星喰いの種
ここはどこだ?
俺は確かいつものようにだらしなく家で寝てたはずだ。
ここは狭い。
暗い。
そしてなにより動けない。
こんなとこじゃあ寝られない。
動け…。
動け…
動けぇ…
動けぇぇぇええええーーーっ!
そう叫び続けた。
廃れた日常が永遠と続いた。
寝ても覚めても暗闇にいた。
なにもすることもできず、ただ目を閉じたり開けたりする毎日。
そんな日に終わりはいつ来る?
始まりは突然だった。
いつものように家でゲームしてご飯を食べ、そして眠った。
起きたらこの暗闇だ。
手も足も動かない。
お腹もすかない。
欲がでない。
なにもできない。
ただなにもない空間を見つめるだけ。
そんなつまらない日々に変化が訪れた。
何処からか響く振動。
これは地震か?
それとも近くに誰かいるのか?
おい!俺はここだ!助けてくれ!
俺は枯れない声で叫んだ。
その声に反応するものは誰もいない。
ただ響く振動だけ。
それは何度もする。
時には叫び声もする。
しかし最後には遠くへいなくなる。
それに小さな希望を持ちながら静かに待つ。
それもいつのまにか消えていた。
また続く何もない何もできない日常が続く。
眠ることは好きだ。
何かをしている気がしていた。
でも目を覚ますとただ暗闇を見回すだけ。
それ以外はなにもしないし、なにもできない。。
日にちの感覚なんてすでにない。
これが監禁されているなら絶望する。
だがなにもされないし、お腹もすかない。
自分のからだがどうなっているのかわからないが360度見回すことができた。
俺には目という概念が欠如してしまったのだろうか。
それともこのからだすべてが目なのかもしれない。
もし俺自身が盲目の目であるのなら、あの地震は説明できるか?
俺は殴られたのか?
そんな疑問が飛び交う。
解決することのできない疑問を考えても仕方がない。
それでも意味がなかろうと俺には他にすることがない。
なにも始まらない、なにも起きない日常に転機が訪れた。
外の天気はわからない。
それでも今の天気はわかる。
それは雨だ。
先程から体が濡れている感触がする。
その滴る水に手を伸ばす。
動かないはずの手が動いた。
動いた手は水を吸いとった。
まるでストローのように少しずつ吸いとっていく。
その水が潤いが体に染みていく。
それが体に満たされると、自分が何かから出ていける気がした。
本能に従い、殻を破る。
すると今までなにも出来なかった体が思うように動かせる。
俺は本能的に上を目指した。
その先にどのようなものがあろうともつまらなければそれでいいと思っていた。
手で掻き分けながら進んでいく。
眠ることさえも忘れて。
すると何かを押し退ける感覚がなくなった。
見える…見えるぞ!空だ!
見えた空は青く美しく、空気が体に染みていく。
そして視線を下げて周りを見渡す。
目に写るのは真っ赤。
どこを見ても赤だった。
そして横たわる人、人、人。
喧騒とした声が聞こえる。
次々と赤い雨を降らして倒れていく。
先程吸いとった潤いは…血だった。
そして俺は意識を失った。
意識を覚ますとどこからか笑いが聞こえてくる。
この声は聞いたことがある。
この声は俺の声だ。
俺は今まで何をしていただろう。
覚醒した意識で周りを見渡す。
目に写るのは植物が絡み合った骨。
その骨はどこかで見たことある形をしていた。
俺はあれを知っている。
あれは確か人の骨だ。
きっと寝ている間に捨てられたのだろう。
可哀想に誰か埋葬してあげればいいのに。
俺の今の体はなぜか大きく、広い。
体が広いという表現はおかしいだろう。
しかしこの体はそうとしか表せないだろう。
なぜなら地面に這っているような状態だからだ。
俺が寝ている間に何が起きたのかわからない。
だが一つだけ言えることがある。
すごく喉が乾いた。
水が欲しい。
探せ…水…どこ?
辺りを見る。
全身で水を求める。
あった。
あった?
あれは水だ。
水だ?
人?
人だろうか。
でもあれは水だろ?
俺の思考はいつのまにか変化していた。
人は俺であって同じであったはずだった。
でも今は人を水としか考えられない。
俺は昔、人だったのか?
いや違う。
俺は人だったはずだ。
じゃあ今は?
この体で水を求める俺はなんだ?
答えは簡単だ。
俺は人じゃない、植物だ。
なら、水を求めるのは当たり前か。
当たり前のことをするのに、なぜ躊躇う?
いいじゃないか。
人から水を頂こうとも。
だって人は旨いものを食べられるけど、俺はそうはいかない。
なら答えは簡単だ。
人も俺の食料だ。
さぁ、食べよう。
水分接種だ。
俺は水分を採り続けた。
何人も何匹も食べ尽くした。
それでも渇く。
欲しい。
水が欲しい。
だから俺は食べる。
でも足りない。
段々とれる量が減っていった。
地脈からとれるものは少ない。
空気中からとれるものはもっと少ない。
だからもっと根を張ろう。
もっと遠くへ。
もっと大きく、広く、どこまでも。
村があった。
街があった。
人がいた、でもまたいなくなった。
俺に火を灯すものがいた。
俺を斬りつける人がいた、でもまたいなくなった。
池があった。
川があった。
湖があった、でもまたいなくなった。
俺は見渡す限りの全てに食らいついた。
そして海にたどり着いた。
俺は今までの渇きを満たす。
俺は今までの欲を満たす。
際限なく満たし続けた。
そして…
海を飲み干した。
そして…
星を覆い尽くした。
そして…
空気を飲み干した。
星に根を張った。
宇宙に茎を伸ばした。
葉で光を浴びた。
もうここには何もない。
ここはただのでかい石になってしまった。
探さなきゃ、水を。
探さなきゃ、良質な土を。
探さなきゃ、栄養を。
探さなきゃ、次の星を。
さぁ、種を翔ばそう。
ここにはもう居られない。
動かなきゃ、ここから。
戻らなきゃ、種に。
行かなきゃ、星に。
次の星を見つけた。
水だ。
土だ。
栄養だ。
さぁ、食べよう。
食事だ。
………
……
…