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適当に言ったけど無詠唱を獲得してくれたらしい

 さて。

 色々あったが結局は二人きりになってしまいました。それはそれで、別にこれと言って特筆すべきことは無い。寧ろ見た目ガキ同士のギスギスに挟まれる状態から解き放たれて、いっそ清々しいと言えよう。


 だからと言って、快晴の続く空の下黙々と大した目標も無く歩き続けるのもダルいので、何か暇つぶしはないものかと考えてみたのです。だって恐らく数日は歩く必要があるわけだしね。馬欲しいわー。


 で、この世界ならではであり、なおかつ私のよく分かってないことを片手間に検証してみようと思う。


 そう。魔法だ。


 軽い調子で発想してみたが、いざ考え出すと魔法について、色々気になることがある。


 いや、スキルも確かに気になるんだけどさ、あれはもはや片手間に検証するのは難しい気がするしね。私の場合スキルの大半が物理攻撃系だし……って、そろそろ私筋肉バカ脱却したいなー、無理?


 おっと、いかんいかん、思考が逸れた。魔法だな。私が魔法で一番気になること……


「ねぇダーク、魔法の詠唱って要らなくない?」

「え……は?」


 私は率直に手を繋いで隣を歩くダークに聞いたのだけど、不意をつかれたように視線を私へ向けて、ちょっと間を置いた。


 そこまでは分かる。それまで普通にお互い歩いてるだけだったし、唐突に聞いたからね。

 でもダークは数秒後、あからさまにドン引きの顔をしてきた。


 正確に言うなら、ちょっとそこまで馬鹿な人とは思わなかったわー、何言ってんのこいつ、ドン引きだわーって顔をしている。


 いやいや、そこまで引かなくてもいいじゃん!息の仕方聞いてる訳でもないんだしさ!む、もしかしてそれくらいの常識的な内容だったか?


「あ、えっと、ちょっと要らないんじゃないかなーて思っただけだし?何か詠唱に理由あるのかなーってさぁ?」


 そもそも、ユウキの詠唱とダークのとは微妙にセリフが違う。そのへん緩いなら正味言わなくてよくねー?ってのが私の言い分である。


「はぁ。そんなことも理解出来てないならご主人は一生魔法使えないで終わりそうだ、よね」


 と、ダークは小さくため息をついて呆れたように辛辣な言葉を吐いた。


 え、そこまで言う?!グサッときたよ?一生って一生って意味だよね?一生使えないかどうかとか、分からないじゃん?!


「え、てか魔法って魔力を感知出来たら使えるんだよね?理解とかいるの?!」

「確かに理論上はそうで…そうだけど、そもそも魔力を感知出来て、魔法に変える時点で最低限理解しておくべき内容なはずだから」


 そう言いつつダークは難しい顔しながら説明を続けてくれた。


 私なりに聞いたことをまとめるとこうだ。


 この世界には精霊的なやつが魔力という形となってぽわぽわ埋め尽くされているらしく、魔法を使う際にはそいつから力を借りるらしい。

 で、そいつを使役するのに必要なのが詠唱であり、正確にイメージをその言葉に乗せて初めて魔法が実現するんだと。


 それを聞いてまず私はホントかよ、と胡散臭い気持ちになった。

 まあ、私自身、非科学的なことに拒否反応があることによる所が大きい訳だが。流石に胡散臭過ぎるだろ……とは思ってみても、そもそも魔力感じ取れねーものなぁ。


 特に隠す必要も無いので表情にも出していた。それを見て説明を終えたダークは困ったように口を噤む。例の、眉間にシワをちょっと寄せた難しい顔である。


「……賢者の称号を得られるような魔法使いの伝説もあるけど、詠唱無しなんて今まで僕は見たことも聞いたこともない、よ」

「ふぅ~ん」

「ご主人はどこが納得いかないの?」


 何だろうな……うーん。


「そもそもさ、精霊?てやつに魔法のイメージが伝わってるんなら声にする必要が何なのかが分からないじゃん」

「それは……」


 ダークは言い返そうと色々模索しているようだけれど、上手く表す言葉を探して目を逸らした。


「いや、まあ、私は魔力も精霊も感じ取れてないし?ダーク曰く一生取得出来ないらしいから?言わせてもらってるんだけどね?」

「ご主人、さっき僕が言ったの根に持ってるんだね」

「ん?全然根に持ってな……いや根に持ってるけどね。それは置いといて、まずは声の大きさ調節からかな。私は出来ないからダークにやって欲しいんだよね」

「声の大きさ?」

「うん、まずは普通に魔法で……あの木をスパッと切ってみて?」


 進行方向にある障害物の木を指さした。どうせなら邪魔な木を切って一石二鳥がいいからね。


『空を舞う我が盟友よ。汝の力をもって我が主の御心を叶えよ』


 ダークが詠唱を終えるとぶわっと風が巻き起こり、目の前の木がすっぱりと切れた。


「お見事!じゃ、今度は小さい声で言ってみて」

「…………」


 ダークはここで話の趣旨を理解したようで、今度は私を胡散臭いものを見る目で見つめてきた。さっきと逆の立場になったけど、この態度、やられるとイラッとくるね。


 いいからやれよ。

 私が顎をしゃくって見せたら渋々とした顔で先ほどと同じ詠唱を小さい声で呟いた。


 スパッ


 小さくとも詠唱は詠唱の様だ。詠唱が終わると同時に先ほど切った木の先にある木が切れた。


「じゃ次はこしょこしょと言ってみて」

「…………はぁ」


 お手本代わりに私は声でなく息だけで言葉を発した。それを見てダークは小さくため息を吐く。


 やるだけタダだしやったらいいじゃん。どうせMP沢山あるわけだしさ?

