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膝枕と爆弾

「ご主人、まだ起きない?」


 ダークの声が頭上から降ってくる。

 すぐ近くで声をかけてきてるのが分かった。


「んー……」


 寝返りをうちながら、寝心地のいい枕に腕を回して顔を埋める。起こされるなんて酷いよー、まだまだこの感触に埋もれてたいのにぃ。


 適度な硬さと柔らかさ、触り心地のいい布地はどことなく爽やかなハーブのような香りもしている。こんな穏やかな気持ちにさせてくれる香りに包まれてたら、いつまでも寝てられそうだ。


 最高だなぁ、この枕。

 高さもちょうどいいし、フィットするし、腕を回した感じ少し大きいみたいだけど、そこがまた良い。

 そういや私、抱き枕派なんよねー。家のベッドでは、いつもカエルの大きな抱き枕にお世話になっていた。


 そのカエルくんとも引けを取らない……いや、それ以上だな。

 強いて言うなら若干硬めなのが少し惜しいかねー。まあこれはこれで良いんだけども。


 腕を回した感触だとL字型みたいだ。

 その折れた部分に顔を埋め込む。


 再度深く眠りこもうとした所で、私の頭に軽く誰かの手が添えられた。


「あの、ご主人……まだ寝てる?」


 少し戸惑って、躊躇うような声音。


 お前寝過ぎだろって思ってんのかな。

 でも、ダークすまん。今すごいフィット感あってやばいんよ。もうちょいこの体勢で寝たいんだ……。


「もうちょっと寝たいみたいだな。寝心地がいいらしい」

「ふーん、……じゃあ、起きてるんですか?」

「さぁ?寝てる人間のはよく分からないから……中間ぐらいだな。まだ寝てるとも言えるし、起きてるとも言える。でも、寝心地がいいってのは流れてくる」


 耳慣れない女性の声が聞こえてきた。どうやらダークはその女性と対話しているらしい。


「寝心地って、具体的には?」

「いい匂いがするとか、いい体勢とかかな?」

「ふーん」


 私の頭に乗せられてた手が、軽やかに私の横髪をく。


 やっと寝ぼけた私の頭が徐々に活動を始める。


 この女の人の声、誰だっけ……落ち着いた、どこか不思議な雰囲気のある大人の女の声だ。


 ぶっきらぼうな私の声とは違う。でも自己中男である物理攻撃無効勇者ユウキと一緒に居た女ジュリの、いかにも女の人って感じで、ねっとーりとした声とも違う。


 ノズ達のボスであるスフィアさんほど歳をとってなさそうだけど、トーンとしては近いのかもしれないな。ただ、スフィアさんの声は、どす黒い世界に連れてかれる怖さがあった。この女性は深い湖の様な透明感がある魅力的な声。若干色っぽいけど、安心出来る。


 うん。ちょっと覚醒してきた。


 この声、サンだね。

 昨日夕飯の時に結構喋ったけど、あの時はやっぱりまだ緊張してたのかな。今の声の方が素の彼女の雰囲気が出ている。


 そういやサンと一緒に、今日沼地を超えて西の街に行くって話だったな。


 そんな風にぼんやり考えているうちに、ダークは私が狸寝入りしてると気づいた際、タブの実で弄んだ件をサンに話しだした。


「……で、辛い方のを食べた瞬間、ご主人が、うぎゃぁって……ふはっ、ダメだ。顔を思い出し、たら……あははは」


 何故か私の枕もダークの笑い声に合わせて、笑いを堪えてる身体のように小刻みに揺れ出す。


「え、お前よく出来たな。そういうの、いつかやってみたいとは思ったけど……はは、本当によく出来たな。普通、奴隷から主には出来ないだろ」


 女の人も、ダークの話に半ば驚きつつも面白そうに相づちをうっている。


 というか、2人の話し方が昨日の夜よりもグッと砕けた感じだ。


 昨日の夜は2人ともお互い会話していた記憶無いけどなぁ。

 ……うん、思い出してみたけど私とサン、私とダークでしか話してなかったぞ。

 私が寝てる間にどんなけのスピードで仲良くなってんだ?


