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ノズ⑥

時系列としてはかなり前になります。

お時間あるようでしたらノズ⑤の読み直しを推奨します。

本編で言うと…土砂降りの時です。

「ねぇ、君は神を信じるかい?」


 ザアザアと降り注ぐ雫に打たれ、天を見上げながら奴はポツリと聞いてきた。視線がこちらを向かずとも、俺に問いかけているのだと分かった。


「…………かみ、だと」

「そう。神。この世界の、神様」


 カラカラに乾いた口内の舌を必死に動かして出た言葉はたった4文字だけだった。

 俺の奮闘などは全く気にとめていないかのように……いや、本当にどうでもいいと思っているのかもしれない。


 息を吸い込む。だが、喉のところで空気が止まっているようで息が継げない。きっと今の俺は陸に揚げられた魚のように口をぱくぱくさせているに違いねぇ。


 眼の前の光景が、それ程に有り得なかった。


「神って、おま、お前が今、やった」

「あれはブルードラゴン。ただの怪物(モンスター)だね。神のように恭しく奉られただけの……な」


 (やつ)は俺の方へようやっと顔を向ける。鮮やかな藍色の雫を被った、晴れやかでにこやかな表情。


 ドドォォオンー!


 それと天空から蒼龍……もといブルードラゴンが堕ちてくるのが重なった。


 巨体の落下した衝撃で地震と激しい風圧が俺達を襲う。


「あーあ。せっかく新調したローブが真っ青になっちゃったなー。ほんとは紅色がよかったんだけど……ブルードラゴンの血は藍色なんだよね。あはは、服だけじゃなくて、全身真っ青」


 まるで他人事のように、カラカラと乾いた笑い声をあげる。


 そして、堕ちてきたドラゴンへなんの迷いも見せずに歩み寄り、その胸に深々と刺さった剣の柄を掴んだ。


「熱に宿る精霊よ、汝の力をもって我の意に応えよ」


 男の詠唱に呼応するかのように手に持つ剣が発光しだす。


 ジュッ


 肉の焦げる不快音と共に目の前にあった蒼龍の遺体が消え去った。


 またか!


 ついさっき、同じように剣の柄を持って詠唱をし、ブラウンウルフの100倍はある巨大な蒼龍の胸にあの剣を突き刺した。

 違うところは初めに詠唱し龍の胸に剣を突き刺した魔法は風魔法であり、今のは火魔法であることくらいか。だが、分かるのは詠唱だけだ。あんな風魔法も火魔法も、俺は知らねぇ、見たことがない。


 警戒しながら深呼吸をした。例によって息を吸えているのか分からねぇ浅い呼吸だが、ようやっと思考がまわり出した。


 稲妻が天をかけながら雨が降り注ぐ中、蒼龍は俺たちの頭上に現れた。


 深い青色の鱗が波打ち、稲光に照らされて視認出来たのはその巨大な図体と2対の脚に付いた鋭い爪、口から覗く白磁のように煌めく無数の牙だった。


 強い雨足が龍の怒りの程を体感し、俺はその威圧感に押され、悟った。


 …………俺たちは、死ぬ。


 俺だけでなく、その場にいた誰もが逃れようのない死を覚悟しただろう。それ程までに格が違う。


 きっとどんな騎士だろうが、魔術師だろうが、これを前にしたならば同じことを言うはずだぜ。


 超えることの出来ない絶望的存在。

 空を飛ぶあの龍に何が効くってんだ。大火を前にいくら素手を突っ込もうが、自身を焦がすだけだ。それ程の差が俺とあの龍にある。


 スキルもレベルも超越した存在を前に、いかに動こうが俺達には同じ未来……つまり、死に辿り着くようにしか思えねぇ。


 でも。


「ポフォ、タダン、フィント!俺が殿だ、今すぐこの場から離脱しろ!」


 剣舞と身体強化のスキルを同時にかけつつ3人に指示を飛ばす。


「あ、兄貴……」

「いいから散れ!」

「あ、あんなの、兄貴だけで殿は無理だ!」


 ポフォとタダンは流石に事態の深刻さを察知して何も言わずに散開したが、フィントが戸惑いを見せた。


 くそ、この瞬間が命取りになるんだ!何故あのブラウンウルフの時に学ばなかった!

