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世界の矛盾というものがあるらしい

「そろそろ右に曲がるよ……はい、ここ」

「……すまない。ありがとう」

「あはは、しょうがないよ。はい、到着!」


 やっと着いたぁ。宿から15分くらいしか歩いてないけども。なんか、精神的に長かったわ。


 そう、ここで冷静になってはいけない。

 何が悲しくて、目隠しした男連れて娼館に来なくちゃいけないというんだ。とか思い始めるとキリがない。


 コイツ、もとい、この隣に立つポンコツ、外に出た瞬間、視界に入る全ての人間の思考を読心してぶっ倒れたのだ。そこで、仕方なしにこうやって目隠しして引っ張ってきたわけだ。

 娼館に。そう、娼館に。


「カナメ、繰り返し言うけど、別に他意や下心はないからな」

「いや、分かってるって。姉が居るんでしょ」


 コイツ、目隠ししてても勘は鋭いな。このタイミングで、私の思考を読み取ったかのような釘刺しだわ。


 目隠しを取り払って薄目を開けながら、サンは大きく深呼吸している。白髪は目立つらしく、ダーク同様フードを被っている美青年の顔には、緊張の色が濃く浮かんでいる。


 なんだっけ。生き別れの姉がいて、その子に会うみたいな感じで言ってたっけ。宿屋で平手打ちの後に弁明されたことを思い出す。


 10年ぶりの再会、みたいな?それはなかなか緊張しそうだねぇ。

 しかも、心まで読んじゃうかも知れないわけだ。率直に言えば、相手の本心まで否応なしに流れてくるわけで、ちょっとどころではなく怖いかも知れない。


 実はあんたのことなんてどうとも思ってませんでしたーとか、頭の中でぶっちゃけられたり……うん、縁起でもないので考えるのはここまでにしておこう。


「いざとなれば、目なんか閉じずに、私の方見てれば良いよ」

「え?」


 意外そうにサンはキョトンとした顔を向けてくる。20代半ばかと思ったけど、見た目よりも幼く見えるな。


「ほら、私のくだらない思考読んでたら気が紛れるかなって」

「あぁ、確かにくだらない思考してるから、一理ある」

「あははは……殴るぞ」


 自分が言うのは良いけど、そう言われると腹立つもんだな。穏やかに浮かべてるつもりだった表情でピクピクと片頬がひきつる。


「冗談だ。ありがとう」


 少し緊張が解けたらしい、先ほどよりは表情が柔らぐ。


 で、娼館に仲良く手を繋いで入ってきた私たちに案の定、番台の視線は困惑を示した。


「あのう、宿屋ならこの一筋向こう側どす……」


 確かにラブホテルと間違えられたかと思いますよね。うんうん。


「…………」

「…………?おい、何か言ってよ」


 サンが黙っているので、沈黙に耐えきれず私は口を開いてサンを見上げた。


 すると、緊張顔にプラスして悩ましげにオロオロしだす。


 え、え、どした?


 そう思うのも束の間で、くるりと向きを変えて外に向かって歩き出した。手を繋いだ私もそのまま一緒に娼館から出る。


 外の空気を吸うと、自信なさげにサンが口を開いた。


「多分、ここじゃない」


 ちーーーん。

 そんな効果音が聞こえてきそうだ。


 え、そうなのか。

 じゃあ他のところは……と振り返って周囲に視線を走らせ……うん。ここで私は気づいた。自分が愚かだったことに。


 娼館探し、簡単に思ってたけど、やべえわ。見渡す限りこの通り一帯、全部娼館だわ。


「サンよ、娼館以外で何か絞る条件ないの?これ、全部一軒一軒巡るのキツくね」


 私の精神的にも既に限界近い。一軒目でまともに言葉も発してないのに、結構なダメージである。


「ユシララは色街で有名らしいから……やっぱり娼館は多いんだな」

「それ、早く言えよ」


 んじゃ、元から探すの無理があったんじゃね。


 どうしたものか、とりあえず冷静になるためにサンと路地裏へ行く。人が大量に居るとまたサンがぶっ倒れてしまうからね。

 昨日はここまで酷くなかったのに、何でだ。


「暗かったから、視界が悪いと思考も流れてこない」

「へー、そうなんだぁ」

「……興味なさそうだな」

「まあ、確かに興味ないわ。てか、その読心スキルってさ、オフすればいいんじゃないの?」

「オフ?」


 サンがパチリと瞬きしてみせる。

 ステータス上のスキルは基本的にオンオフがある。もちろん、自動発動型もあるけど、それは体に負担の無い範囲のスキルだし、操作できないことないと思うんだけど。


「ユニークスキルは操作を行えないはずだ」

「え、そうなの?私は多分操作出来るけど……まあ発動条件に達してなかったらオンにできないとかはあるみたいだけどさ」

「……それは勇者だけ出来るんじゃないか?ニャーには操作出来ない」

「マジか」


 ん?でもダークは操作してた……。

 まあ、ダークは拒絶とかなんか規格外なことしてそうだなー。


「とりあえず、私のパーティに加わってみる?何か手を繋いでたら仲間になる画面に出てくるし、操作出来そうだよ」

「ニャーが、勇者のパーティになるのか?すごい世界の矛盾を感じるんだが」


 サンが目をウロウロと困ったように泳がせて動揺している。


 世界の矛盾?

