認知
チラチラと焚き火の明かりが摂動するのをぼんやーりと眺めることかれこれ数十分。いや1時間は経つかもしれん。まあそんくらいの時間だよ。
けど、ぼんやりしてるのは見た目だけで、頭の中はけたたましく回転してますがね。
いや、ちょっと盛った。
そんな計算機チックな頭はしていないので牛歩並に現実を踏まえてこの先の事を思いやっている程度ね。
うん。
まあ、うん。
なんつーか、うん。
簡単に一言で表すなら「やべぇ」だわ。
何がやべぇかというと4つある。
1つ、右腕無しで勇者やれるのかって話。
まあ称号上勇者じゃなくてもさ、魔王倒さなきゃじゃん?そうしないと帰れないし?てか壮太助けなきゃじゃん?片腕で。これまで死にかけてまで戦ってきた大抵の魔物が初級あたりの位置づけだとすると、両腕でも厳しい感じするんですけど。
なんたってね、魔の王ですよ?
そんで2つ目、聖剣てどうなってんの?て話。
会話の流れ的には、ノズ達が持ってるor隠してる、もしくは最低でも何らかの形で関与しているのは分かってるんだけど。聖剣無いと困るくない?王都戻れないよ?
正直なところ今更王都に戻って何するのか分からなくなってきたけどさ。
まあこれに加えて3つ目、私また武器無所持人間に成り下がってる話ね。
棍棒は砕いちゃったし、ダガーはあの濁流の中に消えてったし(今更だけど川の中で刺さらなくて良かったな)で、片腕のせいで本来の(と言っていいのか分かんないけど)攻撃手段である拳でタコ殴りも単純計算で半減してるからな。
てな感じで以上の3つは私にとっちゃ死活問題な訳さ。
正直気は進まないんだけどね、本腰入れてレベリングした方がいい気がするんだよねー。レベリングあんま好きじゃないんだけどなー。やだなー。
ま、このよく分からん果ての森?てのを抜けるか、もしくは果ての森で2週間から3週間ほどレベリングする必要があるかもしれないって感じ。
といった風に何だかんだ解決できそうな見込みがあるか希望的観測が立てられる時点で、この3つのやべぇ感は薄いかもしれないね。
で、最後の4つ目はね、うん。
これが一番やべぇの。まあ悪い意味と良い意味半々の割合のやべぇだわ。
ちょいちょいチラ見してたんだけどね。見れば見るほどヤバイんだよね。
それは言うまでもなく、この左手にしがみつく少年のステータスのことなんだけど……。
あ、見る?しゃーなしやで?
はい、ふざけましたごめんなさい。
勝手に自作自演しながら改めてダークのステータスに目を通す。
名前:ダーク
種族:(ダーク)エルフ
LV:44
称号:森の住人
加護:大森林の加護、最上級隷属の加護、煉獄の加護
ユニークスキル:魔力操作LV5、感知LV5、森の知識LV8、風格LV5、HP急速回復LV2、MP急速回復LV2、拒絶LVmax、憤怒LVmax
スキル:火魔法LV4、風魔法LV4、水魔法LV2、土魔法LV2、光魔法LV2、闇魔法LV3、弓撃LV5、堅牢LV2、連撃LV5、一閃LV5、忍足LV2、共有LV2、耐性LVmax、不屈LVmax
HP:10115/10115
スタミナ:2192/2192
MP:27058/27058
物理攻撃力:21444
物理防御力:14999
魔法攻撃力:33012
魔法防御力:24993
回避力:1123
テクニカルポイント:0
※呪い無効中
まず、思うこと。
こいつステータス高くね?ほんとにこの子何者だよ?
これじゃあスタミナ以外オール負けの私とか目も当てられない。魔法関係に関して言うなら私のステってゴミじゃね?
形だけのつもりとは言え、主人の立場よ。
つかこれひょっとして、私がお守りするよりされる側なんじゃね?もはや私が彼の呪い解除器としてアクセサリー化するぞ。
あとは煉獄の加護とか物々しいし、スキルの『耐性LVmax』で闇を感じるのは私だけでしょうか?
といった感じで、まあ色々思うところはあるんだけど、ダークの覚えてるスキルでね、『HP急速回復LV2』ってあるんだよ。これ、さっき『共有LV2』によって私に行使してくれたんだよね。
結果。
3分でフル充電されました。
私のHPカップ麺かよ!
そんなチート出来るんならもっと早くしてよー。
あ、自然回復で1/25になるのを待ってくれてたんだわ。
でもあの数時間分の痛みが一瞬で消せたのなら正直片腕どうでもいいから早くして欲しかった。どっちみちダメだった訳だし……なんて言っちゃダメなんだろうけどさー。いや、実際右腕動くはずだったら望みを切り捨ててるようなもんだからダークの判断は正しいんだよ?正しいけど痛かったんだよ?分かってくれる?
心の中でぶつくさ言いつつも当面は倒せそうな魔物を見つけてはレベリングって所かなと目星をつけた。
ダークのステータス見てたら大抵の魔物は大丈夫そうな気もするし。まあ何度も死にかけてる私がこんな甘い見立てじゃ宜しくはないだろうけどね?
片腕戦闘に慣れない最初の方はちょっとくらい甘えさせていただきましょう。
別に、罪悪感とか全然無いしさっ!
