適当に魔法を科学する②
さて、検証の結論から言おう。
まず魔力というものは空気の中に溶け込んでいたり、生き物の身体に流れていたりするらしい。精霊っちゅうのはよく分からんが、私は魔力をそんな感じで感知した。
そして、ダークが魔法を使用するのを見つめて、色々調節して貰って、気づいたことは以下の内容だった。
火魔法は、分子振動を助長する働き。イメージとしては、右手から左手へ、左手から右手へボールを自分でパスしていくような。もちろん両手が魔力で、ボールが分子だ。
水魔法は、分子と分子を集める働き。魔力が周囲から意図するもの(主に水蒸気)を集めて接着させる。これについてはもっと検証の必要があるんだけど、ダーク自身が水魔法って認識があるから水が発生しちゃってるに過ぎない可能性がある。
土魔法は、水魔法に近いな。分子と分子を集めることに変わりはないんだけど、ガムの様に魔力が間に割り込んで、伸縮する。要は変形前提の集め方。
風魔法は、水魔法の逆。つまり分子と分子を引き離す働き。急激に広げられた空間を周囲が埋めるために風が出来る様だ。
これもダーク自身が風と認識しているからこんな形なのかもしれない。
で、この魔力の操作の範囲が大きければ大きいほどMPが消費されて、魔力操作スキルの影響を受ける。魔法スキルのLvは恐らくその範囲の拡大だと思っていい感じ。この点は、ダークが学んだ魔法についての知識と合致しているらしいし、そういうものなんだと思う。
「あとは光魔法と闇魔法……か」
闇魔法と光魔法は、難敵な気がするなぁ……他の魔法はだいたい自然科学のノリで予想つきやすいのがあったわけで、言っちゃえば、解説書を読み終わってからゲームしてる様なもんだ。
あ、回復魔法とかあったな……ん?あれってどうなってんだ?
やばい、わけわかんねー。人体の操作だもんな、複雑すぎじゃないか?医学の知識はからっきし、化学反応のオンパレードで、私みたいな一介の人間が検証をする範囲を逸脱している。
それにしても……だ。
「ふぁーぁ、感知ってきっついなー……」
大きな欠伸をして愚痴をこぼした。
感知スキルって想像以上に集中力要るみたいだ。反動でめっちゃ頭がぼーっとする。後半なんか、歩きながらやると目眩がした。
何が片手間だよ、きつかったわ。バカか私は。今日も読みが甘すぎだ。
これ、明日もやる……のか。やれる……のか?
まあ、簡単に言っちゃえば、むちゃくちゃ眠くなる。フラフラとしだしたのに気づいたダークが共有スキルを止めなかったら、十中八九ぶったおれて寝てた。
よく考えたら顕微鏡も使わずに感知で読み取れるって、いよいよスキルってのがいかにやばいか思い知らされる。だから、そのくらいの代償はあって然るべきだよねー。
「いや、ご主人。スキルを数時間も発動しっぱなしって、有り得ないよ」
「んー?」
若干微睡みながらも私の隣から呟かれる言葉に反応する。例によって片腕ごともぎ取らんばかりに抱え込んでいる。それはいいんだけど、少し冷えるのかな、体重を預ける形で側面にぴったり密着してくる。当初の遠慮がちキャラがかなり薄れてるのはいいんだけどさ……ん?いや、やっぱこいつ図太かったな。遠慮がちだったり図太かったり、今までのダークだとどっちも言えるけど、それでも少しは親密度は上がったんだと思いたい。そう信じたい。
「スキルは個人の内にある魔力を利用しているんだ、よ。共有スキル自体は僕の使用だから僕自身の魔力を使うけど、それを利用して発動するのはご主人。だから感知スキルの負担はご主人にあって……感知スキルは特に負担が大きい。そのせいで僕は普段あのスキルをあまり使用してないんだ。使うにしてもかなり限定させているし」
「へー、なるほどね。個人の魔力か。ダークは物知りだなぁ」
コツンとダークの頭に自分の頭を寄せながら、疲れた頭だけど何となくその説明に納得する。
でも、ここまで疲弊しててもスタミナやMPは減ってないんだよなー、不思議なことに。何か別の測定値みたいなんがあるのかなぁ。
てか数時間スキルしっぱなしなの、現段階でも結構ある。ダークにバレたら怒られるんかな。黙ってよう。でもそれらはオンにしてたからと言って、別段影響を感じていない。
「ところでダーク、今日の分は?」
「今日はご主人が先にする番だよ、ね」
「ん?昨日はダークが先だったっけ?」
「はい」
私達は何の話をしているかというと。
チョウが去った次の日、つまり今から3日前から始めた取り決めである。
まず、前提として私達はお互いのことを何も知らずにここに居るんだよね。それは仕方ないんだけど、仮にも一時的であっても保護者になるんだとしたら、私は彼のことをある程度知る必要がある。
そして、願わくばダークが安心して過ごせる環境を整えて元の世界に帰りたい。
また、ダークもダークで私への信頼を図るネタにして欲しい。信頼されるって言うのは私の状況的に多分無理(私ら形の上であれ奴隷と主人の関係だし、名前奪ってるし、連行しているし……挙げだしたらキリがないマイナスの数々)なので、せめて一緒に居る間だけでも安心して貰えるような、そんな関係でありたい。
その第一歩として提案したのが、毎晩お互いに1回、相手の気になることを質問する、というもの。
もちろん、答えることは強制ではないから、黙秘も大丈夫だ。最悪誤魔化したかったら嘘でもいいよ、とも伝えている。
や、私は嘘つかないって決めたから言わないんだけどね?
