セクハラ野郎に制裁を
少しエロ表現あり。苦手な方は薄目に見てください。
そよそよと柔らかな風が顔に当たる。
薄らと目を開けると、数歩先にテーブルがあり、その更に奥の壁に窓がある。風はその軽く開けられた窓の隙間から流れてきたらしい。
太陽の加減を見るに、だいたい10時くらいだろうか。
あー……よく寝たな。やっぱりベッドって最高だなぁ。身体が久しぶりに癒されてる。
と、寝返りをうちかけて、気づいた。
なんか、誰かに抱き締められてねぇか?
よく耳を澄ませば、頭上からスースーと寝息が聞こえてくる。そっと視線を下げると、私の腹の所に知らない人の手がある。そして背中には自分のより若干高い体温。
血の気がザァーっと急降下した。
お、お、お、落ち着け?
落ち着くんだ私。
昨日、何したっけ。
ダークに謝り倒した後、サンと3人で飯を食った。肉を大量に頼み、メニューは右から左まで全て頼み尽くし、完食した。
宿屋をとる時、門番の件があったから、ひとまず私だけで取った。宿はどこもいっぱいらしく、何故か3人1部屋で借りれた需要が迷子の部屋を取り、今見えている窓からこっそり2人を呼び込んだのは覚えている。
入ってみて衝撃だったのはこの部屋、ベッドがクソでかい。3人分のベッドが無駄にくっつけられたダブルベッドならぬトリプルベッド。ガチで需要が迷子だな。まあおかげで安く泊まれるから良いけども。
と、比較的安く済んだことにホクホクとしていた記憶がある。
強いて言うことがあるとすれば、ダークが頑なに真ん中で寝るってのを譲らなかったことだろうか。こんなに広いベッドだから、確かに真ん中で寝たくなる気持ちは分かるけども。生意気な割に大人びた性格のダークにしては子供っぽい主張だよな。まあその点を除けば、比較的穏やかにその日は就寝した。……はず。あと、寝る時はダークと相変わらず手を繋いでいた。
思い返してみるが、今に繋がる取っ掛りは分からなかった。
いっそ前後不覚になるほど飲み明かしていたならこんな展開も予想出来ただろう。逆に何も無くてこの状況は、パニックになるよ。
と言うのも、この私に回してきている腕、どう見てもダークのものでも無ければ、サンの、女性のものでも無い。てか背中からの感触的には成人男性のそれだし、そこそこ身長もありそうだ。
しかも、あろうことか、この腕、私の腹を直接触っている。ちょうど服と服の切れ目に手を入れてきている形。
気配を読むに、相手は寝ている。
よし。
ひとまず気づかれないようにそっと抜け出そう。そうしよう。
私は腹のところに置かれている相手の手をそっと引き剥がす。
「んー」
頭上から寝息ではなく、男性の低い吐息混じりの唸り声が上がる。私の持ち上げた腕は容易く元の位置に収まると、あろうことか、下腹あたりをさわさわと撫で始めた。
ゾワゾワっ
「ぅあっ」
よく分からない感覚に思わず鳥肌が立ち、変なうめき声を上げた。
そして、咄嗟に私が身を捩ることで出来た隙間にもう一方の腕が通されて、胸の上あたり、肩を後ろからガッチリと抱き締められる。
てか、今の一瞬で脚も絡められている。
完全に籠絡される一歩手前って感じだ。
これは……やばいかもしれん。
なんと言うか、女の危機みたいなやつだ。
危機と言えるほどの貞操でも無いんだけどさ、見ず知らずの異世界人は流石に遠慮させて頂きたい。
せめて、オッサンじゃありませんように。
そっと斜め上を振り返ろうと身動ぎする。
「うぇ、ちょま……」
私の動きに合わせて肩にあった手が私の顎にかけられると固定される。首筋をするりと撫でられて、背後が動く気配がする。
「ちょ、あ、う、んぐ」
ちょーーーー!!
首あたりが舐め……舐められて……?!
