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自由の迷宮  作者: あんのうん
旅立ち編
1/22

出逢い

とある国の街外れには小さくて古いカフェ店がある。その店には店長兼従業員の1人しかいない。その人物は死んだ魚のような目をしている、生気を感じられない、やる気がないといった負のイメージで語られる事が多い。


私はそんな店長の元を訪れる為に家を出た。しかし今、私こと『ミエラ』は本来の目的地であるお店とは全く別の場所にいたーー。





俺は店を経営している。経営をしているといっても古いせいか、お客さんは殆ど来ない。


クエスト依頼はちらほら舞い込んで来たが、在り来たりな内容に興味がわかず受注していなかった。


しかし、4日ほど前に面白そうな依頼が舞い込んだので、その依頼を受ける為に俺は家を出た。


久々のクエスト。楽しい冒険が俺を待っているはずだ。ワクワクが止まらない。


だが、そうして家を出たはずの俺は、こんな所で何をしているのだろう。


何で新たな家に住むような事をしたのだろう。考え方によっては、今、住んでいる家よりも「屈強な」家を手に入れたと捉えることも出来る。



さて、少しばかりこの家について説明しておこう。



屈強な家だが、店よりも小さい事が残念だ。


屈強な家だが、店よりも冷たい事が残念だ。


屈強な家だが、店のように自由に開け閉め出来ない事が残念だ。


モノを閉じ込める小さく冷たい鉄の箱。その口、一度閉ざせば許可なくくこと叶わず。鉄の箱と秘密の棒は唯一の信頼関係。棒が壊れれば鉄の箱は悲しみ、2度とその口をひらくことはないだろう。幾度となくモノを喰っては長きに渡って口の中でその味を楽しむ。



彼らが楽しいのとは反対に俺は悲しい。頼む。


「『檻』 から出してくれェ!」


開くわけもなく悲しんでいると、隣から小さな声で語りかけてくる女の子がいた。


「ちょっと、おじさん。少し静かにしてくれない?」


「ん?あ、すまん。俺は『エル』な。おじさんではない。」


「そう。私は『ミエラ』よ。」


その会話の後、2人の間には沈黙が流れた。特にすることも無く、静かにしていると再びミエラの方から話しかけてきた。


「ねぇ、エル。貴方はどうして此処にいるわけ?」


「ん?あぁ、それは……という事があったんだよ。」


説明がめんどくさかったので適当に合間を作って完結させた。すると、エル達のいる部屋を沈黙が支配した。


横にいるミエラの方を見やると、とても冷たい目で此方を見ていた。エルはゆっくりと顔を正面に戻すと説明を始めた。




少し前ーー



「あぁー、お腹すいたー。だれかぁー」



フードを被りマントを羽織った男がトボトボと道を歩いていた。怪しさ満点の格好だ。



エルはクエスト受注を渋っていたので、お金がなくご飯を碌に食べていなかった。


だからこそ道を歩いている時に香ったいい匂いにつられ、洞窟に来てしまっていた。


洞窟といえば危ないイメージを持つが、今はそんな事に構っていられず何としてでもご飯にありつきたかった。


この美味しそうな匂いは洞窟の中からしてきている。ここにいる者には申し訳ないが、お裾分けを頼みに中に入った。


其処には沢山の人達が飯を囲んでガツガツと食べていた。皆があまりにも一心不乱に食べていたので、突然やって来た俺が邪魔をしては申し訳ないと思った。だから俺は空いていた席に座ってご飯を一緒に食べ始める事にした。



パクパクモグモグ



「いやぁー、美味い。

ここの飯は美味しいっすね。」


「おっ、分かるかお前

なかなか良い舌をしてるじゃねぇか。」






ん。あれ。


今、何か違和感がなかったか。


先の発言した人物をみる。知らない奴が紛れ込んでいる。誰だこいつ。洞窟にいたヤツらは揃って怪しげな男を見る。その視線に気付かないのか、それでも尚、食べる事をやめない男。



パクパクモグモグ


ここで1人の男が勇気を出して強気の行動に出る。


「誰だ、テメェ。 勝手に俺らの飯を食ってんじゃねぇよ。」



「あ、これはすみません。少しでいいんです。ご飯を分けて頂けませんか?」



「ふざけんな、クソガキ。もうガッツリ食ってんじゃねぇか。」



「アハハハハ。面白れねぇな。まるでコントしてるみたいだ。」



「こ、このクソガキ、俺らを完全にナメてやがる。」


ここで1人の眼鏡をかけた、如何にも好青年みたいな男が話に割って入った。


「どうだろ、少年。ここのご飯は少しだけど分けて上げよう。ただ、君が座ってる席はお頭の席なんだ。申し訳ないが、そこの中で食べてくれないだろうか?」


「ん、そうなのか。それは悪い事をしたな。お前、飯をくれるなんていいヤツだな、ありがとう。」


あの時の俺の行動は軽率だった。親切な人がいるもんだと安心しきっていたのだ。分けてもらったご飯と共に中に入ると『ガチャン』という音が鳴った。


あれ? 今、何か閉まったような音が聞こえたな。まさかと思い、試しにドアを何度押そうが引こうが左右に動かしても全く開かなくなっていた。何かの間違いかと思い、恐る恐る先程の眼鏡をかけた男に尋ねてみた。


