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ちょっと、おま、え?奴隷…?

お待たせしてすみません。

 あーあー、朝かー。


 瞼を容赦なく貫通してくる光に悪態の一つでもつきたくなる。


 朝ってさ、もうちょっと遅くても良くない?早いんだよなーマジでー。太陽さんや、焦らなくていいんだよ。ゆっくり出ておいで。


 そんなどうにもならないことをのんびりと考えながら寝返りをうった。


 むむ?昨日座った状態で寝てた気がするけど、今何故か横になってる……まあいっか。


 ぼんやりと働かない頭で二度寝を決め込もうとしていると、足音が近づいてくる。そして私の傍までくると座る気配。


 寝返りを売った時に脱げてしまった毛布が再度かけられる。そしてそのまま私の腕枕にした左手の指先に、そっと触れてきた。


「ご主人、まだ起きない……?」


 多分覗き込んでるんだろう、陽の光が遮られて瞼越しでも暗くなった。そのままステイしてくれると寝やすいなー、なんて。


「ん……もうちょい寝る」


 訊ねられてるのに無視するのはちょっと忍びないので、むにゃむにゃした口調で返しておく。


「……ひょっとして、今までも起きてるのに寝てるふりしてた、の?」

「…………」


 おっと?

 今までっていうのは……あの息が上がるくらい扇がれた時とかの事を指してるのかな?まあ実際起きてましたけども。だってあの時はもっと寝たかったんだよ?!と言っても悪いのは100%私だけどさ。


 こ、これは答えない方向でいこう。

 だって、そうだって答えたら怒りそうだし、違うって答えても現行犯だから説得力ないし。


 いかにも眠りに沈みました感を出しながらスースー寝息を立ててみる。


 数秒の間をおいてダークから小さなため息が聞こえてきた。


 私はといえば、ため息に内心ビクビクしてたりする。

 だ、大丈夫だよね、怒ってないよね?目が覚めたらまた不機嫌くんとかやめてよ?


「一瞬で寝ちゃうんだ?……ふーん」


 呟かれた内容から判断するに怒ってなかったぽい。

 感心した感じというか、どっちかと言うと呆れに近いかも知れない。


 てか、こんなガキに呆れられるのも大人としてどうかとは思いますけどねぇ。はい。


 で、ダークはそう呟いた後、私の目のところに布をかけて離れていった。


 グッジョブ!ダーク!


 おかげで数段二度寝しやすくなったのでそのまま私は再度眠り込んだ。


「はい。ご主人、口開けて?」


 しばらく経って徐ろにそう投げかけられた。心做しかダークの声はワントーン程低めで、一種の暗示に近い深みがあった。


 実際私は二度寝の最中で微睡んでたから、咄嗟に判断出来ず言われるままに口を開ける。


 口の中に入れられたのはブドウみたいな大きさの粒だった。


 口に入れてくるってことは、食べられるんだよね?

 という事で、恐る恐る咀嚼する。


「お!!美味しーい(おいふぃい)!」


 何だこれー!めっちゃ甘いよー!

 ブドウみたいなというか、まんまブドウの味だった。そんでもって甘い!!


「……ご主人って、味覚耐性のスキル持ってる?発動中なら解除した方がいいと思う、よ」

「ん?何で?」


 私は目を閉じたまま美味しいブドウみたいな実を堪能しながら聞いた。


「味覚耐性は強い味を弱めるから、甘いのも薄くなるんだ、よ」


 なるほど。そうだったのか。

 私は目を瞑ったまま早速味覚耐性をOFFにして再度ダークによって口に宛てがわれた実をもぐもぐと食べた。


「うんまー!」


 甘いけど砂糖を舐めるみたいなクドイ甘さじゃなくて、もっとまろやか。そんでもって口の奥から鼻に抜けてくる香りも一層爽やかで……これはクセになる。


 味覚耐性め、この美味さを隠していたのか!

