、恐らく目の前の男も強い部類に入るのだろう。だが、憶測であろうと無かろうと、ここで引いてしまっては部下に示しが付かない。上に立つ者が、人を纏めるならそれなりの覚悟も必要なのだ。男は覚悟を決める。


「マントの男、どうする? 素直にモノを寄越すか?」


「やるわけねェだろ。」


「お前ら! やっちまえ!」









ーーなんだコイツは。どうしてだ。どうして僅かな時間で俺以外の奴らは皆、地に伏せているんだ。強さの尺度を見誤ったのか。いや、違う。恐らく、コイツの強さの雰囲気が『異質』なんだ。この結果はなるべくしてなっているんだ。


間違いだった。こんな奴にケンカを売るべきじゃなかったんだ。だが、こうして彼らが誰にケンカを売ってしまったのか気付いた時にはもう遅かった。戦いのコングは自分たちが鳴らしてしまったのだから。


「さぁ、どうする。後はお前だけだぞ。」


エルの言う通り、敵で残っているのはこの男だけだ。逃げるのもいい手だ、戦うことはこの場において愚策といえるだろう。だが男は愚策と知っていながらも戦う選択をした。


俺の号令によって地に伏せさせられた部下たち。何もしないで部下を見捨てたまま逃げてしまえば、俺はこの先も自分を責め続けるだろう。それならいっそ、と男は戦う選択をした。例え、明確な敗北が目の前に転がっていたとしてもーー。


男は拳を握りしめ、エルへと向かっていったが、男は分かっている。俺も部下たちと同様に同じ運命を辿るという事を。




「ふぅー、後は誰もいないな。」


エルを取り囲み、物を奪おうとした者たちは皆、地に伏せている。その時、エルの頭上から声がかかる。


「おい、あんた。」


「ん?」


「結構強いな。これならアンタに依頼を出した方が良かったかもな。」


屋根の上から声がかかる。声からして男という事は分かるが、逆光のせいで顔が全然分からない。


「お前誰だよ。眩しいんだから下に降りてこいよ。」


「それは悪い! 今、行くからそこをどいてくれ。行くぞ! 一世一代の晴れ舞台!」


一世一代と、騒いでいるが取り敢えずエルは男の言われた通り場所を空けた。


「とうっ!」


男は屋根の上からジャンプする。ジャンプをして綺麗に着地を決めた後はポーズを付けカッコつける。そんなシナリオを思い描きながら高々と飛び上がる。


(聞こえる、聞こえるぞ! 俺を褒め称えるその声が! 巻き起こるぞ! 賞賛の嵐が! そして地を揺らすかのごとく鳴り響く拍手喝采!今、貴殿の元に姿を現わすぞ! 刮目せよ!)


空中で一回転すると、無事着地しようとした。


「おぉー!」


エルは目の前で起きたアクロバティックに興奮している。





そして、男はエルの目の前で大々的にコケた。


……。



エルは呆れ、男は痛みに悶え声にならず辺りを沈黙が包む。程なくして、痛みから少し解放された男が立ち上がる。


「あー、おい。お前大丈夫か?」


「心配してくれてありがとな。安心してくれ。修行して身体を鍛えてるからな!」


「そ、そうか。それならいい。じゃあな。」


「ん? お前どこ行くんだ?」


「今からクエスト受けに行くんだ。ーーおっと、そうだ。知ってたらでいいんだが、『フォレス』という名に聞き覚えはあるか?」


「なんだ、フォレスを探してるのか。ちょうど良かったな。俺がそのフォレスだ。」


「いやー、良かった良かった。探す手間が省けて良かったぜ。」


「ここで立ち話もなんだ。俺の家に行こうぜ! 絶対に壊すなよ。大事にしてんだから。」


「任せろ。それくらい守れる。」






2人は移動を始め、暫くして目的である家へと着いた。フォレスの家は大きな風が吹けば簡単に崩れてしまいそうなほど脆く頼りのない形をしていた。


「よし、着いたぞ。ここが俺の家だ。中々良いとこだろ。」


「うん、まぁそうだな。」


「ささ、中に入ってくれ。」


フォレスは客人を招き入れようと扉を開く。その時、「べこっ」と音がなった。すると、扉に付いていた取手はとれ、扉本体もエルたちのほうに倒れる。地面と木の扉が鈍い音を出しながら密着すると、フォレスはわなわなと震え出した。


「お、俺の、俺の扉がァァァ!?」







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