 相変わらず頭の足りねぇヤツだ。


 無理なのは百も承知だ!殿どころかヤツが地上に降り立ったなら数秒ももつかどうかさえ怪しいだろう。


 でも、何でだろうな。

 アイツの、あの女の闘う姿が脳裏に浮かぶ。無数のヘルスライムを片っ端から潰していくあの女の背が。


「無理だろうが、なんだろうが、俺が生きてるうちは、お前ぇらを見殺しにゃぁしねぇんだよ」


 俺はビリビリと伝わる蒼龍の威圧を前に、生存本能すら掻き消えちまったらしい。


 フィントを振り返り、口角をあげ、笑ってみせた。


「いいから行け!俺らにゃぁまだやることがあるだろうが!」

「……くっ」


 ようやくそこでフィントが俺の意図を汲んで行動に起こす。


 死は、無だ。

 だが、生があるうちは有だ。


「うぉぉぉお」


 出し惜しみなんかしてる場合じゃぁねぇ。戦闘スキルを全てオンにする。


 ギラァァッ


「ぐっ!これはっ!!」


 蒼龍が天から金具の擦れるような咆哮を発した。


 途端に全身の筋肉が強張り痙攣を起こす。大剣を握る手に力が入らねぇ。


 麻痺か?

 いや、これは……蒼龍のスキルか?!


 空で旋回していた龍がこちらの身動きが止まった瞬間を狙って巨大な翼をたたみ、急降下を始めた。


「ぐっ、この……くそが!」


 どこともなしに悪態を吐く。

 俺には何も出来ねぇってのか!


 あの龍が舞い降り、俺の身体を抉ることが容易に想像出来た。


 あと数秒の命だというのに、浮かぶことは存外何も無いもんだな……迫り来る巨大な鱗の塊を前に、そう、思っていた。


「空に宿る精霊よ、汝の力をもって我に仇なすかの敵を貫け」


 フォォッ、キィン


 男の周囲に風が取り巻いたかと思えば天に構えた煌びやかな細剣を槍投げのように軽く手から放つ。


 そう。軽く放った(・・・・・)


 だが、手から離れた瞬間、剣が消えた。そして高い金属音が頭上で聞こえる。


 直後、土砂降りの雨が藍色へと変わり、先程の男からの問いかけに至った。


 ゆっくりと唇を舐める。カサカサと湿度のない自分の舌がパリパリに乾いた皮を這う。


「神ってぇのは、お前ぇのことか」

「あはは、この世界って、強ければ神って発想なのかい?」


 張り付けたような笑顔をくるりと俺に向けながら、男は剣を鞘に収めた。


「強力であることと神は違う。まあ、それにしたって、この世界の神はひどく幼くて、拙いみたいだね。……同じものを、同じ形で、同じ出来事に当てはめてさ。変わらないことを続けるのに必死らしい。こんな幼稚な器に僕を閉じ込めるなんてさ、ガッカリしてたんだけど」


 男は藍色に濡れた自分の顔をローブの袖で無造作に拭いながら、俺の方へ歩いてくる。


「でも、君たちをここへ向かわせたイレギュラーにはとても興味が沸いてきたよ。どノーマルで狂戦士にすらなれていない君が、悟ったかのように仲間のために行動するなんてさ。まさか君たちが絶対的な力を前にして、あんな友情劇を見せるなんてさ、思ってもいなかった」


 くそ!まだ脚が震えて動かねぇ!


 すぐ目の前に佇む得体の知れない、ふた回りも小柄な男を見下ろしながら、俺は相変わらず身動きも取れず強張りを解除出来ずにいる。


「そう言えば、名乗っていなかったね。僕の名前はショウ」

「?!」

「良ければ君のその任務、お手伝いしてあげるよ」


 そのセリフもそうだが、スっと俺の目の前に差し出されたヤツの右手の意味を理解出来ずにいた。


 俺がぼんやりと右手が握手を意味するのだと把握した時、何故か身体が勝手に動いていた。

 訳の分からない衝動に駆られて奴の手を取った瞬間、男は思い出したかのように「あ、そうそう」と言葉を続けた。


「スフィアさんは、元気かい?」

Congratulations!!

ノズ・レイド、フィント・ゴジュイン、タダン・レ・タタン、ポフォ・バナ は、ショウのパーティに加入されました。

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