 確かに耐性スキルを解除する方が味覚の細かな感覚が復活するらしい。さっきまで大雑把に甘いとしか感じられなかったもんな。薬草の時とかには気づかなかったよ。あれはある意味刺激物過ぎて効果が現れにくかったのかな。


「美味しい?」

「うん、美味しー」

「ふーん……もっといる?」

「いる!」

「はい」


 ダーク君は甲斐甲斐しく寝っ転がる私の口元にブドウみたいな実を与え続けてくれる。


 調子に乗ってきた私は口の中が空になると、口をあーんと開けるようになった。だって、そうしたらやってくれるんだもん。


 マジ楽だわー、こういうお世話される感じ。今の私がいかにダメ人間であるかは自覚してるけどさぁ。ダークが積極的に口に入れてくれるんだから、それを無碍にするのも良くないよねー。


 ……また怠惰系統の不名誉称号が付与されそうだな。

 まあ、呪いは効かないんだし、あんまり気にしないけどねー。


「……あれ……?」


 と、そろそろ口に放り込まれるブドウみたいな実も10個目にかかろうかという時、ダークが囁くような独り言を呟いた。何かがおかしいぞとでも言いたげな雰囲気だ。


 え、なに?何かおかしな事でもあったっけ?


 相変わらず寝たままの状態でそんな風に呑気に考えながら、次に口へ入れられた実を噛み締めた。瞬間。


「んぐぅふぁぁ!!」


 飛び起きた。

 口の中が爆発したかのような苦味と辛味が入り交じったカオス状態になったからである。


 ハバネロをハバネロで練ったハバネロみたいな……いや、それ以上だわ。苦味もあるし!えぐみというか……いやとにかく、辛いっ!!つうか、痛い。


 口の中に縫い針を大量に入れられてシェイクされてる様な!!いやそんなことされた事ないけどさ、マジでそんな風に口の中含め唇の周りもヒリつく。


「み、(みじゅ)……!!」


 とにかく暴走する口内の実やその果汁を吐き出した。そしてヒリつく唇を横に開いてヒーヒー息を吸っては吐きを繰り返しながらカバンを探る。


 と。

 辛すぎて生理現象的に潤んだ視界の端に、こちらに半分背を向けて肩を震わせている姿が移りこんだ。


「……ダーク君(だぁぐぐん)私に(わだじに)何したのかな(にゃにじだのがな)?」

「………何も、してませ……いや、してな……ぶふっ」


 ダークは受け答えしながら私の方を見て、衝動を堪えられなかったのか盛大に吹き出した。イタズラっ気の強い笑い顔だ。


 その様子で何となく予想がついた。


 このガキ。

 私がこうなるのを見越してたな。


「…………これ」


 私がそろそろ大人を舐めんなよと怒り出そうかというところで、ダークは肩を震わせて口元を片手で抑えながら木の実の束を渡してくる。


 群青色のいかにもブドウっぽい何かだ。膝を立てて座っているダークの足元にもいくつか転がっているし、状況からみてさっきまで食べていた物だと分かる。


 とりあえず鑑定。


 《タブの実:古代の魔物が好んで食したと言われる実。蒸溜するとグぺ酒となる。同じ見た目でも辛味成分が7割、甘味成分が3割で構成され、前者はスタミナが、後者はMPがほんの少し回復することもある》


 ほほーぅ。

 随分と面白い実を食べさせてくれるじゃあありませんか。見事イタズラが大成功したようですねぇ。


 あ、もしかして味覚耐性スキルを解除させたのもこれをよりクリティカルに成功させるためか?


 くそ!舐めやがってっ!


「あ、甘い方を食べたら、ぶっ……治る、から」


 このガキ、どうやら私が飛び起きる様がよっぽどツボだったらしい。説明の傍ら未だに笑いの波が押し寄せている。


 ムカつきながらも、とにかく口の中の暴動を治めるのが先決なので、ブドウの束から一粒もぎ取って口に入れて思いっきり噛んだ。


「っ!!ぐぁぁあ!辛い(がらい)!」

「ぶっ、あはははは」


 結果。悪化した。


 口から火を噴く勢いで、暴動を激化させた主犯人を吐き出した。

 もう、あれだよ。降伏間際にダメ押しで打ち込まれたミサイル級の威力だよ。私の戦闘力は今ゼロよ、これ以上痛めつけないで?