 あ、堕天者だからか。堕天者と勇者は相容れないみたいな雰囲気だもんねぇ。でも、世界の矛盾は言い過ぎなんじゃ……。


 と、まあグダグダ言うのもめんどくさいので、オッケーとみなしてパーティに加えた。


 すると、パンパカパーンみたいな特殊な効果音が頭に響いた……かと思えば途中で音程が崩れて途絶えた。


 《Congratulations!!サン・パチュスがカナメのパーティにku0わrい魔ssskhmw〆」》


 ちょww何か、文字バグってんだけどww

 大丈夫かこれ。


 ちょっと不安に思いながら、サンのステータス画面を開いた。


 名前:サン・パチュス

 種族:s!sh4族

 LV:10

 称号:ぐしやのたなまぃい

 加護:

 ユニークスキル:魅りょ卯れべべへはち、どくしんレ部ル5、Maりょ黒象sAレベル1、ぎょあつればあいあああああ

 スキル:乖離きレベ部へ3、かあかたたたた、かかなにたなななな、つななたな、はかやたss

 pmgt@jt5484649

 jwmpm@54058

 pwjwgmd6264

 wgjjggjjjj28594

 ¥〒4951115

 79796481

 49592659

 554○+976

 ×6548○+


 名前以外文字化けしまくりじゃん。しかも、徐々に文字化け激しくなってるんだが。


 なんか知らんが、見てたらこっちが酔ったみたいに頭くらくらしてきた。サンがこの世界の矛盾とか言ってたのを目の当たりにしてる感じだわ。

 でも、何とか読心スキルっぽいところをタップしてみる。オフ……出来た?


「どう?オフしてみたけ、ど、うっ……おぇっ」

「だ、大丈夫か、カナメ」


 途端に脳みそをシェイクされるような感覚に襲われ、足元がふらついた。


 サンが抱き抱えてくれなかったら地面に倒れてたな。


 この感覚どっかで……あ、アレだ。

 洞窟の中で勇者の称号変えた時みたいな気持ち悪さだ。

 ピーピーと警告音のようなものが遠くで聞こえて、手足が冷える。頭の中を意味不明な文字の羅列が這い回って、視界を埋め尽くしていく。この症状、あの時よりも激しい。


 あー。やべ、これ、なんか死にそうな……。


 と、ここでサンが繋いでいた手を離す。

 途端に女の姿に変わった。そして同時に、グラグラと頭の中で動き回っていた文字化けした文字がサッと消えて視界が晴れていく。


 そしてポーンと頭に効果音。


 《サンが条件から外れたので、パーティから外されました》


「カナメ……無事か」


 私と同じくらいの背丈になったサンは不安そうに投げかけてくる。


「あー、うん、もう大丈夫。何か、やばかったね」

「いや、ニャーも知らなかったとは言え、すまない。強く止めておけばよかった」


 若干まだ頭痛がするけど、だいぶマシになった。自分の力で立ってサンを見る。


 なんだか、落ち込んだ雰囲気のサンにちょっと悪いことしたなーと反省する。考えなしだったのは認めるけど、まさかあんな生死を彷徨うレベルになるとは思わなかったわ。


 なんか言葉はないかと口を開こうとしたら、ポーンと頭に効果音が響いた。


 《異種族をパーティに加えるためには、イベント条件をクリアする必要があります》


「異種族?サンは種族が違うからエラーが出たってことみたいだ」

「え」


 サンは意外そうに首を傾げた。

 女性姿だから余計に可愛い。ダークと言いサンと言い、マジ天使だわ。堕天者って、天使のことじゃないの。


「ニャーが堕天者だから、世界の拒否反応なんだと思ったんだが、違うのか?」

「うん、この文だとそう言うわけじゃないみたいだねぇ」


 ダークも異種族なんだけど、パーティメンバー以前に隷属してるもんね。何かしら条件があるのかも知れないな。


「つーか、異種族が条件的にダメならパーティ追加画面にそもそも名前出すなよなー。紛らわしいうえに危なっかしいじゃん。マジ死にそうだったわ」

「そうだな」


 先ほどより明るい表情になったサンが、同意を示す。


「ま、とりあえずそんなことは置いといて、サンの姉ちゃん探し再開しよう」


 そう、正直パーティに加えようと加えなかろうと、実質的にどうでも良いのだ。サンの姉探しに目隠しが不便だなー程度だったからね。


 それに、人気の無い路地裏ならサンも人酔いせず普通に歩けそうだ。この路地を伝って娼館を辿ってみるかと歩き出した矢先……。


 角から出現した大男が話しかけてくる。


「カナメか?」

「あなたは……えっと、確か、リフリィさん?」


「「何でここに?」」


 お互いがお互いに対しての投げかけが重なった。

 顔を忘れるはずもない。

 そんな印象的な訳じゃないけどさ、タコ親父の店で賭けをした相手がこんな所にいるなんて不思議だ。多分この人もレーンボルトファミリー、スフィアさんの手下なんだろうけども。


 相手は引き攣った笑い顔をしながら、私の後ろにサッと隠れたサンを見遣った。


 何だか、嫌な予感がするな。

 悲しいことに私の勘は結構当たるのだ。

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