それぞれの目的
エルはこの変わりきってしまった街並みから目的 の人物、フォレスを探すために歩く。ある程度の場所は覚えている。ゲートを潜った人々の中には姿がなかった。恐らく何処かにいる可能性が高いと考え、取り敢えず家に向かっている。
凡そ、フォレスの家の近くと思われる所まで来た。未だ灰色の煙がちらほらと見えてはいたが、もう燃え切った後なのだろう。もうこの辺りには殆ど何もなかった。
家はなかったが、その一部だったであろう木々が黒くボロボロになって存在していた。
そんな光景の中で1つ、燃えた廃材の前に座る男の姿があった。家だけでなく彼自身もボロボロな格好ではあったが、後ろ姿からフォレスであることは分かった。
彼はエルが近付こうと振り返ることもせず、ただじっと家のあったであろう空間ばかりを眺めていた。彼の心情を一言で表すなら『虚無感』に支配されている、まさにこれに尽きるだろう。
エルは何を言うでもなく彼の隣にそっと腰を下ろした。
どれだけそうしていただろう。徐ろにフォレスはエルへと話しかけた。
「なぁ、エル。俺はさ、帰る場所がもうここしかなかったんだ。この場所を失わないように、俺なりに色々努力もしたし、今回だって頑張ったんだぜ。だけど、此処だけじゃなく大事なモノも取られちまった。ーー同じ事の繰り返しだ。」
エルは何も言わない。フォレスの話が終わってないと思ったからだ。案の定、彼の話は続く。
「俺はお前に嘘をついてた。大事な物を取られたのは今回で2度目なんだ。1回目と同じなのは帰る場所を失ったこと、違うのはそれを迎えてくれる人がいない事。ーーはぁあ、帰る場所をまた無くしちまったよ。また、帰る場所を探すしかないかな。ははは。」
フォレスの乾いた笑いが2人の間に流れる。自嘲する彼の発言は、どこか後悔を匂わせる悲しいものだった。
「エル。」
此処でフォレスの声の雰囲気が、ガラリと変わる。
「此処を襲撃した奴を見たか?」
「みた。」
「此処を襲撃した奴を知ってるか?」
「知らない。」
「そうか。」
フォレスは落胆する。
「だが、行き先は知っている。」
その言葉にフォレスは反応する。目的を成す上で彼らの行き先を知ることは必要だったからだ。
「行き先を教えてくれないか?」
「たぶん、この街の領主の屋敷。」
『領主』、この言葉はフォレスにとって本来、復讐したいはずの役職だ。それなのに彼は至って冷静だった。
「そうか、教えてくれてありがとう。そしてもう1つ。クエスト依頼は違くなったから、取り消す。ーーエル。俺は行くとこが出来た。悪いんだが暫く此処で待っててもらってもいいか?」
「屋敷に行くのか。お前『も』復讐者か?」
少し冷静になったことでフォレスはエルの不可解な言葉に疑問を抱く。
「『も』ってどういうことだよ。」
「俺はお前の過去の話を聞いた。そして、お前の話もした。美味い飯と共に。」
「そうか、俺のことは聞いたんだな。でも、誰から?」
「お前の兄妹ともいえる間柄ーー『レイ・ラグドール』からだ。」
その名前は衝撃的だった。驚きのあまり立ち上がってしまった。あれから1度も会えていなかった人物。もう忘れられていると思っていた。そんな彼女がまだ自分を覚えていてくれたのかと嬉しささえあった。
だが、復讐者とはどういう事だろうか。彼女のような人物がそんな物騒な事を考えるだろうか。復讐なんて誰も得しない事をするだろうか。復讐は更なる復讐を生むだけの、悪魔みたいな物に手を染めるだろうか。数多くの疑問が生まれても答えは分からない。
「復讐者とはどういう事だ?」
「そのままの意味だ。お前たち家族を、そしてレイを、この街を傷つけ壊し続ける現領主を倒しに行くって事だ。」
だめだ。倒しに行く、そんな事をさせてはいけない。あの笑顔を、料理の好きな彼女の手をそんな物に染めさせるわけにはいかない。敵は居なくとも、レイを復讐の悪魔から助け出せるのなら領主の屋敷へ行くだけの価値がある。
フォレスは領主の屋敷へと向かうために歩き始める。
「エル。教えてくれてありがとう。もう復讐に興味はない。意味がないと知ってるからな。俺はアイツを、レイを助けに行ってくる。」
「そうか。」
その言葉を聞くとフォレスは走る。かつて食を共にした兄妹ともいえるレイを助け出すために。悪魔から守るために。己の出来る最大限の力を使って。フォレスは走る。その姿を見届けるとエルも立ち上がり、自らについた砂を払い落とす。
「助けに行くなら、手伝わないといけないな。」
エルも動き出す。
こうしてエル、フォレス、レイ、そしてベンガルは各々の目的のために領主の屋敷へと向かうこととなったーー。