 ダークて気難しくて人見知りしてそうなイメージを勝手に抱いてたから、意外だ。


 アレだな。

 まだまだ赤ちゃんだと思いつつも公園に連れて行って、ちょっと目を離した隙に同い年くらいの子供とキャッキャ言いながら砂山創りしてるのを目の当たりにした親の気分だわ。

 ま、私には子供いないけどね。つーかまだ学生だし。


 ダークにしても、親ってほどのことはしてないけどさ。ただの保護者もどきだもんなぁ。


 それでもやっぱり、ダークが打ちとけられる相手がいるのを見たら嬉しさ半分、なんとも言えない寂しさというか、そう言うのを半分感じるね。


「まあ、お前の主人はホントに変わってるとニャーも思う。昨日だって、ニャーとあの男どものことを野生動物だと勘違いしていたみたいで、肉食いたかったーとか、めちゃくちゃ悔しがってた」

「え、本当に?!僕は、てっきり敵の動きに気付いたのかと……ご主人もとても真剣な表情していましたし……ぶはっ、でも、納得しました。僕に目隠ししながらため息ついてた理由ってそれなんですね。……面白すぎる」


 ……ん?何の話をしてるんだ?

 なんとなく私の事かなってのは分かるけども。何でサンが私の考えていたことを知ってるのか不思議だ。


 そんなに分かりやすく顔に出てたのかな(汗)

 ポーカーフェイスには自信があったけども、やはり肉には勝てなかったというわけか……。


 つーかダーク、今日よく笑うなぁ。

 きっと今目を開けてダークを見たら、眩しい笑顔を振りまいてるんだろうなと予想出来る。


 ただ、私の枕もダークの笑い声に合わせて揺れるのがちょっと不快だ。おかげであんまり心地よく二度寝がきまらない。


 なので、枕に回していた腕に力を入れて抱き込んでみる。骨のように硬い芯の部分があるみたいだ。綿とかじゃなくて、……まるで人間の体みたいな。


「いっ、たた、痛いご主人、腕、あまり締めると痛い」


 え。そうなのか?

 腕を緩めた。


 ………………

 ………………

 で、ここに来て漸く私は気づく。


 ひょっとして、ひょっとしたら。

 これ、この枕、ダークなんじゃね?ってことに。


 私は薄ら目を開けながらL字部分へ埋めていた状態から上を見上げてみた。


「あ、起きた?おはよう、ご主人」


 キラキラとした木漏れ日を背景に、ダークの蕩けるような蜂蜜色の瞳と困ったような笑顔が降り注いだ。


 え、ダークの顔が笑顔。近くに……本当に近いし、真上だし、眩しいし、綺麗で可愛いし、ダメだ、近過ぎる…………。

 ………………。


 想像を超える光景に、束の間フリーズした。

 時間がフリーズしたわけではないのは徐々に顔が熱くなって行くことで把握出来た。


 や、やや、やっぱり。

 だだだ、ダークの膝枕だったーーーー。


 ようやっと状況が把握出来た私は、無言でガバッと起き上がった。そして背を向けたまま、ダークと少し距離を取る。


 次いで心臓がバクバクと……あ、やべ。鼻血出だした。


 とりあえず鼻の上をツマミながら上を向く。

 最近読んだ医療本では上を向くのはダメとあった気もするけど、ティッシュないのに鼻血垂れ流すのは恥ずかしい。


 そして上を向きながら考える。


 円周率は3.141592653………ぐぁぁ、思い出せん。円周率思い出せば落ち着くかと思ったけど浅はかだった。そもそもここまでしか覚えてない!


