表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/150

タコ料理はいかがですか

「ふんぎぐぐぐ……」


 私は泥に腰まで埋まりつつも必死で前に進もうと足を動かす。体感50kgはあるだろう巨大なタコ足を頭の上に抱え上げながら。


 普通の状態なら沈んだとしても足首あたりまでで、若干足が取られるかなという沼地だ。


 そんな中で腰まで埋まっている原因は、このタコ足の重力のせいだと分かっている。

 分かってはいるんだけども。


 これは、これだけは沼地の中でも比較的硬めの地面がある道まで持ち帰りたい。あともう数メートル、もう少しの辛抱だ。


 この巨大タコ足の吸盤は、まだ僅かにピクピクと動いているけれど、危険はない。危機感知も作動してないしね。足もうねらせてはいるけれど、頭が無く、抱えあげているのは元々あった所から切り離した1本だ。


 視線を上げて進行方向を確認すると、道の上ではダークとサンが待っている。


 ダークは理解できないみたいな、あのいつもの眉間にシワを寄せた険しげな表情。サンの方も呆れ顔の様な、困り顔の様な曖昧な表情を浮かべている。


 こんな表情を浮かべているのも無理はない。この世界では、どうやらタコを食べる習慣がないらしかった。


 沼地に入ったところで、この魔物に出会った瞬間、私は運命を感じたのだよ。

 こいつは、食える!!タンパク質だ!!って。


 森を歩く間は魔物遭遇率ゼロだっただけに、沼地の魔物の多さには少しびっくりした。湿地帯ってやっぱ生き物多いんだねぇ。


 まあでも、タコやその他の魔物は現れた瞬間、ダークが風魔法や土魔法やらで木っ端微塵に消し去るので直接的には危険がない。


 火魔法は沼地の生物には効かないらしく、風魔法で微塵切りにするか、土魔法で地の底に埋め込むかの二択だった。


 この二択だけど、オーバーキルなのは目に見えて分かる。目の前で無造作に、ほぼ無音で消し去られてく命をポカンと見守ることしか出来ない。


 だって、急速回復持ちのダーク自身には負担もなければ、戦ってなくてもパーティメンバーである私にも経験値が謎に入る。

 私、この沼地に入って戦闘してないのに何故かLV20に到達してしまったよ。ステータスの伸びは確かに悪いけど、甘んじて受け入れよう。


 確かに近接戦闘しか出来ない私は下手に道から外れて沼地に足を取られると、逆に足手まといになるもんね。


 それに特に魔物どものドロップアイテムに興味もないので、ありがたく討伐をしてもらっていたわけです。


 というわけで、ひたすらニート気分を味わっていた。


 ただ、あのタコの魔物を見た時から、私は散々ウズウズしつつ沼地を進んできた。


 そしてお昼時の今、測ってくれたかの様に現れた巨大タコの魔物を前にして、漸くダークに少し大きめのサイズでカットすることを頼んだ。


 頼まれたダークも、そこまでは特に難色も示さず巨大タコのスライスをやってのけてくれたんだけど、私がそれを食用にすると言えば即座に反対してきた。


 サンは女の子だからだろうか、「冗談だったんじゃないのか……」と引きつった顔で呟いてくる。


 冗談では無いけど、2人してこんなドン引きするとは私も流石に思わなかったよ。


 そういや、ヨーロッパの方では昔タコは海の悪魔だとか言って食べないって聞いたな。

 きっと、そう言う類のものだろう。


 食習慣は一番元の世界でも相容れない所の多い部分だった。


 しかしまあ、お前ら、タコの美味さ知らないとかとんだモグリだぞ。

 今に茹で上がったタコにかぶりついて、その旨味に悶絶するに違いない。


 あーやべ、想像だけで涎が溢れる。

 しばらく海鮮どころか肉も食べてこれなかったからね。身体がタンパク質を求めて悲鳴をあげているのがわかる。


 そんなことを考えつつ、意気揚々と硬い地面のある道まで泥んこになりながらもたどり着いた。


「パープルオクトをホントに食べるのか?」


 私が硬い地面に人間大ほどの大きさのタコ足を置くのを見つめながらサンが、最終確認だと言わんばかりに聞いてくる。


 このタコ魔物、パープルオクトって言うのか。

 確かに見た目が若干紫色をしている。


 魔物だし、完全にタコではなくても、茹でたら赤色になってくれるといいなー。元の世界のタコも茹でる前は暗い色だもんね。

 見た目的に食べる時も紫色のままだと、いくら美味しかろうと気持ち悪いもんね。


「うん、一応茹でるけどね」


 茹でりゃ何とかなるとふんだ私は、力強く頷き返しておく。


 サンは引きつった顔をしながらも、それ以上何か言うことも無く、未だにピチピチと収縮する吸盤に目を落とす。


 と、泥まみれの私の左手にダークが手を繋いでくる。


 そしてもう片方の手から水魔法のものらしき水がシャワーの様に滴った。


「ご主人、とりあえず汚れてるところをこれで洗おう」


 サンは多少タコ足に興味を示してくれたけど、反対にダークは興味無しなのが目に見えてわかる。

 寧ろ、さっきから眺めてる時に見せてた顔は、私の汚れる行為を理解出来ないって表情だったってことなのかな。


 何にせよ2人とも今に見とれよ、絶対おかわり取ってきてって言ってくるはず!