 そしてダークは遂に堪えられなくなったらしい。いっそ潔く笑い出した。


どういうことかな(どぉいうごどがな)?」

「ご主人なかなか辛いのに当たらなかったから……」


 運がいいのか悪いのか、甘い方の実ばかりが当たってたからただでさえ低い割合の甘いやつが減ってて辛いのの割合が上がってるってことか。最悪じゃねぇか!


「とりあえず、甘いのが当たるまで食べ進める方がいい、よ?」

「……むり」


 もはや数年ぶりの涙目(上目遣い)で10歳くらい年下のガキに訴えた。


 これ以上私の口を焼け野原にしないでおくれ……つか、こんなに辛くて、もはや痛いくせにHP微動だにしてねぇよ、なんなのこの世界。おかしいだろ!


 そんな私を見てダークが困ったように笑って肩をすくめる。


「しょうがないなぁ……」


 しょうがないなぁ、じゃねぇよ!お前がしでかしてくれたんだからな!


 普段の口ならそう言っていただろうけど、今は心の中で毒づくしかできない。ちょっとでもヒーヒーとする呼吸を止めればまた火を噴くような熱というか辛味が込み上げるに違いない。

 くそ、覚えてろよ!


「?!」


 突如として口の中に安寧がもたらされた。


 ほんとに、一瞬でデリートされた。どうやらダークが共有スキルで耐性スキルを発動してくれたらしい。お口の中スッキリで名高いモンダ〇ンが霞むレベルだ。いや、比べる対象はおかしいだろうけどさ。


 そしてダークはタブの実を小さく齧っては吐き出すのを繰り返し始めた。恐らく辛い方が当たったようで、唇が紅く色づくと同時に渋い顔をする。それを5~6個ほど繰り返したところで目的の甘い実(もの)がようやく見つかったらしい。


 ダークがその実を齧った瞬間、見た目にヒリヒリして腫れかけていたダークの唇の色がすぅっと引いていくのが分かった。


 ほんとこの世界、科学とかじゃ説明つかなそうだな。


「はい、ご主人」


 私は一時的とは言え平穏を手に入れていたこともあり、ぼんやりとしていせいか、もはや脊髄反射的に餌付けされた雛のようにパクリとダークの手から食べた。


 やっぱ、流石にちょっと恥ずかしくなってきた。

 何で子供にあーんされてんだよ。目を開けてこれやると自分のしてる事が改めて認識させられた。気をつけよう……。


 ん?てか、これ間接キスじゃ……。


 とか考えていた思考が口に入れた実をひと噛みして、止まる。


「…………」


 無味だ。


 全く味のしないその何かを咀嚼して飲み込む。


 それを確認したダークがスキルを解除したみたいだ。タブの実の後味がまさにスイッチをオンにした時みたいに唐突に感じられる。


 何とも言えない耐性スキルの威力に複雑な気持ちでいると、ダークが手を繋いできた。


 そうだった、このガキにお説教をしなければ!


「おい、ダー……」

「ご主人が寝たふりするから、イタズラしたけど、ご主人怒るの?」

「…………はぁ」


 正しくイタズラっ子を絵に描いたらこの顔だな。

 憎めない口元の笑みに、怒るために開けた口が自然ととざれてしまう。


 笑った顔が可愛いから笑って欲しいってのはそうだけどさ、こんなに憎たらしい笑顔を見せろとは思ってないよ?