 なんか、なんか、他に冷静になるやつ無かったっけ。


 えっと、えっと。


 ……………………

 ……………………


 ……ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人と(すみか)と、又かくのごとし……


 ふう。何とか落ち着いてきたぞ。

 動揺しすぎて、つい小さい頃親に暗唱させられた方丈記の冒頭を脳内で唱えてしまったじゃあないか。

 未だに良さは分からんが、冷静になれた気がする。

 鴨長明にマジ超感謝。


 鼻血も止まった……ぽい。


 いやー、今回のはやばかった。

 数多の脳内出血(鼻血)をくぐり抜けてきたとはいえ、やはりそろそろ限界があったといえよう。あの顔(あれ)はエンジェル過ぎたわ。まだ目にチラチラと焼きついてて残像見えるし。


 いつかはリアルに出ると思ってたけども、ガチで鼻血って出るもんなんだな。

 ある意味凶器だよ。鈍器で殴られるくらいの衝撃……ていうか今の私だとよっぽど強化された鈍器じゃないとあんま衝撃なさそうだわ。そう考えると物理攻撃的な破壊力も有るんじゃなかろうか。


 ふと、背後があまりにシンとしているのに気づく。


 先ほどまで膝枕されてたから、恥ずかしいのも相まって恐る恐る振り返ってみた。


 距離を取ったと言っても1メートルもないので、すぐ後ろにダークがポカンとしている。


 で、更にその奥、ダークの後ろでは、白色毛の猫耳サンが俯きながら肩を震わせていた。口元は手で覆われていてよく見えない。


 なんとも言えない空気の中、先に口を開いたのはダークだ。


「ご主人どうしたの。急に起き上がって、珍しい。具合も悪そうにして……もしかして、また何か呪いが?」


 ぽかんとした表情から心底不思議そうな顔になり、終いには、はっと気づいたように心配顔へと移っていった。


「い、いや。全然呪いとかでは無いよ。でも、あの……さ、アレ。だ、だだだダークは、何でさっきのアレ、あの、膝枕……を私にしてたのかな?」


 やべぇ、自分で膝枕て言いながら顔が熱くなる。

 もう、穴があったら入りてぇよ。思いっきり抱き寄せて顔埋めてたし。恥死(はずかし)ぬよ。


 寝起き一発目のエンジェル笑顔に瞬殺されて、方丈記挟んだからちょっと冷静にはなった。

 なったけども、そもそも膝枕とか初めてされたんだが。その事実に今更ながら羞恥心がムクムクと湧き上がってきた。


「え。結構前から……してたんだけど、ダメだった……の?」


 Oh……マイゴッド。

 結構前からしてたらしい。つい驚き過ぎて、目が高速でパチパチ瞬きを繰り返す。


「……ちなみに、その、結構前ってのは、昨日の夜からってこと……?」

「いえ。ご主人に呪いを解いて貰った日からずっと……毎日だけど」

「あ、そうなんね。呪い解いた日かー……って、うそぉ?!」


 呪い解いた日ってことは、果ての森の期間ずっとってことだよね?2週間……くらいだよな?

 ガチで結構前からじゃねーか。


 あの日から?毎日?

 膝枕されてたのか?!

 その間私は一切気づかなかったってことか?


 とんだおマヌケとは私のことだよ。

 あまりのことに、思わず額に掌を当てて唸る。


「うー……いや、でも、でもさ?私がいつも起きる時は、普通に地面に横になってたよね。枕もなんか毛布とか、そういうのだったよね?」

「それは、僕が朝食の果物採取に行くから……代わりになるのを置いてたので」


 おお、なるほど?

 てことは、いつも膝枕されて熟睡、からの、ダークお出かけ中に寝心地変わって若干目が覚める。惰眠兼二度寝って流れだったわけか?


 思い返せば確かにそんな気もしてくる。

 二度寝の時にはいつも、なんかコレじゃない感してたもんね。まーでも全く気づかなかった自分にパンチしたい気分だ。


 じゃあ今日は?

 何で私が起きるまでに果物採取行かなかったんだろ……って言うのは、ダークとサンの間に置かれた果物類が目に留まって理解した。


「あの、今日はサンが朝食用のものを採ってきてくれたので、僕はずっとここに居ただけで……でも、そろそろ陽も登り切ったから、起きた方がいいかと思って、ご主人を起こしたんだけど」