しかも下腹撫で撫でがまだ続いて変な気分に……
混乱する中、唐突に何故かダークの顔が浮かぶ。
「やめろぉお」
困惑した頭のまま、絡まりつく腕を振りほどいて、何とか背後の相手に馬乗りになって両腕を押さえつけた。
視界に入ったのは、ダークとよく似た陽射しを受けてキラキラと光る銀の髪。ダークのよりは少し赤みがかってるようにも見える。そして、その頭にぴょこんと立つ猫耳。相手は、たった今正気に戻ったと言わんばかりに驚いた表情をしてこちらを見つめている。淡い赤色の瞳が、見開かれて揺れた。
女性的な綺麗な顔立ちだけど、首筋や、顎の辺りの線が男性のソレだ。握って組み伏せている手首も筋張っているし、はだけた胸元もある程度厚みはあるけれど女性の胸とは大きく違う。
「あ、あはは、なんか、戻った……みたいだ……あは」
うん。目の前のこのイケメンは何となく状況が分かったみたいだ、誤魔化す様に言葉を発してくる。私も状況整理は必要だろう。
だが、その前に、だ。
「歯ぁ食いしばれ」
「いや、その、これは不可抗力っ……」
ドゴッ
「ぐはっ」
相手の腹に思いっきり、拳をぶち込んだ。
もちろん、彼の頭の上辺りで両手首を片手で掴んだ状態で拘束し、男に変化させた状態のままだ。
腹を抱えて悶絶する(おそらく)サンから手を離して手を叩いていると、見慣れたサンの姿にしゅるしゅると身体が変化していった。
最悪な目覚めに頭が痛くなりつつ、ベッドから離れてテーブルの近くの椅子に腰かける。
ベッドからは見えなかったけれど、テーブルには紙の切れ端と、その紙が落ちないように石が置かれていた。
そして、水差しとコップも置かれている。土色の水差しセットから、ダークのお手製だろうと見当はつく。
置き手紙の内容はダークからの伝言みたいだ。剣のマークが描かれている。おおかた武器とかの調達に行ってくれてるんだろう。
街の中なら魔物の危険も無いし、ダークには拒絶スキルもある。
でも、さっきのアレがサンと私の2人きりにされたから起きた悲劇だとすると、今回に限ってはダークの行動力が恨めしい。
ダークの置き手紙を弄りながら、深いため息を吐いた。と、女版のサンがよろよろと腹部を抱えながら近づいてきて、床に座り込むと私の手を取った。
「さっきは済まない。つい癖で無意識にあんなことをしてしまった」
私の手を握って男版サンになると、女版の時より深みの増した声で謝罪してくる。
「まあ、さっき殴ったからその件はどうでもいいよ。けど、サンって男なの女なの」
個人的にはさっきのことは闇に葬り去りたいから、これ以上触れてこないで欲しい。
まだ首筋の感触が残っててゾワゾワするし。何とか忘れたい所だ。
若干の照れも相まって、つっけんどんに尋ねると、サンは手を握ったまま困ったように目を伏せた。
「……実は、男なんだ。呪いで女にされていて、上級の呪いだから解除も効かない。死ぬまで治らないと思っていたんだが、お前に……カナメに触れたら何故か解除されたようだ」
「そりゃね。私、呪い無効の勇者だからね」
様子を見るに、嘘は言っていないんだろう。
まあ、一生治らないと思ってたなら、本当は男だと言った所でなんの意味もない訳だ。だから、黙ってたとしても不思議は無い。
それも、ちょっと会ってすぐ離れるだけの相手なら特に言う必要がないと思うのも分かる。
勝手に納得しながら私が呪い無効の勇者だと告げると、弾かれたようにサンが視線を上げてくる。
やっぱり見た目が良いから、ただ見られるだけでドキッとくるな。女版の時とは違った魅力がある。
「だから咎人の……ダークの呪いも解けていたのか。なるほど、普通ならば解除出来ない呪いも無効にしてしまえるんだな」
と、サンが呟いて真剣に何かを悩む仕草をしてくる。
ひとまず喉が乾いたので、テーブルの水差しからコップに水を注ぐ。
いい加減手を解いてくんないかなー、片手で入れにくいし。
と思っていると、サンは逆に強く手を握ってきた。更に、これ以上ないほど真剣な顔をして口を開く。
「カナメに、頼みたいことがあるんだ。一生のお願いだ。聞いてもらえないか」
一生のお願いっていうのは、そう何度も使うもんじゃないと思うけど。割とよく聞くフレーズだ。
胡散臭そうに耳を傾けつつ、コップに口をつけて水を口に含む。
「頼む。それを叶えてくれたら、ニャーを好きにしてくれていい。殺していい、ダークのように奴隷にしてくれてもいい。性奴隷でも、何でも……何でもする」
「ぶっ、ごほっゲホゲホ」
「か、カナメ、大丈夫か」
飲み込みかけた水を吹き出し、咳き込んだ。
サンは反射的に立ち上がって私の背中を摩ってくれる。
「ゲホッ。ひ、ひとつ、言っとくけど」
なんとか気管に入った水を咳で追い出して、忠告する。
相手がちゃんと聞く体制なのを見届けて、続けた。
「ダークとの奴隷契約は、そんな感じじゃないからね。必要に迫られて仕方なくしただけ。私にそういう嗜好があるわけじゃないから」
言われたサンが、パチリと瞬きをして数秒間を開け、深刻そうだった顔から少しだけ表情筋を緩ませた。
「見てれば分かる。でも、ニャーのことは本当に好きにしてくれていい。それくらい大事なことを頼みたい。この世界で、カナメにしか頼めない」
「……分かった。私に出来そうなら請け負うよ」
まあ、こんなにも自分を顧みない願い事なら、なかなか大変な内容なんだろうとは思う。
でも真剣な願い事を端から突っぱねる気にもなれない。
返事の後、私の思考も読んでなのか、ホッとした表情になる。何も大したことは言ってないのに、既に泣きそうな顔だ。
「……ありがとう」
うん。照れる。
想像してみてもらいたい。同い年くらいのイケメンに、泣き笑いのような顔で感謝されてみ。とりあえず直視出来ないだろう。
「で?頼みたいことって何?」
突き放すように言った所で、思考が筒抜けだから照れてるのはバレバレだ。
それでも心の平穏の為に、そこは許してもらいたい。
「一緒に、娼館に来て欲しい」
ピキっと固まる瞬間、ご存知頂けるだろうか。
相手はあくまで真剣な顔だけど。
思考を停めた私は貼り付けたような笑みを浮かべ……
パァン!
目の前の色ガッパの顔を思い切り平手打ちした。
乾いた音が、宿屋に響きわたった。




