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自由の迷宮  作者: あんのうん
旅立ち編
5/22

決戦

ルスカーデの街についたエルたちはミエラ同様に驚いていた。この街を知るナリュートや弱虫は特にそうであろう。街の変貌に驚いていると傭兵団が気付き捕らえようとやって来た。さて、どうしたものか。


こちらの戦力は元気な俺、傷を負い背中に担がれているナリュート、そして弱虫。向こうの戦力は元気いっぱいなおじさん達たくさん。ナリュートには道案内も兼ねて一緒にいて貰う必要がある。俺と弱虫、どちらがこの敵を倒せるのか、どう考えても俺だろう。それならミエラ捜索には必然的に弱虫一択になる。この場合は少しでも効率的に動いた方がいいだろう。作戦は決まった。


「さてと、弱虫。お前の仕事は決まった。お前は此処にいても意味ないからミエラを見つけて時間を稼いで来い。」


「はっ? お前1人でこの人数相手にすんのか!?」


「そうだ。今は自分に出来ることをやれ。」


半ば納得はしていなかったが、自分に出来ることという発言と二手に分かれた方が効率が良いことは分かるので一先ず任せてガルムは行動に移そうとして走り出そうとした時だ。突如、気付かぬうちに忍び寄っていた左手によってその行動を止められることに加え、喉に攻撃をもらった。


「ぐぅえっっ! ゲホゲホ、て、テメェ何しやがんだ!」


涙目になってむせながらも事を起こした張本人、エルを睨みつけながら問いただす。


「男が涙目になっても気持ちが悪いだけだ。やめてくれ。あの人数の中、どうやって切り抜けるつもりだ。俺に任せろ。」


そう言うや否や、エルは弱虫の身体を抱きかかえボソッと呟く。













ーー気付いた時、ガルムは屋敷の前にいた。


「は? え?」


ドサッ!


「痛て! 何すんだよ!」


その声で傭兵団が此方に気付いた。そして今度は数人で倒そうと武器を構えて向かってきた。


「いつまでも抱き着くなよ、気持ち悪い。ーーほら、さっさと行きやがれ。」


ガルムはその声と傭兵団が攻撃してくる事を目撃し、軽く返事を返すと走り出す。館の中を走りながらガルムは思い出していた。


「そう言えばアイツ、走り出した俺を止めた時、バランスを崩してなかったよな。」




さてと、弱虫も行ったことだし目の前の奴らを倒そうとしたが思いとどまる。というのも後ろに担いでる人物の傷に響く可能性があるからだ。敵が目の前に迫っているのもあってナリュートを柱に預ける。さっきの移動も重なりナリュートはグッタリしていた。ーーどうやら寝ているようなので放置して敵を見据える。めんどくさいなと思いながら、此処を動けば敵は館の中に入ってしまっては意味がなくなる。そのため仕方なく倒すしかなかった。


近くにやってきた敵にまず一蹴。放たれた蹴りは敵の鎧を凹ませ吹き飛ばす。


「かはっ!」


「鎧着てて良かったな。」


「うわあぁぁぁ!」

右から剣を構えた男を蹴る。

「ぎゃああああ」


「おぉりゃぁぁぁ!」

正面から剣や斧を構えて突っ込んでくる男どもを蹴る。

「あふんっ」


「ふわぁぁっちゃぁぁあ!」

左からくる拳法使いには蹴り飛ばした男が向かう。綺麗に倒れる。まるでストライク。「でゅばらっ!」


次々と敵がやって来ては蹴り飛ばす。コレを繰り返していくと気絶していない者は痛みに悶えるばかりで起き上がる事の出来る者はいなかった。館の扉とは遠い位置にいた者は仲間がやられる姿を見ると近づこうとしなかった。かといってこの先、邪魔になる可能性のある敵を放っておく必要などない。瞬く間に移動してチョコンと蹴って吹っ飛ばしておいた。


「ふぅー、よし、片付いたな。さてとナリュートを回収して、はぁあ道を聞きたかったのに寝てんだもんなぁ。ま、いっか。適当に進めば着くっしょ。」


この選択が間違いであることに気付くのは少し先のことであったーー。館に入ったエルは進む道を選択する。


「んー、どれが正解だ。右、左、上、右、左、上、うーん、右ダァ!」


エルは適当に右を選択して走る。それは冒険を楽しむ子供のようにーー。楽しんだから気付かなかった。先にきたガルムがバカなエルが迷うだろうと踏んで壁に矢印を書いていた事に。そしてその矢印の指す方向は残念なことに『左』であったことに。


最初は右を選択したものの屋敷なだけあって広いし階段とかあるしで色々動くうちに現在地すらよく分からなくなっていた。今度は下を選択して下に降りていくと何やら人の気配を感じた。人の気配があったもんだからもしかしてと思って降りて行った。曲がり角を曲がった瞬間、人とバッタリ出くわした!