 私の視線を追ったダークはこの現状を説明してくれる。


 ダークは私がどんな答えを求めているか、測りかねているらしい。言い淀みながらも、慎重に私の顔色を伺っている。

 まるで何かいけないことをしてしまった子供が親に弁明しているかのようだ。


 別にダークを責めてる訳じゃないんだけど。不安にさせてしまっているのが申し訳ないな。


 自分の眉間部分を軽く指でマッサージ。


 でも何だろ。どうでもいいと言うにはあまりに長期的なビックリ事実だったな。だからと言って、めちゃめちゃ重要な事柄ってわけでも無い。

 引っ張りたいわけではないんだけど、サラッと流すには微妙に自分の気持ちがつっかえるような感じがしている。自分がどうしたいのか分からん。


 そもそもダークて、ホントにパーソナルスペースが狭いって言うか、すんなり近くにいるって言うか……。そういう系に不慣れな私には心臓が持たない。


 これをどうやって言葉にしていいものか、悩ましい。ちょっと言い方間違えたら誤解されそうなナイーブな問題だわ。


「何か、お前の距離感が近いんじゃないかって。(あるじ)が戸惑ってるみたいだぞ」


 サンの助け船が出された。

 少し茶目っ気のある顔で、コソッとダークに忠告してくれる。


 そう。そうなんだよサン、その通りです。この人、空気読めるなぁ。

 それにやっぱり第三者視点があるのはありがたい。こう考えてるの私だけじゃないよね?的な、仲間を見つけた安心感がわく。


 直で言っちゃうと角が立ちそうだっただけに助かった。


「え。でも、それじゃ頬に触れるのは良いのに、膝を枕にするのはダメってこと?」

「あーまあ、それは……」


 ダークがサンの言葉に納得できなさそうに眉間にシワを寄せる。首を傾けて本当に困惑している。


 それに返す言葉が特に浮かばなくて私は言葉を濁した。


 た、確かに変……なのかもしれない。

 ダークの言うことも正しいかも。事実、ダークの感覚的には同等の扱いだったらしいもんね。


 でもなんか、ちょっと、違うんだよなー。


 カテゴリーというか、触れ合いにも色々ある。友達同士でも頬っぺたグリグリはあり得るし、泣いてる子を慰める時とかも普通に頬っぺたは触れる。


 一方、膝枕はそれなりの男女の仲……恋人とか家族の限定みたいなイメージだからね。


 それに、実際下からのアングルでのダークの笑顔は心臓が口から飛び出る勢いの尊さだった。

 うん、尊かった。ちょっと拝んどこう。心の中で。


 あ、つい思考が脱線してた。

 困ったな、どう言えばいいものか……。


 ここでサンがダークに近づいて、こしょこしょと何かを告げる。


 するとダークは、ビックリした様に長い耳をピンと立てて、徐々に耳を真っ赤にさせた。その後、あわあわと口を動かしてみせるけど何も言えず自分で口元を隠した。

 そしてオレンジの瞳を揺らしながら、目を逸らす。


「……ご、ごめんなさい、そんな……そんな卑猥な行為とは知らず……僕は、なんてことを」

「いや、謝るほどじゃないけど……真っ赤だな」


 小さな声で恥ずかしそうにダークがそんなことを言ってきた。顔も言いながら真っ赤に染まって、身体をもじもじと動かす。


 可愛ええ。


 ……じゃなかった。見惚れてる場合じゃない。


 一応謝るほどじゃないとは反射的に返したけど。ダークがこんな恥ずかしがるって、サンのやつ、一体、何を言ったんだ??

 卑猥な行為って……膝枕が?


 はてなマークを頭の中に浮かべつつ、サンを見遣る。サンはニヤニヤしながらウィンクしてきた。


 いや、何を言ったんだ?


 まあでも、サンのおかげで何か丸く収まった感する。


 膝枕が卑猥な行為認定されたのは惜しい気もする。でもこれで朝っぱらから爆弾級の萌えにあわされずに済むと思うと、良かったと捉えるようにしよう。うん。


 にしても、ダークとサン、仲良いな。


 木陰に2人並ぶ姿を見て思う。

 美少女、美少年でお似合いだ。ダークのがまだまだ歳下だから、ちょっとイケナイ系に見えるけど、いい組み合わせなのかもしれないねぇ。


 ……何故か、チクッと心に何かが刺さった気がした。

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[一言] ずっぺー…あまずっぺー。。。。。。。
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