 と心の中でいき巻きながらも、ダークの申し入れはとてもありがたいのでダークの左手をシャワーの様に頭位置にくる様にしゃがんで浴びた。タコ魔物……パープルオクト自体が沼地の生物だけあって泥まみれだったから、私は全身泥んこなのである。


 適度な水勢のおかげで、頭や腕についてた泥が流されていく。


 この魔法便利だなー、もっと早くしてもらえば良かったわ。


 そんなことを考えながら、ついダークの手を取ってシャワーを浴びる要領で首と胸あたりへ引き寄せる。


「わ、わ?!」


 突如ダークは混乱した様な声を上げた。


 ドドドッ


 ダークの困惑の声と共に、水の勢いが急激に増えて私は数メートル先まで吹っ飛ばされる。


 ベシャッ


「「「…………」」」


 落ちた先の泥沼に左手半身を埋めながら、私は無言で吹っ飛ばしてきた張本人を見遣る。


 真っ赤な顔をしながらも、心配そうに済まなそうに見ているのを見て、事故だったんだと思う。


 ……うん。何となくわかったぞ。

 急に引き寄せられたせいで、集中力を欠いて水魔法の調整ミスったんだろうな。


 幸い、私は魔法防御力低いけど、もともと攻撃前提の魔法じゃなかったからなのかな。HPは地面に落ちた衝撃分と思われる、5しか減ってない。


 今朝の膝枕の件もあって私も人の事言えんけどさ。ダークって妙なところが初心うぶだよね……。


 いや待てよ。

 嫌いな奴に引き寄せられて、拒否反応が出たのかもしれない。そうでなけりゃ、膝枕平気でする様な奴が、ちょっと引き寄せたくらいであんな真っ赤にはならないでしょ。

 てことは、真っ赤なあの顔って怒ってるってこと?分かりにくいなー。


 しかし、私のこの予想、かなりしっくりくるじゃん。やだなー。


 私はため息をつきながら、沼地から起き上がった。


 サンはと言えば、驚く様な顔をして私とダークを交互に見ながら、最後には面白そうに笑みを作っている。


 こら。人が嫌われてる様を見て面白がるんじゃ無い。


 サンに心の中でお説教しつつ、のしのしと軽い身体で2人の方へと歩いていった。


 やはり、私の解釈は正しかったようでけっこう怒っているようだ。

 私が道に戻ってきてもダークは耳まで真っ赤にしてそっぽを向きながら手を繋いできた。


「……ご主人は突拍子もないことしだすから、これで身体を拭いてく……拭いて」


 ムスッとしながらダークは地面から土魔法の桶を作り出して炎で固め、最後にはそこへ水を入れた。

 炎で固めた際の熱が水へ移って、中の水は若干お湯になっている。


 これ、何度見てもすげぇよな……。


 流れるように今の作業をやってのけたダークに改めて感心する。


 というのも、この2週間、なんだかんだ困らずに済んだのはダークが居たからである。


 一つは森の知識を用いての食糧確保。そして二つ目がこの簡易湯浴み兼洗濯桶の衛生面確保だ。


 よっぽど汚れた時とか、疲れてる時とかにこうやって身体を洗えるようにしてくれるんだよね。


 だいたい2日に1回の頻度だったから、現代の日本人にとって回数が少ないと言えば少ないかも知れないけど、ダークの好意だから無理に出してと頼むのは気が引けてたんだよね。


「ありがとう、ダーク」


 私が満面の笑顔でお礼を言うと、チラッとだけ私の方へ視線を流してくる。


 そしてすかさずダークは、サンの方へ顔を向けた。

 そして、ダークが繋いでない方の手をサンの方へかざすと、サンが目の前で突然オロオロしだす。


「ご主人の姿はサンに見えなくしておいたから、安心して身体を清めて。終わったら魔法を解くから教えてくだ……教えて」

「あ……お、おう。ありがと」


 サンは女の子だから、別に見せても問題ない気がするけどねぇ。

 この場で一番見ちゃいけないのって少年、お前だぞ。


「ニャーはいいとして、お前も見たらダメじゃないか」


 心外な扱いにちょっと不機嫌になったようだ、サンがむくれつつも、いいツッコミをしてくれた。


 不機嫌と言うよりも、少し残念そうな顔なのは何でだろうか……サンを見る限り本当に私のことは見えてないようで、探すように目が泳いでいる。


「……僕がご主人の身体を?見るわけないでしょ」


 ダークは、いつのまにか赤みの引いた顔で、眉間にシワをこれでもかと深く作りながら吐き捨てた。


 ……うん。なんか、複雑な心境。


 お前なんか見る価値もねぇ的な意味なのか。自分は紳士だからみないぞ的な意味なのか。はたまた覗きを示唆されたことに対する抗議的な意味だったのか。


 ダークの意図がわからない分、微妙な気持ちになる。


 まあ一番あり得るのは最初の解釈だろうけどな!