お互いにまるでお化けに遭遇したかのように驚いて「ぎゃゃあああぁぁぁ!」


驚いた拍子についつい手を使って相手を殴ってしまった。


相手さんはもう一度悲鳴をあげる。「いぃぃだあああ!!」


俺は「ぎゃあぁぁ! 殴っちまったぁ! ごぉめぇぇんん!」


や、やべ、な、殴っちまった。

こ、こんな時は先ずは深呼吸だ、し、深呼吸。

すぅーはぁーすぅーはぁー。

あー、疲れた。すんごいビックリした。


殴られて悶えてる相手をみるとどうやら敵のようだったので、紛らわしいことをした相手には注意しておくことにする。


「おい! お前! 驚かすなよ!」


相手からしたらとんだトバッチリである。咄嗟に見張りを殴り倒し先に進むと牢屋に出た。そこには多くの人が捕まっていたが誰も出てくる様子はなく鍵が掛かっていると言われた。そこで先程の見張りのポケットを探し、見つけた鍵を使って人を外に出してやる事にした。ほとんどの人が出て行った中で1人いい服を着ながら小刻みに震えている太った男がいる。呼び掛けても動こうとしない男に構っている暇はないのでほっといて次の場所に向かう事にした。そこでやっと先程の男が声をかけてきた。


「お、おい、そこのマントの男。私はどうするべきだと思う?」


何を言ってるか分からなかった。初対面同士なのに「どうするべきだ」と聞かれても何を言ってるかサッパリだった。


「はぁ?知るか。そんなもん。自分で考えろよ。」


それだけ言ってエルは次の場所へと向かう。エルにそう言われた男は立ち上がり牢屋から足を踏み出す。そして屋敷から出た後は人知れず森の中へと姿を消していったーー。




このだだっ広い家からミエラ1人を探し出すことはとても難しい。でも今、背中に乗ってるやつと約束してしまった以上何としてでも助けなきゃいけない。さて、どうしたものかと走りながら考えていると、さっきまでは気付かなかったが壁に白っぽいもので矢印が書いてある事に気付く。


「あ、あの野郎。もう少し分かりやすく描きやがれってんだ。まぁいいや、兎に角、行くか!」


線に沿ってひたすら突き進む。随分走った。ほとんどこの屋敷を回ったんじゃないかってくらい走りまくった。線を辿って走って行くと1つの扉の前で止まっていた。勢いよく扉を開け放つ。


「ミエラぁ! ここかァ!」




誰もいなかった。

無情にも誰もいない部屋に響き渡る女性の名を呼ぶ男の声。ある意味、変態だ。


「あれ、誰もいねぇな。どこ行った? 逃げ騎士もいねぇな。」


矢印もここで終わってたし、来る時に誰とも会わなかったからこの部屋にいると思っていただけに少し残念な結果であった。考えても無駄なので、ここで、軽く存在を忘れていたオッサンを優しく起こして何か情報を得ることにした。


ペシペシペシペシ


「おい、オッサン! 起きてくれ」


ペシペシペシペシ


「んー、寝させてくれ……。」


この野郎テメェの主人が大変な時に、傷が大変なのも分かるけど。早く起きて欲しい。


ビシビシビシビシ


「起きろっ!」


「どうしたっ! 敵か、どこだ!?」


「違うよ。煩いから耳元で騒ぐなよ。この部屋にミエラとガルムがいるはずなのにいないんだ。何か心当たりはあるか?」


「多分だがもう1つの部屋に行った可能性が高い。本当は教えちゃならんのだが、致し方あるまい。他言無用だからな。あっちにイスがあるだろう。その後ろに3枚の絵があるな。それの、たしか右の絵を右にズラしてくれ。」


「分かってるよ。誰にも言わねェ。『約束』する。よし。右だな。そりゃ!」


ゴゴゴゴ、と如何にもそうな音がなる。だけど音だけだった。


「ぎゃあああ! あちちちち!」


火が出てきてエルを痛めつけた。後ろでは笑いを堪えているのか小刻みに震えている男がいる。絶対にワザと嘘を教えやがったに違いない。逃げ騎士が一緒かもしれなくて安心しきってんのか、このオッサン。時間が足りねえ時に小ボケに付き合う暇はないってのに。今回だけ、今回だけと多少怒ってる己を制する。


「す、すまん。どうやら間違えていたようだ。くくっ。今度は真ん中を動かしてくれ。」


笑ってるな。どうせこれも嘘に決まってる。時間がない時に同じ手に乗ってたまるかと左の絵をズラした。そんな深読みした俺が一番バカだった。動かした途端にとんでもない風が吹いてエルとナリュートを吹っ飛ばす。地面にバウンドしながらうつ伏せで着地する。


