落下、堕天、それから
投稿時間遅くなってすみません。
きりが悪くてくっつけようとしたら色々時間かかりました。
息を切らしながら辿り着いた岩山には、ノズとポフォがいた。
そして視線を走らせた先。
エルフの集団がいた。パッと数えた限り5体だ。
エルフは私の方を見て警戒を露わにする。
「ノズさん、約束が違うじゃ、ないですか」
息継ぎの合間に抗議する。
「約束は守ってるぜ。俺はあの奴隷に何もしねぇからな」
「そんな屁理屈が聞きたいわけじゃないんすよ」
本質が守られてないのに、約束を果たしたなんて言うもんじゃない。
私だってよくやる屁理屈だけど、こんな場面で濫用されたくはなかった。
「でもよ、俺の提案であちらさんも納得してくれたんだぜ。お前のやらかしたことも不問にしてくれるようになったんだ」
「そんなこと、一言も頼んでない!」
思わず大声で反射的に叫んでいた。でも、今の私に冷静に受け答えせよって言うのが無理な話だ。
対するノズは飄々と軽い調子で苦笑する。
「俺たちは任務を遂行出来るし、お前ぇだって余計な波風立たせずに本来の活動が出来るじゃねぇか。何なら任務の延長でお前ぇの活動を手伝ってやったっていい。悪い話じゃねぇだろ?」
「その話にあの子が居ないんなら、断るに決まってる」
意見を変える気は毛頭ない。
どんな提案にも、ノズ達が任務の遂行を掲げている時点で乗るわけには行かない。
3秒ほど私の目を見つめたノズは私の意思を読み取ってか、大げさにため息をついた。
「俺としちゃ、何故お前ぇがそこまで執着すんのか不思議だぜ。代わりの奴隷なら、お頭に口利きして何でも譲ってやるからよ、ここは諦めな」
拳を握りしめる。
頭の中、視界の端に、炎がチラつく。思い出したくもない、でも生きている限り私の忘れることの出来ないだろう景色が脳裏に浮かぶ。
「……バッカじゃねぇのか?(命に)代わりなんかあるもんか。ここで諦めてみろ、私はなんで生かされてんのか分かんねぇよ」
低い、地を這うような声が喉から湧き出て来た。
命以上に大切なものなんか無いのに。この世界はそれを否定しているのが気にくわない。
魔王討伐だとか、世界の崩壊だとか心底どうでもいい。
あんな小さなガキの生きる権利を奪おうとする全てが、許せない。全力で止めてやる。
ステータス画面にさっと目線を走らせる。MPはもう残り4しかない。やっぱり最後の最後まで取っておくべきだった。
後悔しながらも、結局頼りになるスタミナ消費の殴打や連打系統を発動させる。出し惜しみなんかする余裕はないから、全部起動だ。全力疾走のツケでスタミナは残り100程度になった。ここであの腐った肉(名前何だったか忘れたけど)でスタミナ回復している余裕は無さそうだし。これで特攻仕掛けるしかない。
んん?
身体から……主に腕あたりから赤い光みたいなんがチラチラと舞ってるんだけど。これ、何?
あと、若干キィィと高音の耳鳴りもする。殴打にこんなエフェクトあったっけ?重ねがけしたらこうなるのか?
ま、どうでもいいか。
私はノズの後ろ、エルフどもを見据える。
と、エルフは怯えた様に身を強ばらせる。そこまでは良かった。きっと威圧当たりが効いてるんだろう。
けど、そのうちの1人が何をとち狂ったか、顔を私の服で包まれたダークの喉元に刃物があてがってきた。
ピキピキと自分の額に青筋が立つのがわかる。
《熟練度が一定値を上回りました。怒気LV3が怒気LV4になりました》
《熟練度が一定値を上回りました。怒気LV4が怒気LV5になりました》
《怒気LV5の発動条件を満たしました。怒気LV5が発動されました》
「その子に手ぇ出してみろ、ぶっ潰してやる!」
私の宣言は多少はエルフにも効果があったらしい。
ピクリとも動かない……いや刃物を持った手先が微妙に動いてるけどダークにダメージを与えれてない状態みたいだ。震えてる感じか?