「…………ごめん、寝たフリはしない。でも大抵は起きててもまだ寝たい欲があるから、そっとして欲しいかな……なんて」


 ダークは私の返しが予想外だったみたいだ。オレンジの目をパチパチと瞬きさせて、ポカンとしている。


 2,3秒くらいその様子だったけど、長い耳が小さく上下に揺れる。


「えっと、僕もごめんなさい。あんなに……ぶっ、あん、なに……くくっ」


 おい。思い出し笑いするな。


 私が冷たい視線を注いでいるのに気づいたらしい。ダークは慌ててグッと眉間にシワを寄せて笑いの衝動に打ち勝ってみせた。そして深呼吸。


「ご主人があんなに辛いのが苦手とは思わなかったから……ちょっとイタズラの度が過ぎてた……と、おも、う」


 最後の方は再度ひくつき出した横隔膜あたりのせいで不自然に区切られている。それでも一応はそれらしく長い耳を垂らして反省の表情を見せている。

 口をギュッと真一文字にしてるのは笑い出さないように力を入れてるんだろうね。


 まあ、及第点かな。

 つかそんなに面白かったのかよ。逆に見てみたかったわ。


「はぁー、よくまあ生意気に育ったもんだわ」


 私も大概ヤンチャしてたし強くは言わんけどな。今後街とかで他人に迷惑かける感じには育って欲しくないな。


「私はある程度なら赦すけどさ、他の人にはしちゃダメだよ?」

「他の人?」

「そうそ、街に出た時とか、イタズラしちゃダメだからね」

「何でそんなことする必要があるの」

「まあ、ないね……」


 ダークの顔がいきなり真剣になる。

 何言ってんの、そんなことする訳ないだろと嫌悪してるような雰囲気ですらある。


 いや真剣に返されてもこっちが困るわ。一応って意味で言っただけだし!じゃ何で私にはイタズラする必要があんのさ。あ、私が悪いからか、サーセン。


「ご主人にしか、しないよ」

「……さいですか」


 ニコッと笑いながら返してきた少年のあまりに爽やかな感じが、よく晴れたこの森によくマッチしている。言ってる内容真っ黒だけどな。


 出来ればイタズラとかすんなと言いたい所だけどね、ある意味活き活きしてるガキに水を差すのも気が引ける。それが、今まで割と静かで良い子として過ごしてきた子なら尚更だし。


 それに、イタズラって愛情の現れだとか聴いたことある。懐かれるのも悪い気はしないからね。辛いのはもうゴメンだけどな。


 そんなこんなで目が冴えちゃったこともあり、その場を去ろうとした時。


「ぐげぇ!」

「でたな、変な鳥!」


 どこだ、何処にいる!今日こそはその姿を見つけてやろうじゃあないか!


「『宙に飛び交う我が盟友よ、汝の恵みをもって我が主の煩慮を招く屑を叩き落とせ』ストーム」


 ドォォオッ


 ダークの詠唱の後、周囲に風の渦が生まれてあたりの木の葉や枯れ枝が(すべか)らく舞い上がった。竜巻というか……いや、竜巻だな。ちょっとミニ版で威力は抑え気味だけど。


「えー……」


 ちょっと、やり過ぎじゃね?

 それに、詠唱もちょっと怖いよ?そんな煩慮って程じゃないからね?見れたら見たいなー程度の……。


 ドサッ


 そうこう考えてるうちに、上空から何か大きめのものが降ってきた。


 大きめの鳥みたいな。赤黒い羽で覆われた塊だな。その鳥の羽だろうものが周囲に巻き散らかっている。


「もしかして……死んだ?」


 何だろ、この私じゃないけど連帯的に抱く罪悪感。


 もう、ダークやり過ぎー。


 とりあえず様子を見ようと近づきかけた時、ダークが私の手を引っ張って阻まれた。


「……ダメ」


 ダークが何処か怯えた様な、警戒心の強い表情で制止の声をかけてくる。


 え、もしかして危ない魔物だったりする?


 そう思って改めて先ほどの羽の塊を見直す。


「え?!」


 一瞬何が起こったか理解が追いつかなかった。


 羽の塊はどこにも無くなっていて、代わりに、7歳前後の少女が倒れていた。


 髪の色は赤黒い先ほどの羽と酷似しているけど、その他の白いワンピースの裾から見える華奢な足や腕は真っ白の普通の人間の様な姿だ。


 そして腕のところに小さくぶつけた後のような痣が浮かんでいる。


「痛い……みたい」


 鈴を転がすような高い子供の声が聞こえた。でも、ただの声というよりは、少しダブって聞こえる。2人くらいの少女が同時に話してるような。耳に違和感を覚える声だ。


 そして、ゆっくりと目の前の少女、というか幼女?が身を起こす。肩くらいまで延びた長めの赤黒い髪が彼女の身体にまとわりついて、その小さな顔を半分くらい隠している。


 だからーー


「こんな事してくるなんて、酷い、みたい」


 だから髪の間から覗いた一対の紅の瞳が異様に印象的だった。

先週は早速日刊の心が折れてました。申し訳ないです。

週2更新は出来たらいいな…て感じです。どうか気長にお付き合い頂けると助かります。

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