彼女ができてから
「なあ、エミ。最近何かあった?」
俺はすぐさま行動に移した。
「え?どうして?」
エミは不思議そうに尋ねてきた。
「最近少し俺に対して冷たいというか素っ気ないような気がしたんだ」
俺は素直に思っていたことを口に出した。
するとエミは少し考えるような素振りをした後いつも通りの笑顔を見せた。
「そうかな?神田君の勘違いじゃないかな?」
「本当に何か思うことがないのかい?」
「本当にないって。まあ挙げればきりがないような細かいことならたくさんあるけど」
「ああ、そういうのはいいよ...」
どうやら本当に何もないようだ。いや、本当にないのだろうか。口に出せないだけなのかもしれない。考えすぎだろうか。
そして俺はすっかり恒例になってしまった作戦会議を開催すべくケイちゃんを呼び出していた。さすがに三度目ともなれば相談内容は察しがついているのだろう。ケイちゃんは少し面倒くさそうな顔をしていた。
「ケイちゃん少し聞きたいことがあるんだ」
ケイちゃんは面倒そうな表情を変えずにドリンクを飲んでいる。
「大体察しはつくけど何が聞きたいの?」
「女の子って何か思ってても口に出さないってことある?」
ケイちゃんは少し驚いたような顔をした。
「なるほど。とうとうそこにたどりついたか。結論からいうと当然あるな。例えば私なんかは思っていることの三割しか口に出さないな」
「それはなんで?」
「残りの三割は悪口、残りの四割は飯のことを考えているからだ。もし私が十割すべてをそのまま口に出してしまったならきっと相手は傷つくかもしれないし私をきらいになるかもしれない。そんなことになってしまったら人間関係に支障が出てしまうだろう?」
「なるほど。それはそうだ。意外にきちんとして理由だけど今包み隠さず俺に言っちゃったよね」
「神田君はべつにいいのよ」
「え、それってどういう意味」
「...」
「なるほど。今のが思っていることの三割というわけか。確かにその後に続く言葉は俺を傷つけるような言葉のような気がする」
「まあそういうことだね。ちなみにその後に続くのは別に神田君に嫌われたり、傷つけたりしても特に私の生活に支障はでないだろうしねという言葉だね」
「やはり予想は当たっていた」
「でも神田君に私がいくら毒を吐いてもきっと私たちの仲が悪くなったりはしないと思うよ。結構私は君に対して毒を吐いていたりするけど君にはそれはあいさつとかジョークのように受け取られている節があるみたいだし、私も君と話していて遠慮とかしないでいられるから結構楽しいんだよね。たぶん私たちはそれなりに仲のいい友人としてうまくやっているんじゃない?」
「たしかにそうかもしれない。けど俺は誰に対しても特に思ったことを偽ったり隠したりしたことはないな」
「君はあまり考えて話していなさそうだしね」
「ケイちゃん。少し遠慮がなくなりすぎじゃない?」
「そうかい?いつもこんな感じでしょ」
少し俺はなめられているのかもしれない。というかなめられているな、完全に。
「話を戻すけどさっきの思ったことを言わないっていうのはもちろんエミにも当てはまるということだよね?」
「そうだね」
「そうなのかー」
俺は彼女に対して真摯でありたいって思うから思ったことは素直に言うことにしている。まあ彼女は彼女なりの考えがあるということか。
「恋人に対して誠実でありたいっていうのはわかるけど、だからといってそれが思ったことを全て明かすということにはつながらないんじゃない?」
「俺はまだまだというわけだね」
「そうだね。まだまだだね」
そんなこんなで第三回作戦会議は終了した。俺には課題が山積みだな。エミとのことをもっと考えるべきなのかもしれない。エミは言わないけれど俺に対して思うことあってがそれが積み重なってきたのかもしれないし、俺が気づいていないだけで以前にも同じような状況があったのかもしれない。一緒にいることが当たり前になって日頃の気遣いや感謝が薄れていたのかもしれない。今回の件はいい薬になった。しかし問題が解決したわけではない。解決するためにどうすべきか...。