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自由の迷宮  作者: あんのうん
旅立ち編
14/22

復讐の炎

エルがザンガの元を訪れるより前、つまり応接室での話し合いまで時は遡るーー






「フォレス・ブロンドだって?」


「ブロッサム。フォレス・ブロッサムと言ったの。貴方こそフォレスのこと知ってるの?」


「あぁ。此処に来る前に会ったからな。すごい騒がしい奴だったぞ。戦うから手伝って欲しい、とか、一世一代の晴れ舞台がどうとか。」


ルイは少し確信に近づいた。彼は昔から『一世一代の晴れ舞台』というモノにこだわっていた節があった。私と年齢は変わらないくらいで、この言葉を使う人物はそうそう居ないだろう。後1つ確かめなければならない事がある。僅かな可能性を信じて、今度はルイが身を乗り出して興奮した様子でエルに問いかける。


「エルっ、貴方が会ったそのフォレスという人は腰に何か着けていなかったか!?こう、なんか高価にみえるものを!」


「いや。特に目には付かなかったぞ。」


「そ、そう。ありがとう。」


だめだ。ちがう。そんな事あるわけないじゃないか。エルが会っていた人は昔から知るフォレスじゃない!



「どうしてそんな事きいたんだ?」


「このクエストに少しは関係している可能性があったからね。ーーエル、今から少しだけ昔話をするけど我慢してね。アレは今から3年位前に起きたことーー」





凡そ3年前ーー



「あぁー!今日も楽しかったし美味しかったなぁ!フォレスのお母様の料理ってどうしてあんなに美味しいんだろ!」


当時、ブロッサム家は子爵の地位に、そしてラグドール家は伯爵の地位にいた。身分の差はあったが、昔から両親同士が仲良く、レイはフォレスの家へ遊びと食事を兼ねて頻繁に行っていた。あまりにも頻繁だと嫌がられることも少なくはないが、フォレスの母はそんな事を全く気にしておらず、むしろ喜んでレイを家に招待していた。まるで娘が出来たみたいでとても嬉しい、と。ブロッサム家に仕えている者たちも喜んでレイを受け入れていた。レイの両親は外交の関係で家を開ける事が多かった。その事を知っていたフォレスの母親が事前に預けてもいいよ、と申し出てくれていたのでその言葉に甘えていた。


「今度、料理を教えてもらいたいなぁ。」


そんな事を考えながら自分の家へと帰った。早速、次の日、レイはフォレス家を訪れた。そしてフォレスの母親から料理を教わって、作った料理をみんなで食べて楽しんだ。手には不慣れながらも頑張った証の絆創膏を貼って。そんな毎日が楽しかった。レイが誕生日の時にはネックレスを貰い、フォレスが誕生日の時には頑張ってケーキを作ったが形はイマイチ。そんな不恰好なケーキを美味しいとまで言ってくれた。フォレスは両親から貰った扇子を大事そうに抱えていた。それから何故かフォレスは一緒に遊ぶと、その扇子を高らかに掲げ、何かをする度に一世一代の晴れ舞台と騒いでいた。


だが、そんな楽しかった日常は終わりを告げる。ある日、レイの両親が乗っていた船がワイバーンの群れに襲われたという報せが入ったのだ。ラグドール家もフォレス家もその報せを受け、急いで情報収集に長けたものを集め、彼らを派遣した。段々と時間が過ぎ、いつしかレイがラグドール家の当主になった。当主になりレイの自由な時間は減り、新しく当主になったということで挨拶回りをすることになったのだ。


当主の移り変わりという変化によってラグドール家の力が落ち込み、そして外に目を向けられないこの時期を狙って現領主はブロッサム家に対して行動を起こした。元々ブロッサム家は武功を上げて今の地位に就いたわけではない。先代当主が彼らの舞に魅力を感じ、半ば無理矢理、今の地位に就かせたのだ。領主はそんな理由で子爵の地位にまで登り就いたブロッサム家をよく思っていなかった。