「あのー、すみません。

扉が開かなくなってます。開けてもらっていいですか?」


するとさっきまでの好青年とはうって変わってまるでゴミを見るような目つきをしていた。


「ここまでバカなガキとは思いませんでしたよ。お陰で簡単に商品を手に入れられて良かったですけどね。ーーおい! コイツを奥の部屋へ連れて行け!」




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎




「こんな事があって今はミエラと一緒にいるわけ。ーーそういうミエラはどうして捕まってんのさ。」




「そう、バカなのね。そんなエルに説明しても分かるかどうか知らないけど、一応説明するわね。それは……こんな事があったのよ。」




軽ーくカチンときたが、俺は大人で相手は子供だ。大きな声で注意するのも大人気ないので奥歯を噛み締め、あまり口を動かさないようにボソボソと言うことにした。


「ははは、このクソガキ、中々やるじゃないか」


「本当は赤の他人に理由を話したくないのだけどね。こんなとこに捕まっていては何が起きるか分からないし、理由を1人でも知っている人がいた方が正解だと信じて話すわ。ーー私は、助けを求めてたのよ。私が住んでる街を救ってくれる人。」


「助けを求めたのが、ここの奴らだったのか?お前もバカだな。」


「エル、話は最後まで聞くものよ。子供じゃないんだから。」


相変わらずのクソガキと思ったのは仕方のないことだと思う。


「それで何があったんだ?」


「助けてくれる人を探して歩いていたら、いきなりここの奴らに捕まったのよ。まぁ、まだ殴られなかっただけマシね。」


「なんか大変そうだな。でも、どうすんだ?街を助けようとしてた人が助けてもらう側になるって。」


「その心配はご無用よ。私が居なくなった事に気付いて捜索隊を出してくれてるはずだから。」


「え、そうなの?」


「あぁ、言ってなかったわね。私、その街の領主、、、」


「へぇ、お前、意外と偉いのな。」


「の娘よ。エル、何度も言うけど話は最後まで聞くものよ。ほんとバカね。」


ワザとらしく間隔をあけるとは中々の策士だ。


「お前、今の絶対ワザとだろ。ーーそれで、偉いはずのお前が自分から探しに行くのってなんで?」


「あぁー、それね。そもそもエルはルスカーデって街は知ってる?」


「いや、知らないな。」


「そう、相変わらずバカね。そこは私たちアルベルト一族が治めている街なの。だけど、何年か前に傭兵団が金品や食糧を奪う為ににやって来たの。こんなご時世だもの、何も珍しくなんてない。だから、その時にいた騎士たちで追い返す事には成功したわ。



だけど、問題はここから。その傭兵団は前よりももっと人数を増やしてやって来たの。王国に助けを求めるという話もあったけど、そうするとアルベルト一族の力量や統治能力が疑われかねなかった。その時、助言を貰ってあんまりイメージは良くない、とある国の小さなお店に依頼を出すことにしたってわけ。」


「何でそんなトコに依頼出すんだよ。普通の冒険者ギルドとかあるだろ。」


「一刻も早く助けてもらいたかったの。そこなら依頼量も多くなさそうだし、それにお金も絡んでくるからよ。領主の娘と言ったって私が出せるお金なんてたかが知れてるわ。」


「ふーん、なんか大変そうだな。」


「他人事ね。まぁ実際そうなのだけど。ーー自己紹介も会話もしたし、これで私達も『友達』でいいわね?」


「うん、いいぞ。お前、おもしれェし。」


「そ、そう。意外とすんなりね。驚いたわ。それと、エル。少し聞きたいのだけど此処に来るまでにペンダントを見なかった?」


「飯のことで頭がいっぱいで、すまん。」


「いえ、いいの。ありがと。」


お淑やかな感じになってさっきまでと少し空気感が変わったことにビックリした。こういう一面もあるんだな、と思った。


「エルはバカだったものね。」


前言撤回。やっぱりミエラはクソガキだった。


エルがミエラと話をしていると、さっきまで騒いでいた声がピタリと止んだ。少しすると扉を開ける音がしたので其方に目を向けると、30〜40代と思われる甲冑の騎士が立っていた。





♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎





エルとミエラが檻の中でふざけ合っていた頃より遡ること数時間、ミエラの住む街では捜索隊が編成されていた。


「おい、準備はできたか。」


「はい、ナリュート騎士長。いつでも出発出来ます!」


そこに1人の男がやって来る。


「待ってください! ぼ、僕も捜索隊に入れてください!」



顔を向けた先には、まだまだ幼さの残る1人の若き騎士見習いがいた。彼の名前はガルム。頼りなくまだ騎士ではない。また裏ではミエラの幼馴染という理由で騎士見習いにしてもらった、という噂が流れている。


「ダメだ。お前は騎士になれるように先ずは腕を磨け。いた所で足手纏いだ。分かったな?」


「で、ですが!」


「分かったな?」


有無をいわさない声にガルムは、首を縦に振るしかなかった。


「……はい、分かりました。」


ラムネルは出発の前に1人の男に話しかける。


「では、ここの事は頼んだぞラムネル副騎士長。」


「はい、お任せください。」


「よし、ではミエラ様捜索に向かうぞ!」


ミエラ捜索隊が街を出発して姿がみえなくなってから、数分後こっそりと街を抜け出し捜索隊を追い掛ける1人の男、ガルム。


「止めたかったら縄で縛っとけばいいのに。このまま引き下がる俺じゃないんだ。」



数時間後、ガルムは



「一体どうなってるんだ。なんで、どうして、どうして。」



後悔することになる。



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