「んー、……何がいいかなぁ」
昨日、一昨日と私が聞いたのは、「今日の飯は美味しかったか」と「ダークの使いやすい魔法はどれなのか」だ。
まずは答えやすい、身の回りの事から……と思ったのだけどダークは肩透かしを食らったようにきょとんした顔をしたもんだ。
鼻血出そうだった、ガチで可愛すぎて。眉間のシワないとこんなに天使なんだと改めて確信を深める。
で、ダークはダークで、「自分の膝の上で誰かが座り込むのは嫌?」とか「自分の肌が誰かと触れるのって嫌?」など。この状況下で誰かって、お前しかいねーだろ!ってツッコミ入れたくなるような、可愛らしいフレーズを聞いてくる。
私はその都度、「誰でも良いなんて思ってないけど、ダークがそうしてくるならいつだって、嫌なわけないよね」って答える。
また、その言葉を聞いたダークの口がくの字になるのが可愛くて、悶絶級だったことは私の中に閉じ込めておきたい事案の1つである。
いやー、幸せって、こういう感じかな。心の鼻血大量出血でいつか失神する気がしてきたけど。
などというくだらないことを考えながら、
「じゃ、ダークが私にして欲しいことって、何?」
「え……ご主人に、して欲しいこと?」
ぱっと顔を上げたダークは探るように私の目を見つめてくる。
大雑把だし、答えにくいかな?でも、どんな風にも返事できるし、いいと思ったんだけど。
因みにこの質問は、初日のはい、いいえで答えられること、2日目の選択で答えられることで彼自身の緊張をほぐした後の、もともと考えていた質問だったりする。
ダークの答え方次第で、今後どの程度聴けるのか、どんな質問なら返そうという反応を見せるのか、探ってみようと思った次第だ。
「…………」
「…………」
見つめあいながらフリーズしたダークを辛抱強く待つ。
さて、どんな要望を言ってくるかな?
「…………その、えっと。何でも、いい、の?」
「ん?うん、いいよー」
ニカッと笑ってみせる。相手が安心して言えるように。
でも、何故か裏目に出たらしい。ダークは一瞬でひどく戸惑う表情になった。そして目をそらす。
なんでだよ!私、そんなに変な笑い方したか?
「ご主人が、変わらないでいて欲しい」
私が内心で盛大にツッコミを入れる中、ダークは細い小さな声でそう言った。
「…………そっか」
ダークが私の腕を一層ぎゅっと抱え込む。明らかに他に言いたいことがあったのを押し込んだ気がする。ただ、まあ、そう言われたなら言われたことに返さないとだな。
「そりゃ、無理難題な要求だね」
「へ?」
「人ってのは変わる部分の方が多いからさ。変化しないことはその時点で自分を自分じゃなくさせるっしょ」
「…………」
「でも、変えたくないって思うことはたくさんあるよね。ダークは私にどの部分を変えて欲しく無いんかな……って、あ。これって質問2回目になるのか」
しまったなー、言い出しっぺがルール無視は良くない。
私が反省してる間にダークは私の膝の上に座ってきた。
いや、うん。
ダークには、いつでもいいよって言ったんだけどさ。このタイミングかよ。何度も言うけど恥ずかしくないのか、その歳で。
月明かりが妙に眩しく、十数センチの距離にあるダークの白い顔を照らす。一方で橙の瞳は濃く、深く、暗澹としたものを宿す。
この瞳の意味するものが何なのか、無性にそのことへと思考が囚われている間に、形のいい薄い唇がゆっくりと動きだす。
「あなたが、僕の前に現れたのは何千、何億の中で今しかない。あなたが世界の突然変異なら、僕はこの時この瞬間に全てを託してしまいかねない。例え、あなたが、それを望まなくとも」
突然変異って、おい。まあ一応勇者だし?言い様によっちゃぁそうなるわな。
にしても、眠気で頭がぼんやりしてるからか、彼の言葉の意図が読めない。
さっきの私にして欲しいことについての回答が継続中ってことなのかな。要は私にワガママ言っちゃうけど許してねってこと?
ワガママくらい、言ってなんぼでしょ。なんたって、私の十八番です。それを相手がしてきたとしても、さして私は筋が通っているなら嫌がったりしない。
私がなんて返そうかと口を噤んでいると、ダークは瞳に一筋の強い光を宿し、両手で私の頬を包んだ。頬というか顔を包まれてる感じ。何だかんだ男の子だ、掌がでかい。
正面から見つめられ、顔を固定される。
こんなシチュエーションはなかなか免疫がないせいか、緊張して固まる。
ゆっくりと息のかかる距離までダークの顔が近づいてくる。瞳の熱が私に伝播してくる。
「次は僕の番だね。ご主人が一番欲しいものは、何?」
静かな声音に冷ややかなナイフが研がれる様を、蜂蜜を降り注ぐような瞳の奥に隠された狂気を見た。私は、ひどい喉の渇きを覚えた。
甘い響きに潜む真意はまるでその質問の答えを叶えるのだから対価をよこせと、そう訴えるかのようだ。
その瞳に、その声音に晒されてやっと、目の前の少年が世界の闇の一部なのだと気づいた。
お付き合いありがとうございます。
これでやっとノズ編が書けます。え、要らない?
次から諸々の線回収に明け暮れるのでまた筆が遅くなります、多分。すみません。