 なんか悲しいけどね!!


 ふっ、まあいいさ。

 私の裸なんざ、ガキに見せるようなもんじゃねぇぜ……。


 ダークが私の手から離れていくのを、強がりながら見送ってさっさと身綺麗にする。




「うぇ、不味い……」


 口の中に広がる、えぐ酸っぱい味と、求めていた弾力とは程遠いスポンジが潰れるような歯応えに呻いた。


 気持ち悪い食感と壊滅的な味が合間って、下手すれば食感がマシな薬草を超えるかもしれない。


「だから止めたのに」


 私の左側からダークがこれでもかとため息混じりに呟いてくる。

 呆れた表情の彼の左手には、道すがら採取した蓮のような植物の根っこがある。所々直火で焼いたせいで焦げがついているけれど、それなりに美味しそうだ。見た目は焼き芋に近いかもしれない。


 いつもは、そういう採取したものを鍋使って煮たり炒めたりする。

 今回それを直火で焼いてるのは、いつも使う鍋を私が茹でタコ用に貸し切ったせいなんだよね。そんな中あまりのタコの不味さに、ちょっと申し訳なく感じてくる。


 ……茹で上がりまでは順調そうに見えたんだけどなー。


 口の中のもにゅもにゅとした物体を咀嚼しながら鍋の中身を見つめる。


 紫色の外皮は熱せられて鮮やかな赤色へと変わり、見た目は本当にタコそのものだったんだけどなぁ。


 にしても、こんなに不味いのになかなか吐き出す気になれないのは、やっぱりタンパク質を欲しいからだろうと思う。


 まあいつまでも口の中に残しておきたい訳では無いので、ゴクリと胃袋へ押し込むようにして飲み込んだ。


 あ。そういや、このタコ鑑定してなかったな。サンが名前言ってたからつい鑑定した気になってたわ。


 飲み込んだ拍子にふと思い立って、手に持った熱々のタコ足を鑑定してみる。


 《パープルオクトの足:あらゆる毒素を含有しており、水に一定時間浸ければ溶け出し毒液となる。南方にある植物と合わせれば、毒消しの材料となる》


「うっ」


 鑑定結果を読み終わると同時に急激な吐き気に襲われた。


「ご主人?!」

「いや、正気か。もしかして、パープルオクトが毒持ちって知らなかったのか?」


 私のえづきに反応してダークが持っていた蓮の根っこを落とし、繋ぐ手を変えながら私の背中をさすってくれる。


 さっきまでシラけたような表情だったサンも焦ったように近づいて、私の手からパープルオクトの足を取り上げた。


 ステータス画面を見れば、状態異常のマークが出る。


 嘘だろ、危機感知働けよ!!

 毒飲み込んじゃったやんけ!!


 とてつもない吐き気と目眩に耐えながら、慌てて毒消しを鞄から取り出して一気飲み……。


 おお、この毒消し、レモンとグレープフルーツの中間みたいな味がする。爽やかで美味い。


「ふぅ、ありがとう。毒消しで治ったみたい」


 症状が落ち着いたので、心配してくれた2人に礼を言う。


 2人は心底残念なものを見る目で私を見つめてくる。

 お分かりいただけるだろうか、間近で美形な2人に憐憫れんびんの目を向けられる、なんとも言えない哀しみを。


 しかし、私は気づいてしまったのだ。


 心配を寄せつつも憐みの浮かぶ2人を尻目に、鍋のタコ足を見遣った。


「これ、毒消しと煮込んだらまだ食えるレベルになるよ」


 おそらく、毒消しを使えば超弩級の苦味えぐみもゴーヤレベルにはなる。

 さっそく毒消しを入れようと鍋に近づいた。


 カンッ


 金属音を響かせながら私の目の前から鍋が消え去った。隣を見るに、ダークによって蹴飛ばされたらしい。鍋は、湯気を立てながら数メートル先で中身をぶちまけながら転がっていった。


 シーン……


 誰も何も言わない沈黙が数秒流れる。


「……ご主人が食べたいならって止めなかったけど、体調崩してまで食べるものじゃない。これを食べて、街でちゃんとした物を食べよう」


 相変わらずの眉間にシワ状態でど正論を発しながら、ダークが根っこの直火焼きを私の口に押し付けてくる。

 目が真剣だ。


 でもね、一つ言いたい。

 この根っこ、さっき落としたやつだよね。


「……ふぁい」


 まあ、言えるわけないんだけどね。


「ニャーは言った方がいいと思うけどな」


 声のした方へ目を向けると、サンは何かを諦めたような不思議な笑みを浮かべ、頬杖をつきながら座っていた。


 今、思ってることバレた?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ダークがカナメに対して甘すぎる…すき…………
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