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処刑人の殺し方  作者: 間堂実理果
『E.S.B.』編
4/47

第2刑 虚ろな目の少女――partB

 家に帰ると、4人は改めて近日起こっている事件の整理を始めた。那雫夜が資料を見ながら読み上げる。

「まず、最初の事件が、5日前。G地区O番地で27歳の会社員男性と、その妹で18歳の女性が殺害された。2人とも喉を一突きにされている。そして2件目が、4日前。G地区J番地で53歳の父と49歳の母、そして9歳の娘の3人が殺害された。全員胸に何かで刺された痕があった。そして今回が40の母と11の息子が被害に。2人とも胸を突かれ、そのまま木に貼り付けにされていた――」

「全員G地区に住んでいた……。なぜでしょうか?」

「やっぱりそこが気になるよね。犯人もG地区の人間、って可能性が高そうね」

 とは言え、1つの地区の人間が全員容疑者というのは、あまりにも数が多すぎる。まだ絞り込める要素はないだろうか。

「何か有益な情報は聞き出せましたの?」

「いんや全然。みんな心当たりはないって言ってたのね」

「こっちも。怪しい人間も、《罪人》も、一切確認されていない」

「僕は――ちょっと気になることが」

 挙手する晶に、利里が素早く詰め寄る。

「何、早く言うのね!」

「現場から少し歩いた所にある公園で、女の子に質問して来たんです。でもあの人、何も知らないって言うばかりで――。でも明らかに、事件の話題を避けているみたいでした」

「それはどんな人でしたの?」

「えっと、歳は多分僕と同じくらい。三つ編みの髪でジャージ姿でした」

「えらく地味な格好ねん……。ちょっと怪しい」

 4人は揃って考え込む。だが結論が出ることはなかった。

「とりあえずまずは、G地区の警備を強くすることですわね。調査部にも協力を仰ぎますわ。そして他の執行部員にも。あとは住民に不要な外出を控えるよう注意することですわ」

「これで連続殺人事件が終わったという証拠がない以上、そうする他ないのね」

 皆、乃述加の意見に同意する。

 大分日が傾いていた。


        × × ×


 翌日。晶は近所のスーパーマーケットに向かう途中、あの少女を見つけた。彼女はこちらに気づいていないようで、空を仰いだまま動かない。ゆっくりと、気取られないように近づく。

「こんにちは」

「――こないだの」

 意外にも、すぐに逃げられることはなかった。むしろ「待ってました」とでも言うような目でこちらを見つめている。

「どうかしたんですか、こんな所で」

 こんな所と言っても、国道沿いの道だ。誰が往来していても不思議ではない場所である。

 少女は顔色一つ変えずに、呟くように答える。

「人を探しているの」

「誰かと逸れてしまったのですか?」

 ゆっくりと首が横に振られる。

「違う。ずっと昔から探している奴がいるから。どうしても、気に食わない奴が」

 やはり彼女の瞳は、ぞっとするほど冷たい。ガラス玉の方がよっぽど光を宿しているだろう。

 晶は、なぜかは分からないが、彼女にだんだん興味が湧いてきた。不思議と彼女のことを知りたいと思えた。

「あなた、名前は? 僕は十谷晶と言います」

「私は――――――」

 少しの間を置いて、

「吉川(きっかわ)杏樹(あんじゅ)」

 この日は、それ以外は何も話してくれなかった。無言のまま、2人は背中を合わせて離れて行った。


 同時刻。再び事件が起き、乃述加はその捜査に参加していた。

 調査部や警察からやや距離を置いた場所で、乃述加は停止させたバイクに腰かけて煙草を吹かしている。そして苛立ちを隠しきれない表情で、携帯電話を手に取った。相手は海外にいる自分の上司だ。

『こちら十谷クリスティーナ。乃述加か?』

「はい。クリス……近頃起こっている《罪人》による殺人事件、あたくしたちが昔担当した事件とそっくりなんです」

『んだとぉ!? どんな内容なんだ』

「これまで出た4件の被害者は、みんな家族でいるところを殺害されているんです」

『そう言えば……5年くらい前、あったよな。家族を狙った連続殺人事件。でもあの犯人の《罪人》は、俺とお前で処刑したはずだろ?』

「ええ。ですから今回の事件との関連はないはずですが、何だか嫌な胸騒ぎがして」

『確かに引っかかるな。そんなホイホイ類似した事件が起こる訳ねぇよ』

「ですからお願いしたいのですわ。どんな些細なことでもいい。覚えていること、知っていることを教えてくださいまし」

『そうだな。確か、1人だけ死亡じゃなくって行方不明扱いになっていなかったか?』

「そうですか? あたくしが受けた報告では、死亡者が全12人だったと思いますわ」

 電話口でなにやらガタゴトと音がする。クリスティーナがパソコンか何かで過去の資料を漁っているみたいだ。

『それが12人じゃねぇんだ。最初の被害者の矢尻さん一家が5人。次の兵頭さん一家が4人。最後の吉川さん一家が3人と記録されている。でもどうやら、最後の吉川さんちの上の子が以来姿を消しているらしいんだ』

 乃述加は携帯灰皿に煙草の灰を落としながら考える。

 本当の家族構成は四人。けれど殺害されたのは3人。そして1人が姿を消した――。行方不明、と言うことはまだ生きている可能性がある? 当時の事件を知っているなら、類似した事件を起こすことも可能ではないか? そんな、嫌な予感が奔る。

「クリス。その子がどこかで目撃されたとか、そういう情報はありませんの?」

『全くない。まぁ、当時小学校5年生だ。家族を殺害された後でまともな精神状態でいられるかも怪しい。どこかで命を落としている可能性の方が、存命している可能性よりもあるな』

 可哀想だが、その通りだろう。

 今はそのことよりも、5年前の犯人について調べた方が確実かもしれない。

 ありがとうと告げて、乃述加は電話を切った。


 同時刻。邪庭家で資料を洗っていた利里と那雫夜は、あることに気がついた。

「那雫夜、これ見て欲しいのね。これってもしかして……」

「まさか。まるで、こんな、ゲーム感覚で……」

 単純だったが故に見落としていた。それに、こんなことを考えながら殺人を犯すやからがいるはずないと、信じたくなかった。だがもしこれが考えられてのことなら、まだ事件は終わっていないと取れる。

「早く犯人を見つけないと――!」


 誰もが違う情報を掴みながら、事件の収束へ向けて走っていた。

 この先どのような結末を迎えるかは、まだ誰にも予想はできていなかったが。






 プロフィール


 百波利里

 ・9月20日生まれ  19歳

 ・身長 172cm  体重 55kg

 ・血液型 O型

 ・趣味 映画鑑賞

 ・好きな食べ物 サンドウィッチ    嫌いな食べ物 レバー

 ・よく見るテレビ番組 特撮ドラマ

  奧着大学歴史研究学科に通う女子大生。それと同時に、日本・対《罪人》研究迎撃機構・執行部の幹部でもある。茶髪なのは地毛。本人にその気はないのだが、同性にばかりモテてしまう。考えていることが、すぐ口に出てしまうタイプ。

  しかし以前は、もっと陰のある性格をしていた。乃述加との出会いがきっかけで、明るく生まれ変わったのだとか


次回「繰り返す悪夢」

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