…………。
…………。
「…………やっぱりダメか」
「?」
想像してみたら現状まともに戦えるか不明な私には、この子に積極的に戦闘させること自体キツそうだった。しかも奴隷っていう逃げ場が無いような立場の子に無理強いさせるとかさ、倫理的に宜しくないし。
「何がダメなんです……ダメなの?」
おっと、口に出してたか。
ダークが焚き火よりも橙の濃い瞳を瞬かせながら訊ねてきた。今は乾いたローブのフードの陰から覗かれてるから余計に大きな瞳だけが煌めいてる様に見える。
「んー、いやぁ……」
言葉を濁して逃げようと思ったけど、不審に思われるかな。
何か言うことあったっけ……あ。
「君の名前、ダークに勝手にしちゃったからさ……やっぱりダメだったかなーって」
言い忘れてたわ。てかこんな感じで言っちゃ、また怒るかもしれない。
もっと申し訳ないですレベルで平謝りしなきゃ……。
「間違ってないからいいと思う、よ?」
「ん?いや、間違ってる間違ってないとかじゃなくて、あんまり良くない呼び名だと思うし……元の名前もあったでしょ?」
思いの外、淡白にダークが返してくるから調子が狂う。そんなアッサリで良いのか?名前だよ?
「あった。けど、今はダークだし」
「まあ、そうだけど……元の名前教えてくれない?大切だと思うし、いつかお金たまったらつけ直そうかなって」
「別に。大切でも何でもない」
「…………」
いやいや、元の名付け親の願いとか気持ちとかこもってる物が諸々あるでしょうが。
そう返したかったんだけど、ダークの素っ気なさが本当に際立っていて年頃の男の子にある様な単なる見栄に見えなくて言葉が出てこない。
「ご主人が付けだんだから……ダークでいい。あと、君とかじゃなくてちゃんと呼んでくだ……欲しいよ」
う、心が痛い!
この子、ダークでいいって言ってる!
(変更不可の)悪い感じの名前をつけた張本人に呼べと言うなんて。呼ぶ度に罪悪感が……ああ、お前が犯した罪を忘れるなってことか?もしかして見た目怒ってないけど静かに怒ってるってこと?
く、残酷な奴だな。
ま、そんな名前をつけてしまった私のがよっぽど悪だな。甘んじて罰を受け入れようではないか。
「分かった、でもいつか、もっかい名前つけ直す時はちゃんと教えてね?」
「……いいのに」
ダークがツイと視線を投げやりに焚き火に移しながら唇を尖らせた。
でも私の無言の圧力が効いたのか、最終的にコクリと頷いてくれる。
と、そうこう言い合いしてる間にすっかり子供の寝る時間だよね。ダークあんまり眠そうじゃないけど、私は眠いよ。
でもまた眠ってる間にフルーツ探してうろつかれても困るしなー。
そうだ!
「ダーク、どうせくっつくならさ、私の膝の上に座る?」
「…………」
…………。
言ってみて気づいた。
流石に10歳の男の子にとっては恥ずかしいだろ。てか確実に嫌だろ。
「なーんちゃっ……あ、座るんだね」
冗談で済ませようとしたのに。ダークが普通に座ってきたせいで変な感じになったじゃないか。
てか恥ずかしくはない感じなの?私がその年頃の時は正直年上の女の人の膝の上とか超恥ずかしがると思うんだけどな。これは、文化の違いか?
私が若干混乱してる間もダークはじっと私を見つめてくる。もちろん幼児レベルの大きさではないから目線が同じ高さだし、向かい合わせで私の胡座の中に座ってるから密着度と言うかなんというか、全体的な距離が近い。
その上でガン見してこられると……緊張っつうか。
んー顔がなんか暑い?感じするし。自分の心臓が変に存在感を主張する。
とりあえず毛布みたいなマントでしっかりダークが包まれるように片手で格闘してみる。それが逆に気をつかわせたのか、ダークは私の鎖骨当たりに頭を倒して軽く体重を預けてきた。
ま、そのお陰で毛布を被せやすくなったしいいんだけど。
ホントに恥ずかしくないの?まあいいけどね。
「寒くない?」
「…………うん」
なんだ今の間は。それに近過ぎるからわざと音量下げてくれてるぽくて、その分感情が読み取れない系の返しだ。
脚とかはみ出てるのかな?
お、マジで脚はみ出てた。
この子、無駄に我慢するタイプかもしれないなぁ、気をつけないと。
「ダーク、何かして欲しいこととかあったらさ、遠慮なく言っていいんだからね?できる限り尊重するつもりだから、ね?」
「…………歌」
ん?今「うん」じゃなくて「うた」って言った?歌えってことかな。
「えーっと、どんな歌がいいの?」
「ご主人が歌ってた、知らない曲調の……」
まあ異世界の歌だもんね、曲調は違うだろうね。
じゃ無難なブルー〇ーツの列車列車してるやつにするかな。
私が歌い出すと最初のうち、ダークは何度か深呼吸を繰り返して落ち着かない様に身じろぎをした。けど、フード越しに頭を撫でていると次第に落ち着いてきて、小さな寝息が聞こえてきた。
出来心で触った彼の長い耳は、猫の肉球並に触り心地が良い。
人形の様に動かなくなった自分の右腕の感触とは雲泥の差だ。
つねってみたら鈍い痛みは走る。けど、何処か切り離された感覚に近い。
「ホントに、動かないんだ」
小さく息をついて目を閉じる。
長い1日だった。