 しかもスキルの急速回復が発動してる様で先ほどの魔法2発などなかったかのように既に満タンである。羨ましいぞ!


 因みに先の魔法2発のMP消費量はいずれも10である。MP10でそこそこ太い木を切り倒せるってよくよく考えるとやばいな。

 まあいいや。


 私のいいつけ通り、若干呆れた顔をしつつもダークがこしょこしょと詠唱を唱えた。


 ごおおぉ!スパッ


 先にやった2発の必要最低限とも言える風量の倍程の風が巻き起こって木を切った。狙いの木以外の木が3本ほど巻き添えをくらって半壊したり致命傷を負った。

 MP消費は30だった。


 ふむ。なるほどな。目に見えて制御がおぼつかなかったもんね、MP効率が落ちた様だ。


「よし、じゃ次……」

「詠唱無しじゃ出来ないって言ったよね」


 私が言い終わる前にダークは不機嫌そうに眉間に皺を寄せて遮ってきた。


「次は口閉じて、口の中で声を発してみて。いいからさ、やってみてよ、ね?」

「…………」


 私が譲りそうにないのを感じ取ったのか、ダークは嫌そうな顔で渋々口を閉じて詠唱を唱えてくれた。


 声の制限は言わなかったので、モゴモゴと言葉が不明瞭に発される。


 ふわっ


 今度はそよ風が発生した。木に届く前に霧散する。MP消費は1だった。


「…………なるほどなぁ。結構厳しいかなー」


 その様子を見て、私は何となく無詠唱が無理なのだと悟りかける。


 要は空中に発される振動に何か発動の鍵が有るのだろう。それが妨げられると、魔法は充分に形をなさないらしい。


「ダークありがとね。そんでもって、納得せずに食い下がってごめんよ。やっぱり、詠唱要るみたいだね」

「…………」

「ん?ダーク?」


 私が呼びかけて、やっとダークは我に帰ったようにはっとして私を見た。戸惑っているような、先程の自信たっぷりな顔とは対照的な表情である。


「どした?」

「……いえ。ちょっと気になることが出来たので考え事をしてま…いや、考え事をしてたんだ、よ」

「ふーん、そっか」


 何が気になるのかとか、聞いたら答えてくれるのかな。でも、聞かれて余計にこんがらがることも有るだろうし、ここは別に食い下がるポイントではない気がした。


 それから2日後、ダークは無詠唱で魔法を発動させてみせた。


 ダーク曰く、誰もが気づきそうで、気づけないでいた魔法の歴史を変える瞬間だったらしい。


「こしょこしょ詠唱では倍の発動があったにも関わらず、声の通った口を閉じた詠唱では発動自体が弱体化されていたこと。これは主に僕自身での言語化不備が大きな要因と考えられます。ただ、一番注目すべき点はどちらも発動される要素が違うことで……」


 ダークはここで苦しそうに咳き込んだ。きっと唾が肺にいったな。そんな勢い込んで目を輝かせて喋らずとも……と私はちょっと引いている。なんてったって、この無詠唱のお披露目されたのが寝起きである。


 叩き起されると同時に目の前の木が吹っ飛ばされてごらんなさい。

 まずは目を閉じてそのまま寝ようと思うだろう。


 もちろん、魔法感知の()の字も知らない私にはイマイチ無詠唱の凄さも、魔法の歴史も知らないので何が歴史的に凄いのか掴めてないんだが。


 まぁいいや。無詠唱の方が魔法の発動時間短縮になるだろうしね。出来るに越したことはない。


「うん、流石ダークだね!よくやった!あんなちょっとのきっかけで無詠唱出来るなんて凄いなー!」


 よく分からんがとりあえず、ダークの肩に腕を回して思いっきり抱き寄せ、力いっぱい褒めた。


 ダークは長い耳を上下に小さく揺らしながら頬を染める。見た目相応の子供らしい可愛げのある顔だ。


 多少大げさにした部分はあるけど、本心だし、これで次のステップに簡単に進みやすいだろう。

 無詠唱は私の片手間に試したいことのとっかかりであって、最終地点ではない。


 未知のことを検証する好奇心が、研究室での日々を彷彿とさせる。寝起きであるにも関わらず、久々に私の心を踊らせる1日が始まった。


 私が知りたいこと、それはこの世界の魔法と日本で学んだ科学知識の関係である。 

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