ブロッサム家に異変が起きた事にレイが気付いたのは事が起きてから数時間後だった。その報告を受けたレイは1番信頼していたベンガルを急いでブロッサム家に向かわせた。それから数時間遅れでレイも現場に到着した。見るも無惨な状態だった。毎日のように訪れていた温かみのある家はぐちゃぐちゃに壊され、轟々と燃えていた。仲良くしてくれた人たちも至る所に倒れていた。


先に着いていたベンガルに報告させると、ブロッサム家は全滅したという1番聞きたくない情報と共に、これを行ったのが現領主の仕業であるという報告を受けた。両親を失ったレイにとって、たった1つの心の拠り所を壊されたのだ。あれほど良くしてもらった家族を壊されたのだ。レイの心はボロボロだった。だが、それと同時に自分の取るべき行動も自然と分かった。



ーーあの豚をブチ殺さなければ。



レイは静かに身体を反転させ、一際大きな屋敷へと歩を進めた。その事に気付いたベンガルは咄嗟に止めようとレイの前に出ると両手を広げる。


「お待ち下さい!レイ様!今から何処へ向かうおつもりですか!?」


「そこを退け。ベンガル。今から豚を殺しに行くだけだ。」


「なりません!そんな事をしても誰も報われません!ーー今は、今はまだ、力を蓄えるべきです!次第に人々の不満や怒りが募るでしょう!その時、彼らを導く人が必要です!今は我慢なさってください。」


「黙れ。そんな先のことなど興味はない!」


再び歩きだすレイ。ベンガルの横を通り抜け領主の屋敷へと向かう。


「私の家族はレイ様しかいないのです!私にも貴女と同じ苦しみを背負えとそう仰るつもりですか!?」


その言葉にピタリと足を止めるレイ。私だって知っている。1人で立ち向かったところで何も出来ないことに。だからといってこのまま何もせず時間を過ごせと?今まで我が子のように育ててくれたブロッサム家がこの様になっても何も出来ない自分に腹が立つ。今の非力な私に何か出来るのか?いや、何も出来はしないだろう。それならどうすればいい。どうしたらこの怒りと哀しみを無くすことが出来るのだ。どうしたら。


力が抜け座り込む。顔だけゆっくりと振り返るレイ。


「なぁ、ベンガル。教えてくれよ。どうしたらいい。どうしたらこの気持ちが無くなる?」


「貴女が私の手をとって助けてくれたように、今度は私が貴女様の手をとり助けてみせます、必ず。チャンスは必ずやって来ます。今、貴女の剣となれぬ私をお許しください。」




そう言って片膝をつき手を差し出しながら思いの丈を伝えるベンガル。その手を見て顔を見て、長く私に連れ添ってくれる男の顔を確認する。次第に、目頭が熱くなる。


「ちがう、ちがうんだ。謝るな、ベンガル。お前が悪いわけじゃないんだ、お前が悪いわけじゃ、、、。」



そこから先、言葉は出なかった。嗚咽が喉を支配してしまったことで。まるでダムが決壊したかのように次々とその美しい瞳から雫がこぼれ出したことで。誰にも見せまいとベンガルに寄り添ったことで。


ポツポツとその時ばかり雨が降り次第に強くなっていく。レイの泣いてる姿を隠すように、レイの泣いている声をかき消すように何時迄も雨は降り続けた。レイの心が少しだけ落ち着いたのとは裏腹に、ブロッサム家の炎は勢いを無くすことはなかったーー。






「これが、フォレスという名前を聞いて驚いた理由よ。」


「この街でそんな事あったんだな。全然分からなかったな。」


「現領主が秘密裏に行動したせいでね。」


「そうか。その領主ムカつくな。」


「えぇ。あの時、ベンガルの言った通り段々と人々の不満は募り始めてる。止めてくれた彼には本当に感謝してる。そしてそんな矢先にクエストを受けたエル。それもフォレスという名で出されていた。本人にしろ別人にしろ、今、我々は立ち上がり戦う時だと思ってる。」


「そうか。聞きたい事がある。何で街中で俺に声をかけた?クエストを受けているかどうかなんて分からなかったはずだ。」


「それについて、「レイ様!」


後ろで静かに傍観しているように命を受けたベンガルが、その命を無視してまでレイを止める行動に出た。レイはベンガルのほうを向いて彼の目を見る。しばらくしてベンガルが折れたようだ。