私、そんな恐怖対象じゃないと思うんだけど、ハッタリでもそうなっているのなら助かる。
そして何故か固まってるノズの脇をスルーしてエルフの方に向かう。
「その子を、寄越して」
「くっ」
ダークの首元に刃を立てるエルフはどうやらこのエルフの中でもリーダー格らしい。額に汗を浮かべながら憎々しげに表情を歪める。
「寄越せってば!」
「やれ!」
「う、うぉぉ!」
「うあぁぁあ!」
リーダー格の掛け声で、半狂乱にも見える顔つきで両脇のエルフが前に出ながら襲いかかってきた。
魔法発動の余裕がなかったからか、弓を構えて矢を射掛けてくる。
幸い、矢は全く痛くない。追い立てられていた時よりも威力がないと言うか、一回の攻撃でダメージが0だ。おかげで自分の身体に当たるのをお構いなしで弓の間合いを潰すことが出来た。
「ひぃっ!」
右側のエルフへ突進し、体制を低くして潜り込んで腹を掌で軽く押した。
ドッ
「ぐふっ」
ドドオッドサッ
やっぱりというか、予想以上にスキルの効果で攻撃力が上がっていたらしい。身体が宙に浮いて吹き飛んでいった。
けど、吹き飛んでいった先を見送るつもりはない。
すぐに振り返って、至近距離で矢を射ようとしてくるもう1体へ構えている弓ごと拳を叩き込んだ。
バキバキッ
「ぐぁっ」
倒れ込むエルフを目の端にとらえながら、もう起き上がってこないことを祈りつつダークを抱えたエルフを追う。
私の戦闘の隙に数mほど離れていた。
「待て!」
つい数十分前までとは真逆の立場になってエルフを追いかける。
リーダー格らしいのエルフを庇って襲ってきた残りのエルフ2体も返り討ちにした。
遂にダークを抱えるエルフのみになる。そいつは岩山の崖を背にして私に向き直った。
「ここまでか!」
「はっ!いいからさっさと渡せよ」
最後の詰めだと、そのエルフへ近づいた。その時、エルフがニヤリと笑った。三日月を象るようなその顔は悪魔そのものだ。
追い詰めたと油断していた。とてつもなく愚かだった。エルフは空を飛べるのに。
捕まえようとした私の手が空を切る。それと同時に、エルフに足をすくわれて自分の身体がバランスを崩し落下し始める。当然だ。勢いよく飛びかかった代償に崖から身を乗り出してしまったんだから。足が崩れれば落下しかない。
崖から落ちると認識するよりも私の手は腰のダガーへと動いていた。
音が思考から消え、視界がゆっくりになって、ただ、自分の息遣いのみが頭に響く。
私の手から離れたダガーは、ゆっくりと、認識する世界で確実にそのエルフへと近づいていく。
でも、神は私を見放したらしい。ダガーは標的としていたエルフの手から外れてダークの顔を覆う布を掠めただけだった。
「くっそぉお!」
私の苦い叫び声と同時に視界が加速し始める。
せめて最後まで睨み据えてやる。この世界を呪う気持ちなら誰にも負けない自信がある。そう思った矢先だった。
バチッ
「んな?!」
エルフの手が弾かれ、ダークも落下を始めた。
どうやらダークの顔に付けていた布が外れて、拒絶スキルが発動したらしい。
身体を落下方向に垂直になるようにして落下速度を緩める。対するダークは気を失った状態で頭から落ちてきている。
「ダーク!」
腕に力を込めて抱きとめる。
強く抱き締めた。もう、離してしまわないように。拒絶スキルに感謝だな。
何とも言えない感情が喉元まで押し寄せる。けど、そうそう感傷に浸っている場合でもない。
私は思考を切り替えて落下の先を見た。
この落下速度ならエルフは追いつけないはず。
それなら下の方の確認が最優先。そう思ったんだけど……。
「川?!」
まだ遥か下の方なんだけど、ドウドウと大量の水が勢いよく流れる川があった。
マジかー。や、まあ地面でもちょっと怪しかったけどさぁ?でもそこは不屈発動させたら何とかなるかなーとか思ってたんだよ。
でも、水って。
超困る。
チラリとステータス画面を見ても殴打が発動中なだけで他に頼りになりそうなものは何も無かった。
これ、詰んでんじゃね?
や、諦めないけどさぁ。確かにチラッと頭に浮かんだ案はあるんだけどね?マジで運だよ。
しかもその後のことは特に何も案はないし……。
もう、ね。とりあえず目の前のことに1個ずつ対処していくしかないよね。
「一か八か、やってやるっ!」
ダークのローブを私の身体に結びつけて、ダークを固定すると川に向き直った。
そして……
「だらららららら!」
ひたすら突きを繰り出した。
や、馬鹿だとか言わないで!私も充分分かってんだから!でも、今の私にはこれしかないんだもん!