「ぐべっ!」


「な、なぜ信じなかった。俺まで痛いぞ。」


ぷるぷると震えながら何とか立ち上がる。無駄なダメージを負ってる事には目を瞑るしかない。深読みのせいでこうなってしまったのだから。でも、元を正せば面白半分で嘘を教えたオッサンが悪いはずだよね…。


「オッサン、時間がないんだ。今度からは嘘をつくのを止めにしないか。」


「そ、そうだな。約束しよう。」


こうしてエルとナリュートとの間で謎の契約を交わした所で今度はきちんと真ん中の絵を動かした。すると、ゴゴゴゴとまともやそれらしい音が聞こえてしまったので反射的に防御態勢を取ったが何もダメージを負うことはなく、今度は階段らしき物が現れた。その階段を慎重に降りて行き、真ん中くらいまで進むとスライドをするように床が階段を隠した。それから遅れること数秒、壁に取り付けられているランタンの様なものに火がつき辺りを照らしてくれた。


螺旋階段をダッシュで降り、なんか後ろで騒いでいたけど無視をした、通路に出たのでそれをひたすら進むとドデカイ部屋に辿り着いた。中に入るとやっと目的の人物を見つける事が出来たが、壁際にミエラがその前に立ち塞がるように逃げ騎士がいた。その逃げ騎士に対して剣を持った奴がトドメをさそうとしてる所に出くわす。向かって右にミエラたちが、向かって左に敵と思しき人物が、ミエラたちは壁際にいるので敵と距離を開けさせるためには右足で蹴り飛ばすこの一択しかなかった。


咄嗟に“能力”を発動させて突撃する。あ、やべ。


「頭を下げろ!」


その瞬間、逃げ騎士はダメージを受けてるとは思えないほど、すんごい勢いで頭を下げてくれたので大事には至らなかった。しかし、おそらく敵であろう人物を吹き飛ばす事には成功し、一先ず時間を稼ぐ事と弱虫を守ることには成功した。その隙にミエラ達に近い壁でオッサンを降ろす。


「オッサン、壁に寄りかかって待っててくれな。少しやる事があるみたいだからさ。」


「あぁ、分かった。すまないが任せる。」


「おう、任せとけ。」


ミエラ達に近付くと、逃げ騎士は何とか立っていたがボロボロで血は出ているし、ミエラは座ってボロボロと泣いていた。


「よぉ、逃げ騎士。遅れて悪かったな。少し道に迷っちまった。ーーどうした、お前。ボロボロじゃないか。」


言いにくい事だったが、右足で蹴るしか敵との距離を開けさせる方法がなかったとは言え、頭を下げさせるのが少し遅かったせいでガルムの後ろ髪からつむじ辺りにかけて綺麗な一本道が出来てしまっていた。心の中で謝っといた。いつかこの謝罪が届くと願いたい。すまん。


「で、でめぇ、遅すぎんだろぉ。」


ガルムは顔や口を腫らし喋りにくそうだったが顔はどこか安心している様にも見えた。その一方、ミエラは泣いてはいたがこれといって目立った外傷は見受けられなかった。限界そうなガルムには手を首の後ろに回させて身体を預けさせるようにして歩く。ミエラには女の子なので無理に触るわけにもいかないので申し訳ないが歩いてもらう事にした。


「よぉ、ミエラ。強気のお前はどこにいったんだ?」


「エ、エル。ぐすっ、どうじでいるの?」


「まぁ、色々合ってな。」


「ケガはねぇか?」


「ぐすっ、ゔん! ガルムが守っでぐれだがら!」


「そうか、良かったな。ーーおい、今のお前は中々カッコいいぞ、ガルム。」


「ふ、ふん。始めで名前で呼びやがっだな。」


ミエラから言われた言葉、エルから言われた言葉、それらが嬉しかったのだろう。はにかむガルムの顔は洞窟の時に出会った時のような逃げ腰で臆病で自信のない顔などではなく、どこか強みのある勇ましい男の顔へと成長している様に見えた。まぁ、まだまだヘッポコだけど、、、。取り敢えず近くにいたナリュートにはミエラ達を見てもらうように頼んだ。


「大丈夫だ。今は俺に任せろ。」


そう言ってエルは己の拳とガルムの持っていた剣の平を軽くあてる。その行為は、相手の意志を受け継ぐと同時に相手に対する無言の称賛といってもいいだろう。


「あぁ、任ぜだ。」


ガルムはエルが来た事に、そしてこの場を任せた事に安心したのだろう。糸の切れた人形のように崩れ落ちたところをエルに支えられ、それをミエラが抱きかかえるようにして受け入れた。


準備は整った。あとはヤツだけだ。



こうして、エルとラムネルは対峙する。

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