「はぁー、分かりました。レイ様にお任せします。エル、貴様、他言無用したら斬るからな。覚えておけよ。」


「大丈夫だって。別に言ったりしねぇよ。」


「さて、ベンガルからの了承も得たことだし理由について話そう。だが、ベンガルも言っていたことは気を付けてくれよ。」


「おう。」


「貴方が歩いているのを見て私の首の辺りがゾワゾワってしたから話しかけて連れてきたの。それと何となく危なくなさそうという私の勘も入ってるけどね。」


「……ん?」


「首のあたりがゾワゾワってしたのよ。」


「いや、それは分かったよ。そんなんでよくこんな奴を家に入れたな!」


くそ、無理に発言できないからってレイの後ろであんなに笑顔で頷くとは。ベンガルめ。


「適当じゃないんだ。さっき話した3年前くらい前から段々と強く感じるようになったんだ。最初は違和感しか無いし、変な感覚だったんだけど少しずつこの力の使い方が分かってきた。この力は、この先起こるだろう何かについて良くも悪くもする事が出来るんだ。つまり知ることで運命を変えられるとも言えるかもね。でも、自分に関する事と起こり得る『何か』に関わっている人までは分かるんだ。でも、その起こり得る事が何なのかまでは分からないんだ。長所も短所もある色んな意味で難しい力だね。」


「ふーん。あんまし分かんないけど、すごい力だな。」


「この力を説明した所でもう一度質問するよ。ーー君はこの街に何をしに来た?」


「特に何も。俺は出来るだけ早くこんなつまらない街とはおさらばしたいね。その為にクエストを行うだけだ。ただそのクエストも微妙なラインになってきたけどな。まぁそれはアンタらには関係ないな。とにかく俺は、復讐なんて醜いものに興味なんてないからな。そんなものは自分たちだけでやるんだな。」


「……そうか。いきなりこんな話をしてすまなかった。」


エルは机の上に置いてあったくしゃくしゃのクエスト用紙を持つと、一言、「ご飯ありがとう。美味かった。」とだけ伝えて部屋を出た。その後を追うようにベンガルがやって来た。何か文句を言われるかとも思ったが何も言わない。どうやら玄関までの道案内だろう。2人の間には会話などなく長い沈黙が続いた。玄関の扉に手をかけようとした時、沈黙を貫いていたベンガルが口を開いた。


「待ってくれ。エル。もし、もし気が向いたらでいいんだ。私の主、レイ様の力になってくれないだろうか。頼む!」


頭を下げたのだ。ベンガルという男が、人のために頭を下げた。衝撃だった。そもそも、この男は何故あれほどレイの為に力を尽くすのだろう。幾ら金を積まれようが、幾らいい待遇を受けようが、地位や家を貰えたとしてもこの男の忠誠は微塵も揺らがないだろう。そんな男が見ず知らずのエルに向かって。こういう男は嫌いじゃなかった。


「気が向いたらな。」


イエスともノーとも言わない曖昧な受け答えだが、ベンガルはそれでも顔を上げてお礼を述べた。その顔は満足していた。


「ありがとう。その時はよろしく頼む。」


「なぁ。やっぱりお前、俺のところで働かないか?」


「ーー俺の命はレイ様に捧げているのでな。」


断られると思っていても誘わずにはいられなかった。それ程までにこのベンガルという男は興味の惹かれる人物であった。





ベンガルはエルを送り届けた後、応接室に戻ってきた。そこには先程と変わらない姿勢で座り続けるレイの姿があった。ベンガルが入ってきても何の反応も示さなかった。それでもベンガルは彼女の後ろ、何時もの定位置に立った。どれほど、そうしていただろう。レイは何の前触れもなくベンガルに対して話しかける。


「なぁ、ベンガル。お前は戦えるか?」


「今度こそ貴女の剣として。」


「なぁ、ベンガル。失敗すれば恐らくお前も死んでしまうんだぞ。」


「私の命はとうの昔に貴女に捧げています。」


「そうか。ありがとう。ベンガル。お前が私の騎士でよかった。ーー復讐を始めるぞ。」


「はっ!」



復讐の炎は舞い上がるーー。

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