必死で攻撃対象『川』にむかって拳を繰り出し続ける。そりゃあもう、ガチで。
いよいよ川との距離も近づいて、水の砕ける音で耳が変になりそうになった時、救いがあった。川の表面が不自然にボコッと凹み出す。
そして水しぶきがかかり始めた頃。
ドパァッ
私の右の拳が川の表面に触れて、水が弾けた。
水に対しての反動で、私の腕から肩にかけてが衝撃で変な方向に曲がる。バキバキと何かの砕ける嫌な音が身体に響いた。HPが一気に減少した。
けど、その代償に身体がふわりと一瞬宙に浮く。
落下の衝撃を緩衝出来たと思うのと、右腕が鈍く痛み出すのと、全身が水に包まれるのとが同時だった。
私は残りの左腕でダークを抱き締める。
水流の荒波に揉まれながら、私達を引き離そうとする水と必死で格闘を続けた。
絶対、離すもんか。
「ゲホゲホッ」
何度目か分からない水を吐き出した時、水流の変化でダークの左頬と私の左頬が触れた。ローブのフードは脱げていて、直接肌と肌が触れ合ったのだと分かる。
その瞬間、パキーンと頭に何かが割れる音が響いた。
《隷属者の状態異常『呪い』が無効化されました》
《呪いが無効化されたことにより隷属者のステータスが変更されます。隷属者のステータスが変更されました》
《呪いが無効化されたことにより隷属者のユニークスキル及びスキルが復旧されます。隷属者のユニークスキル及びスキルが復旧されました》
《呪いが無効化されたことにより隷属者の経験値が復旧されます。隷属者の経験値が復旧されました》
《呪いが無効化されたことにより隷属者に解放された称号が復旧されます。隷属者の条件を満たした称号が解放されました》
頭に響くステータスの文字と同時に立ちくらみのように頭がふらついた。
とりあえず、何かが起こったんだろうけど。
川に揉まれながらでまともな思考の出来る状態じゃない。所々岩にぶつかったのもあるけど一番は低体温のせいだろうか、身体の感覚が徐々になくなってきている。
ダークだけは離さないと、ギュッと抱きしめたのと、身体が宙に浮いたのが同時だった。
「や、流石にこれは……」
私はその原因を認識して苦笑いした。
滝だった。さっきの落下と同じくらいの高低差がある。弱気になるなとか、何とかなるだろとか、そういう次元じゃなかった。
HPはそろそろ100を切り始めたし、スタミナはとっくに10の桁だ。諦めたくなる私はきっと悪くない。
鞄に手を突っ込んであの肉を引っ張り出す。
でも、諦めるってのは、自分の命だ。これでスタミナ回復してさっきと同じ要領で地面を砕けば、きっとダークを助けることは出来る。流石に、私は無理かもしれない。でも、やることに後悔はないから、私の命と引き換えに誰かを助けられるのなら、まだ申し開きもできるだろう。
ごめん壮太、助けに来たつもりが、何もできなかったわ。
真っ黒な肉の塊を口に入れようとした時、口を塞がれた。
左頬にあたる感触が強く押し付けられると同時に声が左の耳元で聞こえた。
「『宙に飛び交う我が盟友よ、汝の恵みをもって我らを纏いて空を行き交う羽となれ』リーブ」
ダークが起きたのかとか、ダークが喋ったのかとか、私の口を塞いだのはダークなのかとか。そういった思考をする前に、小さく、それでいてゴウゴウ唸る大自然の水音や落下する時の風を切る音を押しのけて耳に届く詠唱に聞き入っていた。
だから気づけば地面の上にいた。よく分からないけれど、周囲に巻きおっている風の音が何か影響していることはわかった。
落下の衝撃もなく、フワリと地面に降り立った。
でも、情けないことに脚に力が入らなかった。崩れる様に湿気の含まれた草地の上にしゃがみんだ。
ぼんやりと整理のつかない頭でどこを見るでもなく眺めていると頬の感触がゆっくりと離れる。
私の腕の中から見上げてくるダークも、未だに自身に何があったのか理解しかねているらしい。眉間にシワを寄せていつもの難しい表情を作っている。
それでも、オレンジの瞳には心配の色を浮かべて私から視線を外そうとしない。徐ろに私の口を塞いでいた包帯の巻かれた手が、すっと私の目の横あたりを撫でた。遠慮がちに、腫れ物に触るかのように気づかわしげなその所作で、初めて自分の目の横に出来た傷を認識した。鈍い痛みが濡れた包帯の冷たさで和らぐ。いつ出来たんだろう。
「……ご無事ですか、ご主人様」
やっぱり、さっきの詠唱はダークか。詠唱と同じ声がダークの口から私に向けて問いかけられる。小学生特有の少し掠れて高い音の混じった少年の声だ。
「……ははっ」
私は小さく笑って、文字通り破顔する。
ダークのおでこに自分の額をコツンと当てて目を閉じると、段々と実感が湧いてくる。
生き残った。ダークも、私も。
他なんてどうでもよくて、今はそれだけで嬉しかった。左腕に力を込めて、ギュッとダークの背中あたりのローブを握りしめる。
「とりあえず、様付け禁止な」
「……分かりました、ご主人」
多分誤字あるので修正します。
やっとダークが喋りましたが、色々置いてけぼりなのでそれを回収します。
次回更新は月曜日です。
怒気スキルについては次回触れるしいいかなと思いつつも、一応書いておきます。多分何処かでスキル紹介回を挟むと思います。
怒気LV3:発動中、対戦相手の攻撃力を激減させることがある
怒気LV4:発動中、対戦相手の攻撃力を激減させる。ただし、発動条件を満たした場合に限る
怒気LV5:発動中、対戦相手の攻撃力を1にする。ただし、発動条件を満たした場合に限る




